高校3年生にしてキックボクシングの頂を極め、総合格闘技デビューとなったRIZINでは昨年12月29日、31日と異例の2連戦を敢行し連勝。那須川天心は、どこまで強くなるのか―。

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今、格闘技界の最注目人物は間違いなく、高校3年生のキックボクサー、那須川天心(なすかわ・てんしん)だ。

昨年12月、ムエタイ最高峰王者を衝撃KOで葬ったかと思えば、初参戦した昨年末の「RIZIN」では異例の2連戦を敢行し連勝。“神童”と称される那須川の強さの秘密に迫った―。

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昨年大晦日の深夜、那須川天心が千葉県の自宅近くにある神社にお参りに行くと、行き交う人々から盛んに声をかけられた。

「あれ? さっき試合してたのに、もう帰ってきたんだ!」

大晦日のRIZINは生中継ではなく、数時間遅れの放送だった。参拝客はそれを知らずに驚いたのだろう。

12月29日と31日、那須川はRIZINで異例の2連戦を敢行し連勝。その反響は想像以上だった。屋台のオヤジからは焼き鳥を10本もプレゼントされた。見知らぬ人からこんなに歓待されるのは初めてのことだ。那須川は胸をなで下ろした。

「本当にやってよかった」

高校3年生にしてキックボクシングの頂を極めた那須川は、RIZINで初めてMMA(総合格闘技)に挑んだ。正直、MMAのレベルは新人の域を脱していなかったが、那須川は大衆の心を揺さぶるオーラを身にまとっていた。

RIZINの打診を受けたのは11月になってからのこと。とはいえ12月5日にはキックボクシングの大一番が決定していたので、正式に話がまとまったのはその後だった。結局、MMAの練習は十数回しかしていない。当初は女子選手に簡単にタックルを決められた。MMAは攻撃のレパートリーが多い分、考えることは多かった。

「タックルをしたり、寝技で下から関節を極(き)めたり、いろいろやることが多いじゃないですか」

だが、限られた時間のなかで那須川はMMAのエッセンスを貪欲に吸収していく。寝ている相手にパンチを落とすパウンドもそのひとつだった。相手のガードが空いている所に打ち込む。その感覚は立ち技のパンチと同じながら、打ち方は根本的に異なる。

「キックボクシングのパンチと同じ打ち方をしたらダメだと指摘されました。パウンドはズンッと押し込むように打たないと効かない」

那須川が“神童”と称されるゆえんのひとつは、頭の中でイメージした動きが実戦でスムーズに出ることだろう。

MMAデビューとなった12月29日のニキータ・サプン(ウクライナ)戦は教わって間もないパウンドで仕留めた。ニキータはヨーロッパのテコンドー王者だったが、那須川の痛烈なパウンドの連打を浴びると戦意喪失した。

ピンチがなかったわけではない。フィニッシュ直前にはサプンに下から腕ひしぎ十字固めを極められ、万事休すかと思わせる場面もあった。右ヒジの関節がミシミシと音を立てても、那須川がタップすることはなかった。

―ほとんど極まっていたでしょう?

「ハイ。でも、タップはしないと決めていたので」

腕ひしぎを「本能で」抜け出すと、有利なスタンドの展開に戻すことなく、そのままパウンドで仕留めにかかった。

「あの場面で相手に立ってこいと促すのはカッコ悪いと考えてしまったんです。ふり返れば、絶対にスタンドのほうがいいと思いますけどね」

その向こう気の強さが勝負を決したパウンドにつながったのか。初陣を飾った那須川はマイクを持って2日後の大会への参戦をアピールした。

「高田(延彦)さん、31日、もう1試合どうですか?」

メディカルチェック後、前代未聞の連続参戦が決定した。伸ばされた右腕に痛みは残っていたが、自分の気持ちを止めることはできなかった。

「2連戦なんて誰もやったことがないじゃないですか。やったら盛り上がるかなと」

12月31日の大会には特別な思い入れもあった。

「毎年大晦日といえば、格闘技の大きなイベントをやっている。昔から自分も出てみたいと思っていました。前回(2015年)も出るという話があったけど、なくなってしまった。自宅のテレビでRIZINを見ながら『チクショー!』と呟(つぶや)いていましたよ」

念願の大晦日のリングに立った那須川は打撃戦を期待した周囲をいい意味で裏切った。誰もが想像だにしなかった絞め技で、カウイカ・オリージョ(アメリカ)から一本勝ちを収めたのだ。

試合の最中、MMAの指導者から「隙間をなくして絞めるように」という助言を受けたことを思い出した上でのフィニッシュだった。

「打撃でKOするのとはちょっと違う感覚でした。自分ではやられたくないですね」

テクニックは一朝一夕で身につくものではない。何年も磨きに磨きをかけて、やっとモノにすることができる。なぜ、那須川は練習で数回しかやっていないパウンドや絞め技を実戦で使うことができたのか。それは並外れたイメージ力があるからにほかならない。

「教わった技はしっかり見て、次からは使えるようになっていようと心がけています」

格闘技のスタートは5歳で始めた空手にさかのぼる。キックボクシングに転向したのは小6のときだ。空手とキックはルールが異なるので、距離や打ち方も違う。那須川は幼少時から格闘技のイロハを教えてくれた父・弘幸さんとの練習を通して、取り入れるべきものとそうでないものを取捨選択していった。

「この打ち方はいけるけど、バランスがよくない。そうなったら調整して、反復練習を繰り返しやっていました」

飛躍のきっかけは、さらに前ーー小4のときに訪れた。それまでは空手の県大会で優勝することはできたが、関東大会ではいつも同じ相手に負けていた。体重差が30圓發△辰燭里世ら無理もない。それでも、那須川は諦めなかった。どうやったら勝てるのか。父とともに血のにじむような努力を重ねた。

「真正面から打ち合うと絶対に勝てない。逆に僕の体が吹っ飛んでしまう。なので、相手に合わせて動いたり、相手が打ってきたところに合わせる。つまり、打たせずに打つ練習をずっと続けました」

ライバルのダミーとなった父が思い切り打ってくるパンチやキックの前に那須川はボコボコになった。最初は全然避(よ)けられなかった。

「でも、途中から父の初動を見たら、次に何が来るのかわかるようになってきた」

―具体的にいうと?

「肩の動きです。(相手の)拳を見る人が多いけど、攻撃するときには肩がちょっと動く」

小学生のレベルを超えた努力は奇跡を起こす。その戦法が功を奏しライバルから初勝利を収めることができたのだ。

高1でプロデビューを果たすと連戦連勝。“神童”という異名のとおり、わずか6戦目でRISEバンタム級王者に、13戦目で世界最大のキック組織ISKAの世界バンタム級王者になった。試合中、大好きなマンガ『グラップラー刃牙』の主人公・範馬刃牙(はんま・バキ)が使う「トリケラトプス拳」を繰り出すなど、オリジナリティ溢れる闘い方でもファンを惹きつけていった。

キックボクサーとしての最大の試練は、昨年12月5日に旗揚げした「KNOCK OUT」で訪れた。RIZIN初参戦のわずか24日前に行なわれたワンチャローン・PKセンチャイジム戦だ。このタイ人はムエタイの最高権威ルンピニースタジアムが認定する現役王者だった。

しかも、この試合はプロとなって初めて経験する「ヒジ打ちあり」のキックルール。識者の予想は「ワンチャローン有利」に傾いていた。

だが、ここでも那須川は常識を覆した。試合開始早々、スピードで圧倒する。ワンチャローンがミドルキックを打とうとしても、機先を制するようにストレートを見舞う。

「最初にボティを打ったら、相手がウッとなったんですよ。これは効いていると思って、すぐ仕かけました」

最後はバックスピンキックで顔面を打ち抜いた。「なんか当たるんじゃないか」というイメージでずっと練習してきた蹴りだった。

「あの日は本当に調子がよかった。今あのタイミングで出せと言われてもなかなか難しいですけど(笑)」

来る2月12日にはKNOCK OUT旗揚げ第2戦でアムナット・ルエンロン(タイ)とキックルールで激突する。アムナットは、あの井岡一翔(かずと)を下したこともあるボクシングの元世界王者だ。不利になると反則もお構いなしに仕かけてくるタイプだが、那須川は試合になったら関係ないと言い切る。

「汚いことをされたらやり返す。そのくらいの気持ちは持っています」

巷(ちまた)ではK−1王者・武尊(たける)との一戦を望む声も多いが、現時点ではさほど興味はない。

「ファンが望むならやってもいいと思うけど、今は自分から言う必要はないかなと思いますね」

MMA3戦目にも意欲的だ。4月16日のRIZIN横浜アリーナ大会にも出場予定選手に名を連ねている。

「誰の手も届かないところに行きたい」

一体、どこまで強くなるのか。那須川は、まだ一度も負けていない。

●那須川天心(なすかわ・てんしん)

1998年生まれ、千葉県出身。5歳から空手を学び、小6からキックを始める。2014年にプロデビューし、翌年、史上最年少16歳でRISEバンタム級王者に。昨年12月5日、「KNOCK OUT」でルンピニー現役王者を衝撃KO。さらにMMAデビューとなった「RIZIN」では12月29日、31日と異例の2連戦2連勝

那須川天心出場!!「KNOCK OUT vol.1」

2017年2月12日(日) 東京・大田区総合体育館 16:00開場、17:00試合開始予定 最新情報は「KNOCK OUT」公式サイトまで

(取材・文/布施鋼治 撮影/長尾 迪)