ロビイスト。

 名称はよく耳にするが、具体的にどんな仕事をするのか熟知する人は少ない。法律を立案する連邦議会を中心に、民間企業や政府・団体から報酬を得て、法案成立(時には否決)に影響を及ぼす人たちのことだ。

 例えば、公害を取り締まるための法案が議会に提出されたとする。法案が通過して法律になると、ある企業にとっては公害対策として設備投資に莫大な費用がかかる。企業はロビイストを雇って法案を潰しにかかる。

 議員への陳情が主な活動だが、トランプ政権が誕生したいま、直接ホワイトハウスに働きかけるロビイストたちがいる。その1人が昨年6月までトランプ選挙対策本部長を務めていたコーリー・ルワンドウスキー氏だ。

F35を大幅値引きさせた男

 同氏は昨年12月、ホワイトハウスから道路1本隔てたオフィスビルに、「アベニュー・ストラテジーズ」社というロビイング会社を設立した。昨年までのトランプ・コネクションを使って、直接様々な交渉をする。

 起業間もない組織だが、ルワンドウスキー氏のもとに大きな仕事が舞い込んだ。ロッキード・マーティン社が米政府に売却する最新型ステルス戦闘機F35の価格交渉である。

 ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)は昨年12月12日、自らのツイッターでF35は高すぎるとつぶやいた。すぐに周囲がざわつき始める。まずロッキード・マーティン社の株価が急落した。

 トランプは再びツイッターで、「1月20日以降、数十億ドルの防衛調達費を削減できるだろう」と記した。米メディアは事実関係だけを伝えたが、背後にどういった動きがあったかまでは報道していない。

 ルワンドウスキー氏が自ら動いたのか、トランプが同氏を動かしたのかは定かではない。だが、同氏がロッキード・マーティン社のマリリン・ヒューソン最高経営責任者(CEO)に面会して価格交渉がスタート。

 そして1月13日、ヒューソン氏はトランプと会談し、F35の製造コストを大幅に圧縮することを告げた。

 結果的に90機分の調達費用を当初の価格より約7億2800万ドル(約820億円)も値下げした。1機あたりにすると9450万ドル(約107億円)で、これまでの調達額としては最低である。

 ロッキード・マーティン側はルワンドウスキー氏が最後まで値下げ交渉にかかわったかのコメントは控えているが、ロビイストとして価格交渉に関与したことは間違いない。

 トランプは選挙中からロビイストが嫌いと公言していた。特定の利益団体やロビイストから一歩距離を置いていた。理由は特定層の有権者や組織から多額の献金を受けると、当選後に見返りを期待されるからである。

 選挙中、「俺は誰の操り人形にもならない」と何度も口にした通り、ロビイストからは巨額の献金を受け取らなかった。そこが既存の政治家と違う点で、トランプ人気の要因の1つでもあった。

 政権発足後、ルワンドウスキー氏のようなロビイストがホワイトハウスに出入りするようになったが、今でもトランプはロビイストが嫌いなはずである。

ロビイストの由来とは

 何しろ、ホワイトハウスの補佐官や高官たちに、「辞めてから5年間はロビイストにならない」という誓約書に署名させているくらいだからだ。だがルワンドウスキー氏は選挙中に解雇された人物であり、その範疇に入っていない。

 ロビイストという名前は19世紀半ば、第18代大統領ユリシーズ・グラントの時から使われ始めた。同大統領はホワイトハウスの近くにあるウィラード・ホテル(現ウィラード・インターコンチネンタル)を頻繁に利用していた。

 大統領に直接利害関与したい人たちは、同大統領がホテルに現れるのをロビーで待った。以来、ロビーでたむろする人たちをロビイストと呼ぶようになった。

 ただワシントンでロビイストと言うと、大多数は連邦議会で議員に影響を及ぼす人たちのことだ。だがルワンドウスキー氏は直接、ホワイトハウスに出入りする。米メディアに語っている。

 「連邦議会でロビイングをしている同業者とは競争しないのです。私たちは直接、トランプ政権と仕事をするからです」

 ロビイスト嫌いのトランプから疎まれないのか。ビジネスウィーク誌の取材に答えている。

 「トランプが忌み嫌うのは、ロビイストが莫大な利益を得る一方で、米国民が不利益になる行為です。企業の目指すものが最終的に政権にとっても有益になることが重要なのです」

 創業間もないロビイング企業だが、すでに10社以上のクライアントがついている。しかもフランスやモロッコなどの外国企業とも関係を持つ。

 と言うのも「トランプ政権は外部の事業者に頼る部分が大きいからだ」(ルワンドウスキー氏)という。トランプ自身、ワシントンの政界には馴染みがないばかりか、連邦政府はこれまで以上に民間の請負業者と多額の契約を結ぶことになるからだ。

 ロビイスト数は2007年の1万4822人から、2016年には1万1143人まで減った。だがトランプ政権になって、ロビイスト数は今後、増える傾向にあるという。

 もちろん日本企業もロビイストを雇える。すでに過去何十年、大手企業や日本政府はロビイストを雇ってきている。

これまでのパターンが通用しない相手

 筆者が1987年、プロの書き手としてワシントンで記事を書き始めた時、最初のテーマがロビイストだった。政府の大物との面会機会を得るだけで、あるロビイストは数千万円も請求していた。逆に数万円で仕事を引き受ける良心的なロビイストもいた。

 先のロッキード・マーティンのような大型案件だけでなく、交渉や情報収集も仕事の1つだ。トランプ政権が誕生してから、あるロビイストのもとには連日、米企業の顧客から多数の電話による問い合わせがきている。

 共通する内容は、日本でも関心がある質問だ。「トランプのツイッターに気を配るべきなのか」、それとも「政権が発表する政策を重視すべきなのか」という内容だ。

 そのロビイストの答えはこうだ。

 「トランプは過去のどの大統領とも違う言動パターンをとるので『これまでは』という言葉は忘れてください。全く新しい戦場に足を踏み入れたと思ってください」

 米企業だけでなく日本や他国にも当てはまるアドバイスであり、トンラプとは今後、柔軟に対応していかざるを得ないということである。

筆者:堀田 佳男