『僕と世界の方程式』 (C)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 201

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…前編「天才児をもってしまった母の孤独〜」より続く

【ついついママ目線】『僕と世界の方程式』後編
型にはまった描写せず、イギリス映画に間違いなし!

自閉症スペクトラムの主人公・ネイサンが国際数学オリンピックで金メダルを目指すヒューマンドラマ、『僕と世界の方程式』。自閉症といっても型にハマった描かれ方はしないことに好感が持てる。

しかしながら、ネイサンは昼ごはんは素数の番号と数のこのランチ!と独特のこだわりを持っている。母親はきちんとこだわりに付き合っているが、だからこそときおりイラつきも隠せない。自閉症スペクトラムでなくても、子どもに寄り添っている母親にストレスはつきもの。このイラつきは誰しも共感できるだろうと思う。

『ブルージャスミン』の演技派サリー・ホーキンスが演じる母親ジュリーは女性としても母としても完璧でないところが等身大に感じられ、心を重ねる人も多いはずだ。数学の個人教授をすすめたのにしても、ネイサンに何か箔の付く肩書きが欲しいがためではない。それよりももっとこう、ネイサンが生きやすくなる突破口となるきっかけを模索しているように思えた。

母親はネイサンに何かを強いたり希望を託すというスタンスは取っていない。息子の成長を優しく温かく見守っている。

これは作品自体の姿勢にも言えることで、物語は自閉症児であっても突出した才能を持ってさえいれば成功する、というだけの安易なサクセスストーリーに陥っていない。また、恋愛も登場するが、恋愛でうまくいけば万々歳というすり替えもない。そこがこの作品の大きなポイントで、やはりイギリス映画は間違いがないと確信も持てた。

ネイサンの人生の物語は振り出し前というべきか、これからようやく始まるといったところだ。それはとてもポジティブで希望に満ちたものに感じられた。ラストシーンではこの母親のおかげだと素直に思える。

たとえ距離が縮まらなくても、小さな衝突があっても、そして見返りがなくても母は子どもに惜しみない愛を向けていた。ウマが合う父親のようには、その愛が息子に通じてなくても。

子どもが自閉症であってもなくても、ハンディキャップがあってもなくても、親とはそういうものだと思う。そんな親にとって形では現れていなくても子どもの成長がなによりの喜びだ。初めて感情をあらわにしたネイサンに、成長を感じられて安堵と感動の涙が流れた。

そして、子どもの成長を促す養分となるのはほかでもない親の無償の愛だろう。(文:入江奈々/映画ライター)

『僕と世界の方程式』は公開中。

入江奈々(いりえ・なな)
兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。