「彼に“寝言すごく言ってたよ”と言われ、気になっています。もしかして何かヘンなこと言ってるのかも……? 気になって、熟睡するのがちょっと不安です」と、メーカー勤務の東條みどりさん(仮名・31歳)からのご相談です。寝言が気になって眠れない、となると快眠を妨げることになりかねません。寝言不安を解消しましょう!

寝言と夢の内容は関連あるの? 

人はなぜ寝言を言うのでしょうか? 実は、寝言のメカニズムはよくわかっていないのです。夢の内容に反応して寝言を言っていると考えられているようですが、それもまったく推測の域を出ていない話です。

一般的に、寝言はレム睡眠(体は弛緩しているが、大脳は活動している状態。これに対して大脳も活動していないのがノンレム睡眠)の前後に出ることが多いようです。目覚めた後に、「昨日こんな夢を見た」とか「内容は覚えていないが夢を見たことは覚えている」といえるような夢は、朝型に出現するレム睡眠中に見た夢の可能性があります。しかし、そもそも夢を見るメカニズムもわかっていないので、夢と寝言の関係は不明です。

明らかなことは、脳が意識して寝言を言っているわけでないということです。つまり、本人にとってまったく意識していないこと、関係のないこと、つじつまの合わないことが寝言で出てくることも普通にあるわけです。ですから、パートナーの寝言の内容に「んんん?」と思うことがあっても、責めないようにしましょう。意識しているから、思い入れが強いから寝言にまで出てしまった、と決めつけるわけにはいきませんからね。

ひとつ、寝言でわかっているのは、遺伝的要因が強いということ。寝言が出やすい人と出にくい人がいるのです。実は、私の家人がかなり寝言を言います。それもとても面白い寝言を言うんです。メモっておきたくなるぐらい面白いのです。しかし翌日、本人に寝言でこんなことを言ってたよと教えてあげると、本人はまったく覚えていないのはもちろん、内容も本人にとって意味不明だったり、取るに足らないことだったりします。おそらく彼の寝言は、遺伝的要因から来ているのだと思います。つまり、本人にとってもあずかり知らぬことをつぶやいているのです。

大声や大笑いが続く場合は要注意

ただ注意が必要な寝言もあります。「ワーッ!」と叫んだり、「ハハハッ!」と大きな声で笑ったり、あるいは「何やってんだよ!」と怒り出すような寝言です。これは「レム睡眠行動障害」という非常に危険な病状の前兆である可能性があります。

レム睡眠行動障害とは、レム睡眠中に本来なら動かないはずの骨格筋が動いてしまい、体が動いてしまう症状です。いわゆる夢遊病といわれる病気に近いのですが、もっと深刻なケースもあります。おそろしいのは、本人はまったく覚えていない、意識していない行動をすることです。

夢を見ている可能性が高いのですが、たとえばパラグライダーの夢を見ていたとき、本人が実際に窓の外にジャンピングして肋骨を骨折してしまった、夢の中でボクシングをしていた男性が、隣に寝ている奥さんをボコボコに殴り続けてしまったなど、極端な例ですが、症例もあります。もしパートナーが寝ている間に大声で怒鳴ったり、笑ったりという異常な寝言が多いと気づいたら、一度、睡眠の専門医を訪ねたほうがいいでしょう。

ひとり暮らしで寝言に気づく機会がない人は、朝起きて部屋の様子が寝る前と違うことに気がついたら注意してください。たとえば、身に覚えのない物が散らかっているとか、閉めたはずのカーテンが開いているとか。あるいは体の異変、手に怪我をしているとか、喉が涸れているとか。大声で叫んでいた可能性もなくはありませんから。もし気になる点があれば、ボイスレコーダーなどを使って睡眠中の音を録音してみましょう。

最後にもう一度。寝言と現実の世界は関係がないということを覚えておいてください。ちなみに寝言に返事をしてはいけないという言い伝え(?)には何の根拠もありませんので、ご安心を。

寝言の内容に深い意味はありません。安心してね。



■賢人のまとめ
寝言は本人の意志とは関係ないので気にせずに。ただ大声や怒声、大笑いが続く場合は要注意です。

■プロフィール

睡眠の賢人 友野なお

睡眠を改善したことにより体質改善に成功した経験から、睡眠を専門的に研究。
科学でわかるねむりの環境・空間ラボ主宰。著書に『やすみかたの教科書』(主婦の友社)など。