「自分やJリーグにいる韓国のGKが活躍することで、JリーグやKリーグが盛り上がり、サッカーの技術面の成長にもつながると思う。その中で、自分たちが何をどう頑張っているかをプレーで示したい」

 2016年シーズンのJ1年間チャンピオンに輝いた鹿島アントラーズの新体制発表会見でそう語ったのは、昨年のアジアチャンピオン(ACL優勝)全北現代モータースから加入したGKクォン・スンテだ。


昨シーズン大活躍した、川崎のチョン・ソンリョン。クォン・スンテもそれに続くか 現在32歳のベテランGKは、2014年から3年連続でKリーグクラシック(1部)ベスト11を受賞したほか、韓国代表としては、現在行なわれている2018年ロシアW杯・アジア最終予選のメンバーにも名を連ねている。鹿島には2001年以来、長きにわたってゴールマウスを守り続ける37歳の守護神、曽ヶ端準が君臨しているが、その牙城を崩しそうな即戦力が加わることになった。

 これにより、今シーズンのJ1では18チーム中5人の韓国人GKがプレーすることとなったわけだが、このクォン・スンテ以外の4人は、いずれも昨シーズンに正GKを務めた実績の持ち主だ。チョン・ソンリョン(川崎フロンターレ)、キム・スンギュ(ヴィッセル神戸)、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)、そしてク・ソンユン(コンサドーレ札幌)といった面々である。

 中でも、現時点で韓国代表正GKを務めるキム・スンギュは、鳴り物入りで神戸に加入した昨シーズンにファインセーブを連発し、強烈なインパクトを残した。同じく川崎のチョン・ソンリョンも、川島永嗣が去って以来、なかなか固定できなかった川崎の新守護神として高いパフォーマンスを披露。韓国代表でキム・スンギュとポジションを争うだけの実力を証明してみせた。

 C大阪のキム・ジンヒョンも現韓国代表メンバーであり、札幌のク・ソンユンは昨年のリオ五輪で韓国のベスト8進出の立役者である。要するに、現在の韓国サッカー界におけるトップレベルの5人のGKが、奇しくもJ1の舞台で顔を揃えることになったのだ。これは、「韓国人GKブーム」の到来と言っても過言ではない状況といえる。

 なぜ、これほど韓国人GKがJリーグで重宝されているのか? その背景には、外国人枠として2009年から新設されたAFC枠(通称アジア枠)と、近年における日本人GKの駒不足問題が深く関係しているとみていいだろう。

 まず、それまで基本的に3人までとされていた外国人枠(そのほか、日本で教育を受けた外国籍選手、アマチュアおよびプロC契約選手は別途2名まで登録可能)に、プラス1名のアジア枠が設けられた2009年当時、Jリーグでプレーしていた韓国人GKは、その年からC大阪(当時J2)に加入したキム・ジンヒョンぐらいだった。基本的に、多くのクラブはアジア枠をフィールドプレーヤーに適用する考え方が主流だったからである。

 ところが2014年、その考え方に一石を投じる事態が勃発する。それが、サンフレッチェ広島のGK西川周作の浦和レッズ移籍に端を発した、JリーグGKの「玉突き移籍現象」だ。

 2013年シーズン終了後から繰り広げられたGK争奪戦では、西川の移籍により広島が林卓人を仙台から獲得。また、ガンバ大阪がアルビレックス新潟から東口順昭を獲得すると、それに押し出されるようにG大阪の藤ヶ谷陽介がジュビロ磐田に移籍。磐田の川口能活はFC岐阜に新天地を求めた。

 そのほか、サガン鳥栖が清水からレンタル移籍でプレーしていた林彰洋を完全移籍で獲得し、西川が加入したことで浦和のベテラン山岸範宏はモンテディオ山形に移籍。これらGK玉突き移籍の影響はJ2クラブにまで広がり、以降もJリーグ内ではパズル合わせのようなGK移籍が続くこととなったのである。

 しかしこの現象は、裏を返せば日本人GKの駒不足、育成の遅れを露呈するものとして受け止めることができる。実際、各クラブは次第に国内でのパズル合わせに限界が生じていることを認識し始め、GKのポジションに外国人枠を使うようになった。その旗印となったのが、2015年に磐田に加入したポーランド人GKカミンスキーである。

 カミンスキーはほかのGKとは次元の異なるプレーで、当時J2だった磐田のJ1昇格に大きく貢献した。GKというポジションがいかにチーム強化のために重要であるかをJクラブのフロント陣に再認識させたと言えるだろう。1ゴールを奪うことと、1ゴールを防ぐことは、イコールの関係なのである。

 とはいえ、ヨーロッパから優秀なGKを日本に呼び寄せるのは容易ではない。そこで各チームが目をつけたのが、お隣韓国のGKだった。韓国Kリーグクラシックでは、ルール上、GKに外国人選手を使えないという事情も手伝って、GKが育ちやすい環境がある。しかも、近年はリーグの人気低迷により選手の年棒が下降気味で、選手の海外志向が高まっている。Jリーグのクラブにとっては、うってつけのターゲットだった。

 こうして、従来通り3つの外国人枠をフィールドプレーヤーに使い、アジア枠をGKに使うというトレンドが完成。需要と供給の関係が見事にマッチしたというわけだ。

 しかしその一方で、この傾向を手放しで喜ぶわけにはいかない事情もある。このままでは、日本人GKが育ちにくい環境に拍車がかかってしまうからだ。

 去年の10月、日本代表のハリルホジッチ監督は、6人の候補選手を招集して3日間のGK特別合宿を行なった。もちろん、たった3日間の合宿でレベルが上がるわけではないが、せめて代表候補のリスト上にいるGKには、危機感と何らかのメッセージを伝えたかったのだろう。

 正GKがチーム数と同じ数だけしか存在しないことをふまえれば、現在の韓国人GKブームと日本人GKの駒不足問題は、まさに表裏一体だ。勝利を求めなければならない各クラブの事情も理解できるが、同時に、日本サッカー界としてこのまま手をこまねいていていいのかという疑問も生まれる。

 事態は、日本サッカー協会が本腰を入れて対策を打たなくてはならないところまできているのかもしれない。

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