開幕スタメンが見えてきた廣永。昨季までは第3GKに甘んじてきたが、プレシーズンではチームの怪我人が増える一方で急成長を遂げて存在感を増してきた。写真:中野香代(紫熊倶楽部)

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 2月12日、サンフレッチェ広島はFC東京と練習試合を行ない、0-0のスコアレスドローに終わった。
 
 FC東京も広島も、互いに練習試合はここまで全勝。ただ現実の仕上がりでいえば、「FC東京も連係面でまだまだ。ウチの方も、細かい部分をもっと詰めないといけない」という工藤壮人の言葉がすべてだろう。引き分けという結果は、内容から見ても妥当だったと言える。
 
 広島視点で見れば、ボールを握ってはいたが「もっと崩せた」「点もとれた」という印象。今のコンディションや連係では森重真人、丸山祐市、林彰洋というJ屈指の守備陣から得点を奪うことは難しい。
 
 前半は「3人目の動き」から稲垣祥の決定的なシュートを生み出し、後半には高橋壮也のクロスに茶島雄介が飛び込んだ決定機もあった。だが、チャンスはいずれも単発。青山敏弘やフェリペ・シウバのパスから「あわや」という状況は生み出せても、ラストパスやクロスが引っ掛かってしまい、シュートまで持ち込めなかった。
 
 確かに、離脱者の多さがチームの現状に暗い影を落としていることは否めない。林卓人、森粼和幸、柴粼晃誠、佐々木翔、そしてアンデルソン・ロペスは開幕戦のピッチに立つことが厳しい状況。FC東京戦を欠場したミキッチや宮吉拓実は宮崎キャンプ中に戻れる可能性もあるが、いずれにしても難しい状況にあることには変わりない。
 
 特にGKの現状には不安を残す。昨年まで絶対的な存在として君臨していた林の負傷に加え、セカンドGKとして支えてきた増田卓也の長崎移籍(期限付き)。岡山から6年ぶりに復帰した中林洋次はGKからのポゼッションという広島サッカーへの回帰に苦しみ、コンビネーション不良からの失点を重ねている。
 年代別の常連であり、未来の広島を担う大器・大迫敬介(広島ユース)という存在もいるが、現実的な選択肢は昨年までの第3GKだった廣永遼太郎となるだろう。
 
 廣永の成長は、誰もが認めるところ。「GK陣の中でナンバー1」(下田崇GKコーチ)の足もとの技術の高さに加え、シュートストップ力も向上した。バンコクで行なわれたトヨタプレミアカップでは、タイ王者・ムアントンの決定的なシュートを止めまくり、日本勢としては2チーム目となる優勝に大きく貢献している。
 
 FC東京戦でも、守備陣のミスから招いた決定的なピンチを落ち着いたポジション取りで相手のシュートミスを誘うなど、彼の存在が完封劇の原動力であったことは疑いない。
 開幕スタメンが現実味を帯びてきた廣永だが、決定的に経験が足りないことも事実である。広島でのプレーは今年で3年目を迎えるが、公式戦でプレーしたのはトヨタプレミアカップが初めて。J1の舞台にはまだ立った経験がなく、J2でも16試合の出場にすぎない。
 
 確かにどんな大選手にも「初めて」は存在するが、誰もが緊張する開幕戦で果たして平常心が保てるか。ムアントン戦でも開始当初はボールが足につかずにミスパスを連発し、決定的なピンチを何度も招いた。能力に対する期待と経験値への不安が混じり合っているのが現状だ。
 
 宮崎キャンプを視察したジャーナリストの誰もが「素晴らしい」と称賛した新戦力のフェリペ・シウバと工藤壮人との連係が合ってくれば、昨年のようなサイドからの突破に頼らなくても、中央から相手を崩せる。
 
 一方トップ下ではU-20世代の森島司、サイドでは今年で21歳になる高橋が台頭し、若者たちの息吹も感じさせた。青山敏弘や柏好文、そして千葉和彦の状態も昨年同時期より確実にいい。攻→守に切り替わった瞬間にリトリートするのではなく、アグレッシブなプレスを仕掛けるやり方も、連動性が高まってきた。
 
 期待は高まる。が、やはり負傷者増大の不安を拭えない。特に最後尾のGKは、広島にとって攻守の要。開幕まで廣永がどこまで自信をつけ、まだ公式戦で一度も立ったことのないエディオンスタジアム広島のピッチに臨めるかどうか。少しでも不安を軽減するためには、開幕までに残された岡山、山口とのふたつの試合で結果を残すしかない。
 
取材・文:中野和也(紫熊倶楽部)