「気圧と頭痛」の医学的な因果関係は?(shutterstock.com)

写真拡大

 気温、気圧、湿度といった天候の変化は体調にさまざまな影響を与えます。医学的にはまだ不明な点も多いのですが、知っていると注意できるため有益な情報です。

 一般の診療でよく耳にする話は、「雨が降ると腰が痛くなる」「今日は寒いから関節が痛む」「3月はいつも頭痛がひどい」など――。

 確かにそのような声を聞く時は、寒冷前線が通過することがあり、その通過とともに風向きが変わったり突風が吹いたり、気温や気圧が急激に変化しています。

 多くの方が訴えるので、いろいろと調べてみると、それを裏付ける諸説がありました。「気温が下がると末梢の血管が収縮するので血流が悪くなる」「血流が悪くなると筋肉痛がひどくなる」という説明ができます。

 また、急な雨では気圧が下がりますが、「これが関節痛や頭痛の原因となる」という根拠もあります。このように、気温、気圧、湿度といった天候の変化が体調にさまざまな影響を与えるのです。

「痛み」に最も影響するのは<気圧の低下>

 ウェザーニューズという会社が、平成24(2012)年に実施した調査を紹介します。

 通常、雨が降る前に気圧が下がります。そこで1時間に気圧が1ヘクトパスカル低下した時に、そこに住む人に体調の変化について尋ねました。その結果、64%が「何らかの体調変化があった」と回答。さらに詳しく調べると、だるさを訴えていた人が42%、頭痛が24%、関節痛が13%でした。

 年代別にも差があり、頭痛は30代、だるさは20代、関節痛は60歳以上の人に多い傾向がありました。さらに性別を加味すると、40代女性では77%で何らかの症状を訴えて、約半数の人がだるいと回答していました。

 また、気分の変化を調べると、49%の人が「気分が普通ではない」と答え、そのほとんどは「気分が良くない」か、「あまり良くない」とのこと。低気圧や雨になると「うつ状態になる」という話を聞くこともありますが、この調査結果も同様の傾向でした。

 医療における調査でも、同様の傾向が報告されています。動物実験では、気温や気圧が低下することで痛みに対して敏感になることが分かりました。

 また、リハビリテーションに通院する患者さんを対象にした調査では、気圧、気圧の変化量、気温、気温の変化量といった4つの因子のうち、痛みに最も大きな影響を与えているのが、気圧が低下することでした。

 警察や医療関係者にはよく知られた話ですが、冬場は変死者が増えます。そのため、冬場の宿直は「忙しい」「たいへん」などと言い伝えられているようです。
冬場は変死者が増える!?

 気温が低いと血圧が上昇し、血管が収縮します。ですから、心筋梗塞などの虚血性心疾患による死亡は、冬に多いのです。脳出血の発症にも血圧の上昇が大きく関与しており、気温が低い冬に多いといわれています。しかし、近年は暖房器具の普及でその傾向は顕著ではなくなりました。

 もう少し身近な例として風邪があります。冬に流行するインフルエンザは、原因となるウイルスが寒くて乾燥している(低温低湿度)環境を好むので罹患者が増加するのです。

 また、春頃には「気分が落ち込む」「うつ状態になる」人が多い。確かに、3月から5月に自殺者が多いという特徴とも一致します。このように、多くの病気で、その発生状況や経過が気候に関係しているのです。

天候と健康に関する医学的な根拠は?

 気温や気圧の変化について医学的に分かっていることがいくつかあります。

 人間の体内では、外部の環境が変わっても、体調を一定に保とうとする働き「ホメオスタシス」があります。気温、気圧、湿度が少々変化しても、体の内部に影響が生じないように調節されているのです。

 ところが、その変化があまりに大きかったり、あるいは加齢によって調節機能が低下するとバランスが崩れます。

 まずは自律神経の異常です。気温や気圧の急激な変化が起こると、交感神経や副交感神経のバランスが崩れ、その結果、痛みなどが悪化します。気圧が低下すると副交感神経の緊張が亢進して、いわゆる元気がない状態になるという説もあります。

 次に、気圧の低下による体液のバランス障害。気圧が低下すると、体がむくむと考えられていますが、これは体内の水分の移動が円滑に行われていないことを示します。

 さらに、炎症反応の悪化も考えられます。気圧が低下することで組織内の炎症反応が強くなると考えられ、リウマチなどの痛みが悪化するとも考えられています。

 このように、気象と体調についての研究が進められていますが、未知のことが多いのが現状です。

天気予報、健康予報から事故予防へ

 先日、テレビを観ていると、天気図とともに天気予報が伝えられ、その後、「足腰の痛みがある人は気を付けて」というコメントがありました。

 このように、天気予報を利用して体調の変化について注意を促しているのです。もちろん万人に該当するわけではありませんから、「参考にしてください」ということでしょう。

 ですが、これはとても役立つ情報です。低気圧によって多くの人が体調を崩せば、外出を控える人が増えるかもしれません。また、体調が悪くなると集中力が低下するので、事故が起きやすい環境になるかもしれません。季節によっては、自殺しようとする人が増えることが予想されます。

 これらの情報から、事故や自殺などの予防に向けた体制を整えることは、社会安全の観点から重要なことです。皆さん、毎日天気予報を見て、次の日の業務状況を予想してみてはいかがですか。


連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会法医認定医。専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999〜2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(理事)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)など。