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数年前から欧米では「Bean to Bar(ビーントゥーバー)」と呼ばれる、カカオ豆のセレクトから製造までを自社工房で行うチョコレート専門店が誕生し、一昨年あたりから日本でも見かけるようになった。今回は、渋谷区富ヶ谷にあるビーントゥーバー・チョコレート専門店「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」にお邪魔して、同ブランドを展開するβaceの代表取締役・山下貴嗣氏に同店のチョコレートの特徴や企業の経緯などについて伺った。

――最初に「Minimal」がどんなショップなのかお教えください。

カカオ豆の仕入や選別、焙煎、摩砕、調合、成形までのチョコレート製造工程のすべてを一貫して自社工房で行うチョコレート専門店で、2014年にオープンしました。「Minimal(「最小限の」という意味)」をコンセプトに、「カカオと砂糖だけ」を材料に用いた、素材を活かすチョコレートを製造・販売しています。

――それでは、御社のチョコレートの特徴を教えて下さい。

一般的なチョコレートは乳化剤やミルク、バターなどさまざまなものを「足し算」して味を作り出していますが、我々のチョコレートは「引き算」によって、カカオの味わいをどのように出していくかを追求しています。根本的な考え方が違いますので製作プロセスも従来品とはまったく異なり、そこが味の違いとして表れているのです。

材料となるカカオは15カ国・25地域から調達し、チョコレートの種類は、ナッツ感の強い「ナッティー」、果実味のある「フルーティー」、薫り高い「フェイバリー」という3つのラインに分類し、それぞれ4種ずつの合計12種の中から旬に合わせて7〜8種を販売しています。

――「引き算」でカカオの味わいを出していくというのは?

例えば、ベトナムのカカオは一般的に「質が悪い」と言われていました。なぜなら、土地の発酵菌の影響でベリー系の余計な風味が付いてしまうからです。これまではその酸味がマイナスだったためできるだけ消そうと努力していたのですが、「Minimal」ではあえてその特徴を個性として活かし、土地そのままの風味を楽しめる発酵方法を取り入れるなどして、チョコレートの世界に新たな価値を見いだしました。

そのベトナム豆を使ったMimimalのチョコレートが世界最高峰の国際品評会「インターナショナルチョコレートアワード2016」で最高賞の金賞をとったことはとても大きな自信になりました。

一般的なチョコレートの多くは2次加工品(仕入れたチョコレートの生地を加工したもの)であるのに対して、「Minimal」では産地にカカオの選別・買い付けに出向くだけでなく、農家と一緒に発酵や乾燥まで行っています。カカオの発酵方法については、国内の大学と連携して2年間研究し、どのように発酵させればどんな美味しいチョコレートが作れるのかを科学的に理解していて、それをレシピに活用しています。同じ農園から採ったカカオ豆を分類して発酵方法を変えると、すべて味が変わります。このようなことをしているBean to Barは、世界中を探しても他にないと思います。

また、焙煎に関しても、2次加工メーカーが使うクーベルチュール・チョコレートは通常、工場で150度程度の温度で焼きますが、これは香りを飛ばして豆の味を均一にするためです。2次加工品は「足し算」なので、あとで香料を加えればこれでも問題ないんですね。一般的なビターチョコレートが苦いのはポリフェノールの渋みだけでなく「焦げ」の苦みも含まれるのです。

これに対して「Minimal」では、「シングル オリジン」で豆の種類に合った温度で焙煎しています。発酵菌(酢酸菌、クエン酸菌、乳酸菌)のバランスや種類が国や地域によって異なるので、温度や時間など分単位で変える独自レシピを開発して、風味を調節していますし、摩砕も熱が発生しない凍結粉砕を採用することで、風味が損なわれないようにしています。つまり、「職人さんの勘と経験」に加えて、チョコレート製法に科学を取り入れているところが大きな特徴ですね。

――「現地の農家と一緒に発酵や乾燥を行っている」とのことですが、具体的にはどのようなことをされているのですか?

これまでのカカオ農家は大量生産や質についての議論ができなかったのですが、我々が理論を持ち込み、発酵や乾燥方法によってどのように味が変化するのかを現地の人たちと検証しながら行っています。実は、インドネシアの農家はカカオがチョコレートになることを知りませんでした。そこで、我々が農家に対してチョコレート作りのワークショップを開催し、「カカオからこんなに美味しいものができるんだ」ということを教えます。

その後、PH値と温度を記録させながら発酵によってどのように味が変化するのかを身をもって体験させることで、彼らが何のためにそれをしているのか、どういう状態で発酵できたのかを自分たちでチェックできるようになります。やがて自分たちで美味しいものを作りたいという誇りや独自の工夫が生まれ、それが品質向上へとつながっています。

――板チョコレートのデザインが特徴的ですが、何か意味があるのでしょうか?

欧米でさまざまな板チョコを食べましたが、全部同じ形で分厚いと飽きやすいですし、気分によって食べ方を変えたいじゃないですか。ひと口で食べたいときもあれば、ザクザクかじりながら食べたいときもあります。そこで「Minimal」では、板チョコレートをオリジナルでデザインして製作しています。大きさがバラバラなので、ひと口でたべたりかじったり、あるいは好きなサイズにしたり、シェアしたりできるようになっています。さらに、部位によっては表面にギザギザが入っているため、違った舌触りを楽しめるように工夫しました。

また、パッケージにも拘っていて、密封パックになっています。チョコレートは香りを吸いやすいうえに放出しやすいのですが、これは開封後も再び密封が可能で、チョコレート本来の香りを保持できるようになっています。

――ではビジネス面についてお教え下さい。どのような経緯で「Minimal」を起業されたのでしょうか?

以前勤めていた会社で組織コンサルの仕事をしていたのですが、その頃から「日本という国の競争力って何だろう?」ということを考えていました。素晴らしい技術力がある町の工場がどんどん潰れていくという現状を目の当たりにし、このまま日本の人口が減少しGDPが低下していくので、どのように外貨を稼ぐべきかを考えたところ、日本の資源とは「人」のきめの細やかさだと感じました。

それは、サービス業であればおもてなしですし、伝統工芸であれば技術です。この「きめの細かさ」を品質の良さに転化した製品を作ることができたら、クオリティの差が生まれ、付加価値が生まれて、外貨を稼げる手段だと考えたところから「もの作りに関わりたい」という思いが湧いてきました。

――もの作りの中から「チョコレート」を選んだきっかけは何でしょう?

Bean to Barの存在自体は知っていて、実際にニューヨークのブルックリンにあるBean to Barにも行きましたが、食べてみて「お洒落なパッケージの普通のチョコレートだなぁ」という印象でした。しかし、知り合い(現在のMinimalの製造責任者)のコーヒー店で出されたが出してくれたチョコレートを食べたときに「まるでフルーツをかじってるみたいだ」と感動するとともに、「これは文化になる」と思いました。なぜなら、素材をそのまま楽しめるため罪悪感は少ないですし、「良いものをカラダに入れたい」、「美味しいものを食べたい」という価値観につながります。「素材をそのまま楽しむ文化」というのは日本では和食にも共通しますので、「チョコレートって面白いのでは」と直感しました。

――「ビーントゥーバー・チョコレート専門店」というスタイルにした理由は何でしょう?

世界ではBean to Barがブームとなっていましたが、日本にはまだそういったものがありませんでした。そこで「東京の都心に作りたい」と思いました。なぜなら、ビーントゥーバーが雑誌などに取り上げられる場合、都内の方が取材を受けやすいからです。さらに工房がガラス越しに見えるというのも重要なんです。このようなスタイルで展開したら、ビジネスとしては必ず当たると読んでいました。

――カカオの調達から行っているということですが、何か苦労したエピソードなどがありましたら教えて下さい。

最初はカカオを商社から高い値段で買わなければなりませんでした。飛び込みに近い形で産地に買い付けに行ったところで、なかなか売ってはくれません。買おうとしても、値段を吹っかけられたり、約束どおりに売ってくれなかったり、ひどいときは騙されたりと、何度か痛い目に遭いました。

やがて族長への挨拶など「現地には現地なりの筋の通し方がある」ことを学び、初めて買えるようになりました。今では「良い勉強代になった」と笑い話になりますが、創業当時はこれが悔しくて、商社からしか買えない豆でチョコレートを作るというのは「豆の選別から行っている」と言いながらも、実はカカオのことを本当にわかっていないのではないかと自問自答する日々が続きました。やはり農園へ出向いて直接買い付けるのとは全く違いますね。最初の頃は年間トータルで3〜4カ月は赤道直下にいました。

もうひとつ痛い目にあったのが輸出に関してです。当時は流通に関するノウハウもなかったので、農家からようやく直接買えるようになったものの、今度は港まで持っていくインフラがないんですね。今では輸出の代行業者と仲良くなってやってもらっていますが、当時はそういった業者の存在すら知りませんでした。カカオの現地買い付けや日本への輸出をやっている日本人はいないので、誰も教えてくれないんですよね(笑)

――その後ビジネスはどのように展開していますか?

PR戦略と商品力で支持を拡大しています。広告費は一切使っていないにもかかわらず、創業1年半で1000近いメディアに取り上げて頂きました。欧米で2カ月間、Bean to Barの市場調査をしたのですが、日本でも必ずウケると思っていました。現在では都内に3店舗オープンしています。

おかげさまで、ベトナム産カカオを原料とした「フルーティー」が、世界最優秀のチョコレートを決める世界大会のアメリカ・アジア太平洋予選「インターナショナル チョコレートアワード2016」において、アメリカ&アジア太平洋の国で競う予選大会で金賞、世界大会で銀賞を頂きました。砂糖とカカオだけのシンプルなバーとしては日本のブランドで唯一、受賞しています。

――それでは、今後の展望についてお伺いします。海外での展開などはどのようにお考えですか?

海外での販売は以前一部試みましたが、今は中止しています。なぜなら、販売コストが高く、商品価格の2〜3割ほどしか僕らの手元に入らないため、価格を2倍にしなければ利益になりません。おかげさまで現在は、日本国内でもよく売れているので、わざわざ欧米で展開するのは、ブランディング以上の意味はないと考えています。ただ、外貨をきちんと獲得するという意味でも、将来的には世界市場へ再チャレンジすると思います。

――「Minimal」は精力的に他業種とのコラボレーションを展開していますが、コラボ先はどのような基準で選んでいますか?

自分たちのお客さんと親和性が高いところですね。要するに相互に送客ができるところです。例えば「T.Y. Harbor Brewery」(品川にある醸造所を併設したブルワリーレストラン)さんとカカオの豆から煮だしたビールを造ったり、「Shake Shack」日本1号店(外苑)のコラボが我々だったり、あるいはアパレル関係では「MACKINTOSH」さんとボタン型チョコレートのノベルティーを作ったりと、カッコ良くて、エッジが立っていて、「感度が高く、時間と空間にお金を払う人」が好むところとお付き合いすることを意識しています。

あとは、レストランの有名シェフとのコラボレーションして、材料としてチョコレートを使って頂くこともやっていますね。例えば、「TOKYO Whisky Library」(表参道)では各ウイスキーに合わせたオリジナルチョコレートを提供するといったこともやっています。

――今後、海外展開を再開する場合、欧米かアジアかどちらを狙われますか?

ブランディングとしては欧米に店舗を出すことも考えていますが、どちらに重きを置いているかといえば潜在的にポテンシャルがあるアジアで、そのために市場調査を進めています。アジアに向けて「新しいチョコレートを提供する」というビジョンをしっかり描いています。

Minimalのチョコレートは嗜好品ですが、日本や欧米などの成熟社会がお手本となっているので、アジアでは段階を踏まずに一気にムーブメントを引き起こす可能性があります。日本国内で消費量を増やせば原価コストが下がり、アジア市場でも絶対に勝てると思っていますので、ビジネスチャンスが多い国を見極めている段階です。

――ありがとうございました。

(早川厚志)