重量5kg! 世界一重い柑橘「晩白柚」とは?

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■直径26cm! ギネスブックに掲載された世界一の特産品

熊本県南部の中心都市である八代市。古くから対外貿易港として栄えたこの土地に、ギネスブックにも掲載された世界一の特産品がある。その名は晩白柚。ザボンの一種で、特筆すべきはその大きさである。ごく普通の大きさのもので直径が20cm近くになる。ちょうどドッジボールくらいのサイズ。重量世界一の柑橘としてギネスブックに認定されたものは、直径が26cmで重量は5kg弱もあったという。バスケットボールである。

晩白柚が収穫されるのは冬。市場に出回るのは年末から春前にかけてで、年中手に入るわけではない。露地物の収穫がピークを迎える年始早々に、収穫現場を訪ねた。

熊本空港のバスターミナルで私たちを待っていたのは、八代行きの高速バス「すーぱーばんぺいゆ」号だった。八代インターチェンジ付近には、ザボンの絵とともに「ペイユ」という看板を掲げたファッションホテルも見える。まさにオラが町の特産品である。

訪れたのは、八代市南部に位置する高田(こうだ)地区にある福田清治さんの晩白柚畑である。地元の人が高田山と呼ぶ山の斜面には、たわわに実った晩白柚が見え隠れしている。目の当たりにすると、やはり大きい。高さ2mほどの一本の木に数十個の晩白柚が生っていて、その重さを支えるためロープで吊ってある枝もある。畑は何しろ急な勾配で、空を見上げるような案配。畑内に小さなモノレールが走っているほどだ。

▼「晩白柚」ってどんな果物?
晩白柚の名称は「晩」生であること、果肉が「白」っぽいこと、中国語でザボンを意味する「柚」に由来する。原産地はマレー半島。日本における晩白柚の歴史は、大正9(1920)年に植物学者の島田弥七氏(八代出身)が輸入したことに始まる。日本での生産の約97%が熊本県で行なわれ、そのほとんどが八代産。その数は年間で30万玉以上になる。大きさや重さはもちろん、香りが高く、果汁が多く、果皮が厚いのも特徴。

福田さんが晩白柚の生産を始めたのは、昭和40年頃のこと。それまでは温州みかんを生産していた。「温州みかんは収穫に手間がかかるじゃなかですか。晩白柚なら大きかけん収穫も手っ取り早かろうと。単純な考えやったとです」と福田さんは笑う。

晩白柚の食べ方を尋ねる私たちを前に、「食べ方も知らっさんけん」と福田さんは苦笑し、晩白柚を切り分けてくれた。サクサクした食感の果実から瑞々しい果汁があふれて、口にすると酸味、続いて甘味が感じられる。図体は大きいが食味に大味なところがないことに驚く。大きいゆえに切り分ける作業はダイナミック。自然に車座ができ、笑みがこぼれる。そうか、大きいことには意味があるのだ。小高い山の急斜面で風に吹かれながら思う。

収穫作業を終え、福田さんのお宅へと向かう。予措(よそ)と呼ばれる、収穫後の晩白柚をねかせておくビニールハウスでの様子を見せてもらう。晩白柚が1000個余りも並んでいる光景は壮観である。ここで上下を返しながらねかすことによって、色みや酸味が抜けて、美しい外観とまろやかな味になるという。晩白柚に囲まれながら、息子の清和さんに話を聞いた。

「晩白柚は手がかかっとですよ。まず3月に剪定作業。花が咲いたら摘蕾をします。一本の木に1000くらいの花が咲きますけど、それを300くらいにします。それから受粉。八代ザボンのおしべの葯を晩白柚のめしべにスポイトのようなもので吹きかけます。一本で100カ所以上。2週間もすると実になってきます。ゴルフボール大くらいになると葉が実に当たって傷がつくので、葉を取ってやる。梅雨時には白い袋をかけて雨をよけてやる。梅雨明けには最終的な摘果に入ります。その上で今度は日よけの茶色の袋をかけてやります」

もちろん肥料の散布や晴天が続いたときの灌水作業などもある。鹿や猪が出没して実を食べてしまうこともあるので、防御策も必要だという。何より、急斜面で数千個の晩白柚に一つずつ受粉をさせ、袋をかけていく作業は想像するだけでも大変である。

露地栽培が主流だった晩白柚も、近年は安定供給のハウス栽培が増えてきた。しかもハウスのほうが高値になるという。それでも清和さんは露地でつくる晩白柚に力を入れている。

「ハウスでつくったものよりもおいしくて、傷一つなく、色もきれい。そんな最高の露地物をつくりたいという気持ちがあります」

日が暮れてもビニールハウスで話し続けている私たちの様子を、清治さんが見に来た。晩白柚が八代でつくられる理由を聞いてみた。

「気象条件でしょうね。北側に球磨川のあるけんですね、夜になると川風の吹くとです。冬に霜が降りにくかですよね。あの辺から球磨川の間が風のびゅーっと吹くとですよ」

日当たりの良い南向きの急斜面と、球磨川から吹きつける川風。元来、八代は中国南部からみかんが伝来した地でもあるとされ、その土壌も柑橘類に適しているのだろう。

晩白柚は、その大きさからも贈答品や土産物として人気が高まっている。購入後も1カ月ほどは日持ちするというから、その間は飾っておいて、どことなくユーモラスな姿と自然の柑橘の香りを楽しむことができる。なんともゆったりとした豊かな果物である。

軽薄短小の世の中と言われて久しいけれど、ずっしり重い晩白柚を手に入れたならば言ってみたい。「大きいことはいいことだ!」と。

(文・深町泰司 撮影・比田勝直大)