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今年、スズキが自動車業界の鍵を握るかもしれない。昨年末、全面改良モデルとなる新型「スイフト」が発表され、今月には「ワゴンR」もフルモデルチェンジして登場。さらにトヨタとの提携に向けた覚書が締結された。

○新型「ワゴンR」でストロングハイブリッドに肉薄する燃費性能を実現

スズキはこれまでにも革新的なモデル、歴史を変えるモデルをいくつも世に送り出してきたメーカーだ。しかし、その割には「技術力が凄い」というイメージはあまりないのではないだろうか。「商品企画がうまい」「ユーザーの嗜好を読み取るのがうまい」「自動車づくりがトータルでうまい」というイメージはある。しかし、技術力といわれるとどうか……という感じだ。

しかしこのところ、そんなイメージも払拭されつつある。わかりやすいのは低燃費技術だろう。今月発売された新型「ワゴンR」では、JC08モード燃費33.4km/リットルを実現した。軽自動車はコストなどの問題から、「プリウス」や「フィット ハイブリッド」のような本格的なハイブリッド(ストロングハイブリッド)を採用できないが、スズキは独自のマイルドハイブリッドでこれに対抗。車両価格や室内スペースにほとんどマイナスの影響を与えずに、ストロングハイブリッドに肉薄する燃費性能を実現した。

マイルドハイブリッドは従来のエンジンの発電機(オルタネーター)をモーター機能付発電機「ISG」に置き換え、減速時に発電、加速時にエンジンパワーをアシストする。スズキはこれを「エネチャージ」と呼び、さらに効率を高めるためのリチウムイオンバッテリーを追加したシステムを「S-エネチャージ」と呼んでいる。ただ、新型「ワゴンR」ではこうした名称は使わず、単にマイルドハイブリッドと呼称しているようだ。

エネチャージが初めて発表されたとき、あまりにもシンプルすぎるしくみにびっくりした、もっとはっきり言えば、これで効果があるのかと否定的に見てしまった人もいるのではないだろうか。正直に言えば、筆者にもその思いがあった。

しかし、新型「ワゴンR」に搭載されたマイルドハイブリッドでは、限定的とはいえ、モーターのみによる走行さえも可能となり、なにより軽ハイトワゴンナンバーワンの燃費という結果を出した。ちなみに、ライバルたちの燃費はダイハツ「ムーヴ」が31.0mk/リットル、ホンダ「N-BOX」が25.6km/リットル、三菱「eKワゴン」が25.8km/リットルとされており、「ワゴンR」の突出ぶりが目立つ。

しかも、ストロングハイブリッドには「燃費はいいが価格が高い」というジレンマがある一方、「ワゴンR」のマイルドハイブリッド搭載車はライバルと比較してもとくに価格が高いわけではない。きわめてシンプルなシステムはスズキらしく、名より実を取ったものものだと気づかされる。

○新プラットフォーム採用、軽量化でも技術力を見せつけるスズキ

もうひとつ、スズキの技術力を示しているのが、新プラットフォーム「ハーテクト」だ。昨年末に発表された新型「スイフト」では、この軽量・高剛性を両立したハーテクトを初めて採用し、先代モデルより120kgもの軽量化を果たした。ハーテクトを採用した第2弾モデルとなる新型「ワゴンR」も20kgの軽量化を果たしている。

これらの軽量化は、プラットフォームの軽量化と、さまざまなパーツごとの軽量化の相乗効果として達成されたわけだが、いずれにしても、すでに相当な軽量化の努力がなされている先代モデルから、アルミなどの高価な素材を使わずに、ここまでの軽量化を果たしたのは驚嘆に値する。

軽量化は燃費や走行性能を向上させるために最も効果的だが、ごまかしのきかない難しい技術ともいえる。スズキは以前から軽量化に最大限の努力を払ってきた。1998年に現在の軽自動車規格がスタートしたとき、この規格に合わせて新規に設計された「Kei」の最も軽いモデルは車重660kg。「Kei」と同じく新規格に合わせて新設計されたホンダ「Z」は960kgと、信じがたいほどの差があった。同じく新規格に対応したダイハツ「ムーヴ」は780kg、ホンダ「ライフ」は800kgだったから、「Kei」が突出して軽かったことがわかる。

「Kei」にはとくに目新しい技術が使われていたわけではないが、ヘッドレストのシャフトを中空パイプにするなど、ネジ1本までこだわって軽量化を施し、トータルで大きな軽量化を達成していた。こうしたノウハウの蓄積が新型「ワゴンR」にも生かされ、衝突安全性を高めハイブリッド用バッテリーを搭載しながら、「ハイブリッドFX」(2WD)において車重770kgを実現している。

○いまや巨大メーカーとなったスズキ、トヨタと提携する事情とは

こうした技術力を再確認すると、スズキもまた、マツダやスバルのように小さいながらも技術が光るメーカーという印象を持った人も多いのではないだろうか。しかし、その認識はちょっと間違っている。スズキの企業規模は小さくなどない。2015年の国内販売台数は軽自動車・登録車を合わせて63万6,366台。これはトヨタ、ホンダに次ぐ第3位の数字であり、日産自動車を上回っているのだ。

世界販売で見ても、スズキは300万台前後を販売しており、世界中のメーカーを含めたベストテンに入っている。ちなみに海外において、日本のマツダやスバルのような、規模は小さいが人気やブランド価値が高く、影響力が大きな自動車メーカー・輸入車メーカーとしてボルボやジャガー・ランドローバーなどが挙げられるが、これらのメーカーの世界販売はほとんど100万台に満たない。

また、世界的に自動車メーカーのグループ化が進み、販売台数の上位を占めるのはこうしたグループがほとんどのため、余計にスズキの健闘ぶりが際立つ。単独メーカーで世界販売ベストテンに入っているのは、米国のGM、日本のホンダ、それにスズキくらいだといえる。

そのスズキは今月、トヨタとの業務提携について発表した。これに関して、EVやFCV、それに自動運転といった環境、安全技術を単独で開発できないスズキがトヨタを頼ったとの見方がある。また、トヨタから見た場合、すでにダイハツを完全子会社化しているので、スズキの軽自動車づくりによるコスト削減ノウハウなどが欲しいわけではなく、スバルやマツダと関係を深めたように、日本メーカーで巨大グループを作り上げる流れのひとつにすぎないとの見方もある。

そうした見方はもちろん間違っていないが、しかしそれだけでは片づけられない事情もある。忘れてはならないのがインド市場だ。スズキはインドでシェアナンバーワン。欧州、米国、日本の合計に匹敵する人口13億人のインド市場でトップなのだ。トヨタは日本と米国では圧倒的に強いが、インドや中国市場の開拓は苦戦しており、課題となっている。

今回の提携は技術面での協力が中心となっており、インド市場云々は憶測にすぎない。しかし、トヨタが欲しているものをスズキが持っていることは事実。日本の自動車メーカーはトヨタを中心に再編されるとの予測があるが、その動きの中でキーマンとなるのはスズキかもしれない。

(山津正明)