米ホワイトハウスは声明を発表し、トランプ大統領が中国の習近平国家主席と電話会談し、「1つの中国」政策の維持で合意したことを明らかにした。両首脳は相互に訪問することでも一致。その背景と今後を探る。写真はトランプ大統領就任式。

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2017年2月10日、米ホワイトハウスは声明を発表し、トランプ大統領が中国の習近平国家主席と電話会談し、「1つの中国」政策の維持で合意したことを明らかにした。両首脳は長時間にわたって会話し、さまざまな問題について意見を交換した。

声明は「トランプ大統領は、習主席の求めに応じ、われわれの『1つの中国』政策を維持することに同意した。米中首脳は、相互利益にかかわるさまざまな問題について、対話と交渉を行っていく」としている。この結果、両首脳は相互に訪問することでも一致、「再会談を楽しみにしている」という。

トランプ氏は米大統領選挙期間中に中国に対し厳しい姿勢を示し、当選後も「1つの中国」に疑問を投げかけるなど、対中強硬論を展開してきた。あっさり豹変(ひょうへん)した背景には何があるのか。日中外交筋によると、1972年のニクソン米大統領訪中で大きな役割を果たしたキッシンジャー元米国務長官が緊張緩和に向け、再び米中間の橋渡し役を務めているという。

昨年11月、キッシンジャー氏はニューヨークで当選したばかりのトランプ氏と会談。その2週間後に中国の指導者と会うために北京に飛んだ。新華社通信によると、キッシンジャー氏は1日、習主席の信頼が厚く、汚職撲滅運動を主導する王岐山常務委員と会談した。王氏に対しキッシンジャー氏は米中関係の健全な発展に貢献したいと述べたと伝えている。共和党政権下でキッシンジャー国務長官が動いたのは、ニクソンの電撃訪中時だけではない。当初対中強硬論を展開していたレーガン、ブッシュ政権下でも同様の役割を果たした。

キッシンジャー元国務長官が動き、外交政策はアメリカやソ連、中国のような核保有する大国の勢力均衡を重視することで核戦争のような破局を防ぐという考えに基づいている。台湾が中国に吸収されたり、独立したりしてパワーバランスが崩れてしまうのは望ましいことではない。ブッシュ政権やレーガン政権のように、米兵器産業を潤し、「米国第一」につながる、台湾への武器売却を継続するものの、それ以上は望むべきではないとの考えだ。

当時と大きく異なるのは、冷戦時代の相手国がイデオロギー的に対立していたソ連だったのに対し、あくまでも平和的競争相手として台頭した中国であること。世界の2大経済大国である米中両国は緊密な経済依存関係にあり、実利的な「取引(ディール)」によって政策運営が展開され得ることである。

政治経験や軍隊経験がなく根っからの“商人”であるトランプ氏は人権や価値観や安全保障などにはあまり関心がない。中国大使に親中派の人物を選んだことからもわかるように、トランプ政権は反中ではない。「米国第一」しか眼中にないように見えるトランプ氏は世界的なネットワークを持つ華僑の伝統がある中国と「意外にウマが合う」と同外交筋は見ている。

米国にとって中国は最大の貿易赤字相手国だが、中国から米国への輸出品のうち約7割は多国籍企業はじめ米国関連企業の現地生産などによるもの。リーマンショックで経営不振に陥ったGMなど米3大自動車メーカーは中国への輸出や現地生産で息を吹き返した経緯がある。発展途上の中国にとっても、米国との全面対立回避は至上命題である。

米中間では米中戦略・経済対話が毎年米中交互に開催され、米中両国の主要閣僚や政府・経済界が1000人規模参加。経済や安全保障分野などについて協議し、多くの合意事項や共同計画が打ち出される。今年以降も踏襲することになろう。

このほか安全保障面でも、米ハワイ諸島沖で2年に一度行われる米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に中国海軍が毎回参加。陸軍同士も非常時支援訓練などで米中が協力、空軍同士の交流もスタートしている。

米中両国は、互いに厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「共存共栄」方針のもと、利益を追求する世界を志向している。国内向けには対立姿勢を見せつつ、経済相互発展と武力不使用を改めて確認し合っているのが実情だ。(八牧浩行)