愛媛マンダリンパイレーツ・河原純一監督【写真:編集部】

写真拡大

1年間で数万球が無駄に―、意識次第で「絶対に差がつく」キャッチボールとは

 日本野球界のトップに位置するプロ野球。白球を追い始めたばかりの野球少年から、高校、大学、社会人とさまざまなカテゴリーで、多くの選手が最高峰を夢見てプレーしている。そうは言っても、トップの舞台に立てるのは、ほんのひと握り。では、プロとアマの野球選手の両者を隔てる決定的な差とは何なのだろうか。

「一番は『意識』じゃないかと思います」

 そう話したのは、四国アイランドリーグ(IL)plusの愛媛マンダリンパイレーツ・河原純一監督。1994年に巨人でドラフト1位で入団し、2002年に守護神として日本一の胴上げ投手となった名投手である。

 今季から監督を務める愛媛は独立リーグに位置づけられるが、「分類上、プロ野球選手なだけで、レベルはプロ野球選手ではない」と分析。実際、大学から社会人野球に進めなかった、またはチームで出場機会を得られなかった選手がNPB入りを目指してやって来るケースが多い。「大学や社会人、甲子園に出るような高校生の方がレベルは高い」という指揮官の言葉通り、プロとアマの差があると言っていいだろう。

 意識が違う――。果たして、どの部分に差は表れるのか。具体例として挙げたのは、練習の「いろはのイ」だ。

「例えば、キャッチボールです。『キャッチボールは相手の胸に投げなさい』というのは小学校で教わるもの。プロの選手たちは口には出さないけど、意識として、しっかりとしたフォーム、タイミング、回転で胸を狙って投げる。僕は引退するまで、キャッチボールは、そう投げるものと思っていた」

 投手としてはピッチング練習の基本中の基本。だからこそ、1球でも逸れたりすれば、深刻にとらえたという。

「狙っているのに逸れるのは『この部分が悪かったからだ』と考えて、2球目は気にしながら投げる。そうしたら、ちゃんと相手の胸にいく。その繰り返しです。プロ野球の一線でやっている人たちは無意識の中にそうなっている。悪いものを悪いままで放置しようなんてことはないですから」

 翻って、独立リーグではどうか。

現役時代に受けた衝撃とは…

 河原監督は在籍していた中日を2011年限りで退団後、現役続行の道を求めて38歳で愛媛に入団した。NPBの第一線で17年間プレーした右腕は、練習初日に衝撃を受けたという。

「全員がそうかはかわかないけど、キャッチボールで相手の捕れるところに投げているから問題ないという人もいるように僕には見えた。ワンバウンドしたり、高く抜けたりした暴投は見るからに変な球だから気にする。でも、胸から多少逸れたって相手が捕れているところであればOKと深刻に受け止めてない」

 驚いたのは、プロ野球選手としての「当たり前」に差を感じたからだ。

「プロに10何年もいたから、僕も当たり前、周りを見渡してもそれを当たり前のようにやっているから、みんなが同じ気持ちでやっているんだと思っていた。それに特別な気持ちはない。でも、愛媛に来た時に『あ、違うんだ。みんながそうじゃないんだ。適当なんだ』と。それを感じることができたのは、プロ野球の選手の感覚に麻痺していたんでしょう」

 とはいえ、キャッチボールは本格的な投球練習ではない。ブルペンや実戦練習で調整すればいいのでは? そんな疑問も浮かんでくるが、河原監督は「そこの差が大きいんです」と首を横に振り、力説した。

「キャッチボールで、突き詰められる人と『まあ、いいじゃないか』と考えてしまう人の差。キャッチボールは1日100球とか、投球練習より多い球を投げる。それをおろそかにしていたら、1年間で数万という球数を無駄にすることになる。その数万をしっかり自分で意識を持っていたら、絶対に差がつくでしょう」

 キャッチボールへの取り組み方ひとつで、成長の機会は大きく変わってくる。その意識付けは、プロに入団する前から差があるようだ。「プロ野球選手にはそういう備えの意識を持って入ってきている子が、ここにいる子と比べたら多いと感じる」。河原監督はそうと分析する。

基本の徹底…その礎となった名将の教えとは

 キャッチボールに象徴されるように、大事にしている基本の徹底。その教えの礎となったのは、駒大時代の恩師である太田誠氏の指導だ。中畑清(前DeNA監督)、森繁和(現中日監督)、野村謙二郎(元広島監督)、高橋尚成(元巨人)、新井貴浩(現広島)ら、そうそうたる名選手を育て上げたアマチュア野球界の名将の教えが、自身の「軸」になっているという。

「野球のプレーよりも日常生活での姿勢を厳しく言われた」と回想し、基本の大切さを説いた。

「もちろん、リーグ戦の優勝という結果は求めていたけど、グラウンド以外の部分での挨拶、掃除、または試合に臨むまでの過程、練習に臨むまでの過程をすごく大事にしていた。結局、それが何よりも大切なことで、野球につながっていくということだと思うんです」

 指導者1年目の新米監督。それでも、球界の盟主・巨人で日本一を味わった44歳は「1年目ということは選手には関係ない。持っているものすべてをぶつけたい」と思いは熱い。

 最後に、河原監督のもとでNPBを目指しながら懸命に汗を流すナインへの思いを明かしてくれた。

「僕もいつからか思うようになったんだけど、みんな好きで野球をやっているわけで、好きなことに対して一生懸命にできなかったら、おそらくこの先、何も一生懸命にできることはないと思う。ましてや、これから野球を辞めて社会に出ても、好きなことをやって生きていける人はほとんどいない。今はまだ好きなことにチャレンジができている時なのだから、その時くらい一生懸命になってほしい」

 力を込めた言葉は、独立リーグでプレーする教え子たちだけでなく、プロ入りを夢見て白球を追うすべての選手への共通するメッセージに聞こえた。キャッチボールの1球を大切にするように――。「当たり前」を一生懸命に取り組むことが、プロとアマの差を乗り越えるためのカギとなるのだろう。