トランプ新大統領は就任早々大統領令を乱発して、米国と世界を混乱の渦に巻き込んでいる。大統領になれば穏健な発言や行動をとるかもしれない。そんな期待はかき消されてしまった。

 彼の発言は唯我独尊的なところがあり(独裁と言ってもよい)、経済原理を無視している。メチャクチャ。そんな声も聞こえてくる。

 このままの姿勢を続けると、米国経済だけでなく世界経済全体が低迷する。結局、にっちもさっちも行かなくなって、病気を理由に退陣する。自分から辞めなければ弾劾される・・・。そんな観測も出始めた。

中国は独裁で奇跡の成長を遂げた

 私はこれまで農業からアジアの経済を見てきた人間なので、アメリカ経済についてどうこう言う資格はないが、独裁と極端な自国優先政策は、ある程度の期間であれば、経済に好影響を与えると考える。

 開発経済学では、途上国が経済発展するためには、独裁ではなく民主主義、公平で透明性のある政権、積極的な外資の導入、自由貿易、良質な教育の普及などが重要とされる。

 だが、中国を見てきた者として、この原則は当てはまらないと思う。1989年におきた天安門事件の後、中国に対する海外の目は冷たかった。外資が好んで投資する先ではなかった。

 そんな状況の中で、中国共産党独裁政権は輸出産業を育成しようと考え、自国産業を保護する関税制度や非関税障壁を多数作り上げた。後にWTOに加盟したが、それでも多くの分野に恣意的な非関税障壁が残り、そして今も非関税障壁を作り続けている。自国の産業育成に害になるものは輸入しない。極めて自己中心的。

 教育には熱心だが、質のよい教育をしているとは言い難い。共産党独裁を維持するために記憶中心の偏狭な教育を行っている。自由で伸びやかな思考をする人間を育ててはいない。その結果、改革開放路線に舵を切って40年ほどが経過したのに、14億人もの人間を抱えながら、ノーベル賞受賞者が極めて少ない。中国発の新技術も生まれていない。

 そんな中国が奇跡の成長を遂げた。むしろ開発経済学者の学説に振り回されたアフリカ諸国の方が発展しなかったように思う。

 もちろん、このような見方には多くの反論があると思うが、中国の経済発展を農業から見て来たものとして、独裁的で身勝手な手法は経済発展によい影響を与えると考える。

 独裁は短期的には効率が良い

 トランプ大統領をヒトラーに例える向きもある。

 ヒトラー政権下の経済成長を見てみよう。下の図は、1930年代におけるドイツ、イギリス、フランス、それにソ連におけるGDPの推移である。ヒトラーが政権をとったのは1933年。それから第2次世界大戦が始まる1939年まで、ドイツの経済成長率はイギリスやフランスを大きく上回っていた。年平均成長率はドイツが7.1%、イギリスが2.9%、フランスが1.8%、ソ連が7.2%である。

図 1930年代の各国のGDP推移
単位:10億ドル(1990年基準)、出典:アンガス・マディソン


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49118)

 この奇跡の成長がヒトラーを支えた。経済が好転したために国民はヒトラーを支持したのだ。

 同時期にソ連も奇跡の成長を遂げているが、それはスターリンの独裁が行われていた時期にあたる。スターリンは自らの政権基盤を固めるために多くの人々を処刑したのだが、そんな時代に経済は奇跡の成長を遂げている。

 ここに示したのは少数の例に過ぎないと言ってしまえばそれまでだが、独裁は短期的には効率が良いようだ。トランプ大統領を非難する人々は、いまにも経済が崩壊するようなことを言っているが、移民の禁止や、気ままに関税を引き上げることは、中長期的には悪影響があっても、短期的には国内を活性化させる可能性が高い。

 中国の奇跡の成長は共産党独裁下で20年以上も続いた。ドイツは6年の高度成長の後に戦争に突入してなにもかも失ったが、ソ連はドイツとの戦争に勝利したために第2次世界大戦後の冷戦において一方の雄になることができた。その遺産はプーチンが相続している。

 歴史が教えるところによると、独裁によって経済がすぐに悪化し国力が疲弊することはない。もちろん1930年代のドイツやソ連、そして開発途上国である中国と、米国は大きく異なる。だから、過去の例をそのまま米国に当てはめることは危険だが、欧米の高級紙でも方向感をなくした論評しかしなくなった現在、歴史を振り返って考えておくことも重要だろう。

心配すべきなのは中長期への影響

 筆者はトランプ大統領の政策が極めて短い期間に行き詰まることはないと考える。そして、多くの人がそう考えるから、ニューヨークダウ平均もそれなりの高値を維持しているのだろう。

 心配すべきことは中長期への影響である。ヒトラーは独裁を始めてから6年後に戦争を始めた。スターリンは独裁を維持することに成功し、日本流にいえば畳の上で生涯を閉じたが、その残した体制は1970年頃になると成長できなくなってしまい、自滅した。そして、奇跡の成長が続いた中国も共産党独裁が生んだ不動産バブルと国有企業の改革が難しいことに苦しみ始めている。その繁栄が長続きするとは思えない。

 以上のように考えてくると、トランプの大統領がそれなりに成功し、それによって米国民に支持されるケースが最も危険である。そんな時代がしばらく続くと、現代は時間の流れが速いから数年後、あるいはそれよりも早く、リーマンショックのような形の崩壊に遭遇するかもしれない。取沙汰される米中戦争が起こる可能性だってある。

 極端な政策によって米国経済が少々好転するとしても、米国民がそれに惑うことなく、早めにトランプ路線を修正することを祈るばかりである。

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筆者:川島 博之