来年韓国で行なわれる平昌オリンピックの開催地となる江陵(カンヌン)オーバルで、プレオリンピックとなるスピードスケート世界距離別選手権が開幕した。その2日目の女子500mで、注目の小平奈緒(相澤病院)が今大会初優勝を果たした。

 今季のW杯500mは6戦6勝の負けなし。今大会も優勝候補の筆頭と見られていた。


好成績にも浮かれることなく、しっかりと1年後の平昌五輪を見据えている小平奈緒 そんな注目されるなかでも小平は、「6連勝しているプレッシャーもなくてあまりドキドキしなかったというか、本当に集中して真剣になれたというのがよかったと思います。集中するというのは何も考えずに滑るということではなく、本当に集中すべきことが明確になっていることだと思うので。それを結城(匡啓)先生と積み上げてこられたのがよかった。それに今回は勝つことよりも、自己記録更新の方に意識がいっていたので。自分自身の滑りが楽しみというか、今シーズンは毎大会そういうのがあります」とリラックスして臨んでいた。

 スタートでは少し出遅れた感覚があったというものの、それもまたプラスに働いた。

「スタートの速い選手が相手だと私は割といい時が多いので。『行かれたな』と思ったけど、国内でも100mが速い辻麻希さんとの経験があるので、50m過ぎから巻き返していけばいいかな、と思って滑りました」

 100m通過は、低地ベスト記録を出したベルリンより0秒12も速い10秒31。そこからロスなく残り400mを26秒82で滑り、高地ベスト記録さえ大幅に塗り替える日本新の37秒13でゴールした。

「37秒1台を出せるとは思ってもいませんでした。ゴールしたあとタイムを確認したかったけど、目が悪いこともあって見えずにいたら結城先生が13だと言ってくれたのでビックリして。すごくうれしかったけど、もっと思い切り弾けるのは来年の五輪にとっておこうと思いました」と笑う。

 結城コーチも「こっちに入ってからの練習で、400mのラップタイムは26秒台が出そうだなというのは感じていたので37秒2台くらいと予想していたんですが……」と驚く。標高0mに近い江陵のリンクで出したこの37秒13という記録は、とてつもなく価値があるものだ。

 世界ランキングで見れば歴代9位で李相花(韓国)の世界記録36秒36とは差もある。それでも、37秒13より速い記録はすべて標高の高いソルトレイクシティか、カルガリーで出ている記録。

 李相花(韓国)がソチ五輪の2本目で37秒28を出しているが、今回はそれを更新する低地世界記録ともいえるハイレベルなものだった。

 その李は、小平の次の組で滑って37秒48で2位。今季小平が欠場したW杯で2勝しているジン・ユ(中国)も最終組で2位にとどまり、この大会の個人種目では日本女子初優勝が決まった。これまでのように2本滑った合計タイムではなく、今回からは1本勝負になった世界距離別選手権。緊張感もより増大するなかで、2位に0秒35差をつけた小平の勝利は、今の彼女の充実ぶりを証明する結果でもあった。

 それでも小平は冷静な表情を崩さない。

「今回はここに懸けるというより、平昌五輪に向けた通過点として、最高の形でいいイメージだけもらって帰れたらいいなと思っていて、その通りになったので本当にいい準備ができていたのだなと思いました。どんなにいい練習をしても、どんなにいい技術を身につけても、いいイメージというのはこういうような経験でしか培えないので。それを今回果たせたということは、平昌五輪でいい位置につけるための必殺技ではないけど、そんなアイテムになると思うので……。来年もまた違う形で強い選手が出てくると思いますが、そういう自信を持ちつつトレーニングにこれまで通りに励んでいきたい」

 昨年5月から日本に拠点を戻し、2年間のオランダ生活ような体への不安やストレスもなく、幸せな気持ちで競技に集中できている小平。今季も誰かに勝つというよりも、1戦1戦自分の記録を伸ばしていくことだけを意識し続けたことが今回の結果につながっているという。「だから今回は37秒1ですが、また来年はここで36秒台が出るように練習していきたいなと思いました」と笑顔を見せた。

 今回の小平のレースを見ていて感じたのは、出遅れたというスタートからの滑りにも力みはまったくないこと。男子選手のような荒々しい力感もほとんど感じられず、同走の選手とはまったく違った。それでも100m通過は10秒31が出て、さらにその後も軽やかな動きはまったく崩れずゴールまで続いく。37秒13という大記録が出たのが信じられないような、ある意味では完成された滑りだった。

 本人にそれを問いかけると、「そうですね。スムーズでしたね。でもそれは練習通りという感じです。練習でもよかったので」と、当然のような表情で答えた。

「無駄な動きを抜こうとか力みを抜こうというのではなく、ブレードと氷のやりとりの中で、自分のベストのタイミングで氷を押せるのが一番いいので、その辺を外さないように意識しています。でも今の滑りがスムーズなのは1月になってからブレードを変えたので、その刃の違いが大きいとも思います。それをこれからもっと使いこなしていけば動きも速くなってくると思うし、まだまだ改善点はある。それが出できれば100m通過は10秒2台にもなると思います」

 こう話していた小平は、翌日行なわれた1000mでも低地自己最高記録を0秒65塗り替える1分14秒43を出して2位になった。500mだけではなく1000mでも戦えるのが、真のスプリンターだという自負も持つ彼女の、さらなる一歩が、五輪開催の地で踏み出された。

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