アジア経済が拡大する中、「アジアは一つ」の理念の下、日系企業がさらに発展していくには、ビジネスの拡大とともに、「良き企業市民」として進出先の地域社会のニーズに応え、各ステークホルダー(利害関係者)との絆をさらに強める必要がある。

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1990年代末のアジア経済危機の際、厳しい情勢にもかかわらず多数の日系企業が事業の継続、雇用維持に取り組んだことは、現地社会からも高く評価されている。今後アジア経済が拡大する中、「アジアは一つ」の理念の下、日系企業がさらに発展していくには、ビジネスの拡大とともに、「良き企業市民」として進出先の地域社会のニーズに応え、各ステークホルダー(利害関係者)との絆をさらに強める必要がある。

アジア経済危機当時、私が会長を務めていた海外事業活動関連協議会(CBCC)が、アジアにおける「良き企業市民」の在り方に関する報告書をまとめたことがある。CBCCは1980年代後半に日本の対米投資急増で起きた摩擦に対応して、地域社会との良好な関係を築くために、経団連の全面的支援の下、89年に設置された非営利非政府の組織だ。その後さらにグローバルな視点から、これまでの米国中心の活動からアジアにも拡大した。

報告書は、二度実施したアジア調査ミッションの結果をまとめている。調査ミッションが現地で見たものは、日系企業、日系商工会議所が中心となって各国それぞれの現地ニーズをくみ上げ、実に様々なコミュニティー・リレーション活動を地道かつ継続的に、きめ細かく行っている姿たった。半面、残念ながらその努力が現地社会にはあまり知られていないことも分かった。

アジア各国はそれぞれの社会問題への対応や地域開発に積極的に取り組んでおり、実際のところ日系企業に対する期待は非常に大きい。特に慈善目的の寄付のような一過性のものではなく、地域の自立につながるような支援活動、つまり“シビル・ソサエティー”づくりのための社会開発活動にもっと日本企業の手を貸してほしいとの声は大きかった。

このような社会開発や社会・地球問題の解決の推進には、地域社会の一員である非政府組織(NGO)が既に積極的に参画しており、グローバルなトレンドとしても企業とNGOのパートナーシップはもはや不可欠である。それに対し日系企業の対応策は、NGOと企業が何をどのように連携してつき合っていくべきかを、まだ模索している状態だった。CBCCのアンケート調査でも、約80%が「NGOの情報がない、支援・連携相手が分からない」「交流の機会がない」と回答していた。

このような中で、日系の企業が現地で活動を進めるに当たり最も重要なのは、活動を行う際の自社の方針や活動分野を明確にして、一貫性をもって活動を展開することである。そして、NGOとの連携についても、自社の方針を明確に説明した上で、(1)お互いの価値観が必ずしもすべて一致するわけではない(2)企業は万能ではない(3)共通の価値観を見つける辛抱強い努力が双方に必要である―ことを十分に理解してもらい、緊張感を持って付き合っていくことが大切である。

■立石信雄(たていし・のぶお)
1936年大阪府生まれ。1959年同志社大学卒業後、立石電機販売に入社。1962年米国コロンビア大学大学院に留学。1965年立石電機(現オムロン)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。日本経団連・国際労働委員会委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)「The Taylor Key Award」受賞。同志社大学名誉文化博士。中国・南開大学、中山大学、復旦大学、上海交通大学各顧問教授、北京大学日本研究センター、華南大学日本研究所各顧問。中国の20以上の国家重点大学で講演している。