『福島第1原発』

 原子力事業で窮地におちいった東芝に、事業再生する上で新たな壁が浮上している。来年7月に期限を迎える「日米原子力協定」だ。

 東芝の原子力事業が抱える損失は、海外事業を手がけるグループ会社・米ウエスチングハウス(WH)がおこなった企業買収の失敗で、最大7000億円規模に膨らむと報じられている。

 同社はこの巨額損失を穴埋めするため、もう一つの柱である半導体事業を分社化し、国内外の投資ファンドや企業に出資を呼びかけるなど、資金繰りに躍起だ。

 そんな東芝に立ちはだかりそうなのが、1988年に結ばれた日米原子力協定である。協定は「原子力の平和利用」を目的に、日米両国の原子力分野の技術協力を約束している。

 協定は「核不拡散」の立場から、核兵器の製造につながりかねない核燃料の濃縮や使用済み核燃料の再処理施設を規制している。同時に、日本はこの協定によって、商業利用に限り、こうした施設を持つことが許されているのだ。

 つまり、原子力ビジネスを進める上でのベースになっており、協定を無事に更新できるかどうかは原子力業界にとって死活問題なのである。

 あるエネルギー業界関係者はこう説明する。

東芝がWHを邪険に扱い、米国の怒りを買うようなことになれば、協定を更新できなくなる恐れもあります。もしそんなことになれば、日本は原発を動かすことができなくなってしまいます」

 WHは、高速増殖炉「もんじゅ」のように、協定の影響を直接的に受けるわけではないから、東芝が手放すことは可能である。しかし、前出の関係者はこう指摘する。

「片方で『協定を続けてくれ』と言いながら、もう片方で『WHはもういらない』などと単純に割り切れるものではありません。米国から見たら、ご都合主義に感じる可能性もあるためです。日本側も、外務省はそれほどではないにせよ、原子力政策を所管する経産省は今の政策の枠組みを続けられるかどうか気をもんでいるはずです」

 トランプ大統領は、米国の企業や雇用を大事にする姿勢を鮮明にしている。そのため資金繰りに困った東芝が、原子力技術をのどから手が出るほど欲しがっている中国企業にWHを売り渡すようなことは、簡単にはできないのだ。

 東芝は2月14日に記者会見を開き、綱川智社長が原子力事業の損失について説明する予定だ。(ジャーナリスト・池田正史)