写真提供:マイナビニュース

写真拡大

今後の日米関係を左右するものとして注目された日米首脳会談は、トランプ大統領が予想を超える厚遇で安倍首相をもてなし、両首脳が信頼関係を深めたことを印象づけました。安全保障の分野では、尖閣諸島や北朝鮮への対応をめぐり、日米同盟の重要性を確認するとともに、懸念されていた経済問題では貿易赤字や為替などについての対日批判や要求はありませんでした。総合すると、日本にとっては現時点で考えられる範囲でほぼベストの結果に終わったと評価してもいいでしょう。

○安全保障は「日米同盟は揺るぎない」ことを確認

今回の日米首脳会談の結果を分野別に見てみましょう。まず安全保障について、トランプ大統領は選挙中に「米国は日本を守っているのに、日本は米国を守ってくれない。不公平だ」として在日米軍駐留経費の増額を日本に要求し、それが受け入れられなければ米軍の引き揚げもありうると発言をしていました。しかし日米首脳会談後の共同声明では「日米同盟はアジア太平洋地域の平和と繁栄の礎。米国の日本防衛への関与(コミントメント)は揺るぎない」と日米同盟の重要性を強調し、トランプ大統領は記者会見で「在日米軍の受け入れに感謝する」と発言していました。

特に注目されるのが、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であることを共同声明に明記したことです。同第5条とは、日本の施政下にある領域に対し武力攻撃が発生した場合は日米が共同で防衛すると規定している条文です。つまりもし尖閣諸島が武力攻撃を受けるような事態が起きれば、日本ともに米国も防衛に当たることを明確にしたわけです。

実はオバマ政権は2008年の発足以来しばらくこの問題で明確な態度を示さず、安保条約第5条の適用対象と明言したのは2014年になってからでした。今回トランプ大統領は政権発足にさっそく確認しただけでなく、初めて文書にしたという点が重要です。

また北朝鮮のミサイル発射に対しトランプ大統領が「米国は常に100%日本とともにある」と発言したことも、北朝鮮と国際社会に対する強いメッセージとなりました。報道によりますと、当初は安倍首相だけが急きょコメントする準備を始めたところ、トランプ大統領が自分も同席することを提案したそうです。

こうしてみると、全体として日本側が事前に想定していた以上の成果をあげたと言っていいでしょう。今後、中国や北朝鮮が日米同盟の結束を試す行動に出てくる可能性があり、それに対してトランプ大統領がどのように対応するか具体的な行動を見きわめる必要がありますが、共同声明にあるように文字通り「日米同盟は揺るぎない」ことが確認されたことの意義は大きいと言えます。

○経済関係についてはまずまずの結果

次に経済問題です。トランプ大統領は今年に入ってから貿易不均衡や円安などで日本批判を強めていましたが、今回は日本への厳しい要求などはほとんどありませんでした。これも予想以上の成果と評価できます。

当然のことながら、ゴルフの合間など表に出ない議論があった可能性はあるかもしれません。ただ両首脳のあの親密な様子から見て、少なくとも経済問題で対立があったような雰囲気でないことも確かでしょう。

今回の会談では、麻生副総理とペンス副大統領による日米経済対話の新たな枠組みを作ることでも合意しました。これは貿易や投資で日米の関係を深めるための方法と課題について議論する場となるもので、経済問題の具体的なことは副大統領・副総理以下にゆだねられることになりました。いわばトランプ大統領にあまり振り回されないで冷静に議論できる場を作ることにもなるわけです。

TPP(環太平洋経済連携協定)についても日米双方の顔を立てた結果になったようです。共同声明では、「米国のTPP離脱に留意し」とトランプ大統領の方針を尊重しつつ「共有目的の達成に最善の方法を探求する」との表現となりました。トランプ大統領は各国との間で二国間の経済協定の交渉に入りたい考えですが、二国間交渉になると日本としてはTPP交渉で守った農業問題などでさらなる譲歩を迫られる恐れがあるため、すんなりと二国間交渉に応じにくいのです。また日本が米国と二国間交渉を始めてしまうことは他のTPP参加国との足並みを乱すことにもなりますから、その配慮も必要です。このような事情が「最善の方法を探求する」との表現になったのでしょう。

総じていえば、経済関係については「まずまず」の結果に落ち着いたと言えます。

○かつての日米貿易摩擦が教訓に

今回の首脳会談については、世界から批判を浴びているトランプ大統領に近くなりすぎるのは日本にとって好ましくないなどの批判もありました。しかしむしろ安倍首相には、トランプ大統領の政策や体制が十分に固まる前に日米関係の基礎を高めるとの狙いがあったように思われます。そしてその目的は基本的に達したと言えるのではないでしょうか。

ここには、かつての日米貿易摩擦の教訓が生きていると言えます。1980年代から90年代に激化した日米貿易摩擦では、米国から次々に飛び出してくる要求に対し日本は終始受け身に回り、対応が後手後手になった挙句に譲歩を重ねるといった展開になりました。

私は1993年4月の日米首脳会談を思い出します。当時の宮沢首相が訪米し、同年1月に就任したビル・クリントン大統領と初めて会談したのですが、この首脳会談では日米貿易不均衡が最大のテーマとなり、クリントン大統領は日本に貿易黒字削減を強く求めました。そのうえ会談後の記者会見で、貿易黒字削減の具体策として「第一に円高」と発言したのです。

当時はすでに円高が進んでいましたが、この発言で円高に弾みがつきました。記者会見直後に1ドル=112円台と当時の最高値を更新し、その2年後には1ドル=79円台まで円高に突き進んだのでした。

これに対し今回は日本はいち早く先手を打ったと言えます。報道によりますと、安倍首相は日本の自動車輸出は増えておらず米国現地生産を増やして雇用にも貢献していることを説明したそうです。本連載の前号で指摘したように、日米貿易や為替についてのトランプ大統領のこれまでの発言には事実誤認が多いのですが、そうした認識を改めさせる努力を素早く行ったわけです。

また、為替については専門家である財務相同士で議論することや、副総理と副大統領による日米経済対話の枠組みを設置しることを提案したことは、“日本批判封じ”のために事前に準備していたことをうかがわせます。これらこそ、かつての貿易摩擦の教訓に学んだ成果と見ることができます。

かつての日米貿易摩擦には、もう一つ重要な教訓があります。それは日米同盟との関係です。日米貿易摩擦は80年代から起きていましたが、クリントン政権になってからは前述の発言に見られるように、大統領自らが円高誘導発言をするなど、特に激しくなっていきました。その背景にあったのが冷戦崩壊だったのです。90年代に入って冷戦が崩壊したことにより日米同盟の重要性が低下したと考えるようになり、日本を同盟国としてよりも経済的なライバルと見て、本気で「日本たたき」を展開したわけです。

こうした米国の戦略は、バブル崩壊で痛手を受けていた日本経済にさらに打撃を与えたのでした。そのことが日本経済の低迷がその後長期にわたって続く一因ともなったことは間違いありません。

クリントン政権はその一方で中国に急接近し、その後の中国経済の成長に大きく貢献しました。当時、クリントン大統領は中国の江沢民主席と会談のため中国を訪問した際、日本には立ち寄らなかったため、「ジャパン・バッシング(日本たたき)からジャパン・パッシング(日本素通り)」と揶揄されたことがありました。それほど中国に肩入れし、日本を軽視したのです。

つまり日米の間で同盟関係が揺らげば経済関係も悪化し、日本経済にとってもマイナスになることを示しています。日米同盟と日米経済関係は表裏一体なのです。これがかつての日米貿易摩擦のもう一つの教訓です。この観点から言えば、今回の日米首脳会談で日米同盟の強化を確認したことは、日米経済関係の強化と日本経済の行方にとっても重要な意味を持っていることを強調しておきたいと思います。

ただ日米同盟についても経済問題についても、今後のトランプ政権およびトランプ大統領の言動に懸念がつきまとうことは残念ながら事実です。記者会見では「各国の通貨切り下げには不満だ。短期間で公正な条件を取り戻す」と発言しており、今後もまた円安を批判する可能性は否定できませんし、日米関係全般についてもいつまた"ツイッター口撃"が飛び出すかという不安が消えません。経済対話の枠組みについては新設が決まっただけで、具体的なことは今後の議論次第です。場合によっては個別の経済テーマについてこの場で厳しい対日要求が出てくることもあるかもしれません。

トランプ大統領の保護主義的な考え方から判断して、日米経済関係で楽観はできないのが現実でしょう。日本の交渉力が試される場面が出てくるかもしれません。このように懸案はまだ多く残されていますが、今回の日米首脳会談をスタート台にして、今後も日米同盟と日米経済関係がさらに強化されていくことを期待したいところです。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」
オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」

(岡田晃)