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By Will Thompson

雲が人の顔に見えたりエアコンの音が誰かが話している声に聞こえたりといったことがありますが、これは「パレイドリア」と呼ばれる心理現象が原因で起こるものです。このパレイドリアという現象が一体どういったものなのかをサイエンスマガジンのNautilusが解説しています。

Why We Hear Voices in Random Noise - Facts So Romantic - Nautilus

http://nautil.us/blog/why-we-hear-voices-in-random-noise

雲の中に巨大な顔を見つけたことがある人も多いかと思いますが、そういった現象は現代でのみ起きるものではなく、およそ300万年前の人類も経験したものと考えられています。たとえば、人の顔が浮かび上がったかのような形をしたMakapansgat pebbleは、かつて人が住居として使用していたと思われる南アフリカの洞窟の中で、1925年に発見されました。



By Gumaguar (Own work) [CC BY-SA 4.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons

太古の昔から存在したと思われる、こういった「物体の中に人の顔を思い浮かべる心理現象」には、19世紀半ばになって「パレイドリア」という名前がつけられました。語源はギリシャ語で「異常」や「理想像」といった意味を持つ「パラ」です。マカパンスガトの小石は視覚的なパレイドリアの一例で、他にも「空に浮かぶ雲が人の顔に見える」や「火星の人面岩」なども同じようなものであると言えます。

こういった視覚的パレイドリアを経験することは決して珍しいことではありません。視覚的パレイドリアは、人間が視覚パターンを情報として認識した際に無作為性というノイズが潜んでいると起きる現象で、星座も一種の視覚的パレイドリアであるとのこと。なお、視覚的パレイドリアを用いたものとしては「ロールシャッハ・テスト」が有名です。



By Trevor Hurlbut

パレイドリアは視覚のみで起こる心理現象ではなく、聴覚刺激から起こるパレイドリアも存在します。なお、パレイドリアという現象の簡潔な定義は今に至るまで存在しませんが、臨床界隈では通常、パレイドリアは視覚刺激とより深く結びついており、視覚刺激の中に無作為性が存在しない場合に聴覚刺激の中で無作為性を探して聴覚的パレイドリアが起こる、と定義されています。

聴覚的パレイドリアは視覚的パレイドリアよりも厄介なもので、大きな話題を引き起こしたこともあります。アメリカの玩具メーカーであるフィッシャープライスの「Little Mommy Real Loving Baby Cuddle & Coo Doll」という人形は、クスクス笑ったり片言の言葉を話したりする幼児向けの人形です。実際の赤ちゃんに近づけるために言葉を発するようにしたのですが、2008年に発売されてから数週間経つと「人形が『イスラムは光だ』と言っている」と誤解した人が現れて、瞬く間に話題となりました。ニュースにまでなった結果、フィッシャープライスは最終的に大手小売店から人形を回収しています。

Baby Doll Reportedly Says Religious Phrases - YouTube

この問題が騒がれたのは選挙の年で、イスラムとテロリズムの関連が騒がれていた時期でもあるそうです。そのため、「イスラムは光だ」と聞こえたというのは完全にでたらめな思いつきというわけではなく、心のどこかに引っかかっていた言葉が聴覚的パレイドリアとなってしまったものと思われます。これをNautilusは「聴覚的ロールシャッハテスト」と表現しています。

その他の例としては、ホーム・アローンで主人公のケビンが地下室に降りた際にラジオの雑音を悪魔の声と勘違いするシーンもまさに聴覚的パレイドリアのひとつです。



聴覚学者のニール・バウマン氏が運営するディスカッションフォーラム「Center for Hearing Loss Help」は、聴覚的パレイドリアを含むさまざまな異常な聴覚を経験する人々のためのサイトなのですが、自分が精神病になってしまったのではないかと考えるユーザーも多数コメントを寄せています。その一例が「エアコンをつけると、どこからか会話が聞こえてくるんです。窓の外に誰か居るのかと思って確認に行くか、エアコンをオフにすると会話は終わるんです」というもの。ここまでの情報を知っていれば「いかにも聴覚的パレイドリアの事例だ」と思えますが、そういった知識を持っていない場合には「自分は精神病なのでは……」と思い詰めてしまうことがあるようです。

「『認識』の多くは『与えられた状況で起こることが予想されるもの』と『私たちの信念や感受性などが情報処理と相互作用して生まれるもの』である」と語るのは、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者であるクリス・フリス氏。エアコンの音には実際の言葉の内容がないため、私たちが無意識に感覚入力に色をつけて聴覚的パレイドリアになる、というわけ。これについてフリス氏は、「人間が過去に経験したことのあるもので、最も複雑な聴覚分析行動でもあるのが『人の話を聞く』という行為です。雑音が(聴覚的パレイドリアで)会話に聞こえてしまうのも、そういった理由からではないかと私は推測しています」とコメントしています。

なお、聴覚的パレイドリアは幻聴の一種としても認識されています。通常の人と聴覚的パレイドリアを病気と感じる人の違いは、「聴覚的パレイドリアを奇妙な音と感じているか、現実の音と認識しているか」だけだそうです。マンハッタンの交差点で交響曲が聞こえる場合、それはストレスを和らげることにつながるかもしれませんが、おもちゃの人形が宗教的なメッセージを朗読していると確信してしまっている場合は、心のどこかに心配事を抱え込んでいるのかもしれません。