小石原に伝わる伝統技法、飛び鉋が駆使されたマグカップ

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2016年に始動したスターバックス「JIMOTO made」シリーズ。これは日本各地で受け継がれる伝統技術や職人の技術を取り入れた商品開発を行い、地元だけで販売、そのプロダクトを通じて地域の文化・産業や人々のことを知ってもらう機会を生み出すプロジェクトだ。

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第1弾となった東京都・墨田区発の「江戸切子のオリジナルグラス」、第2弾となった鳥取発の「コーヒーアロママグ Sakyu」に続き、今回紹介する第3弾のプロダクトは、2月10日に発売される福岡筑前の「コーヒアロママグ Tobikanna」。福岡の筑前地域にある「太宰府天満宮表参道店」、「太宰府向佐野店」、「イオンモール筑紫野店」の計3店舗限定で販売される。(※第3弾として「ウッドマグ 漆ホワイト/漆ブラック 207ml」も同日発売)

まず、福岡空港に着いた記者が向かったのがスターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店。観光客で賑わう太宰府天満宮の表参道にあるこの店舗は、「自然素材による伝統と現代の融合」というコンセプトを掲げる建築家の隈研吾氏が設計した。

入口から店内にかけて、2000本もの杉材を使った木組み構造が取り入れられており、木組みそのものがインパクトのあるデザインとなっている。奥側のテーブルに座ると、庭には太宰府天満宮のシンボルである梅の木がつぼみを膨らませていた。

そして今回の限定マグカップが作られる翁明窯元へと移動。窯があるのは福岡県朝倉郡東峰村小石原。のどかな里山の風景が印象的な小石原は、17世紀の後半から続くやきもの産地。修験道の山として知られる英彦山の西に広がるこの地には、約50件の窯元が軒を連ねている。

小石原焼は刷毛目(はけめ)や飛び鉋(とびかんな)、櫛描きなどの技法を駆使して作られる紋様が有名だ。大分日田の小鹿田焼と兄弟窯の関係にあたるが、男性的で野趣を感じさせる小鹿田焼と比べると、小石原焼はどこか女性的なたおやかさを感じさせる。

■ 自然の素材にこだわる気鋭の陶芸家

翁明窯元の二代目当主は鬼丸尚幸さん。1977年生まれの39歳で、東京藝術大学美術学部で陶芸を専攻し、同大学院で博士号を取得した後、2009年に父・翁明さんの開いたこの窯を継いだ。「父の影響で昔からうつわが大好きで。大学で陶芸を勉強したのも、この地で実家を継ぐためでした」。

その後、国内外の工芸展で数々の賞を受賞。過去に二度、宮内庁お買い上げの栄誉にも浴した、小石原焼の将来を背負って立つ陶芸家である。「料理の主役は食材であり、うつわはあくまで脇役です。私が理想とするのは、料理を盛りつけたときに、食材を引き立てるうつわです」。

そんな言葉通り作風はシンプルで、グレーや白、黒といった色が好みだという。ただ、使うのは自分で採取した地元の土やナチュラルな素材のみ、かつ釉薬のインスピレーションはこの土地の風物の中にある色というだけあって、作品からは温もりや力強い生命力を感じる。

民芸品にありがちな野暮ったさは不思議なくらい感じられない。どこかモダンな雰囲気が漂ううつわは、洋食や海外のインテリアにも自然に溶け込む。

■ 一糸乱れぬ削り目。伝統技法、飛び鉋に息を飲む

今回は「コーヒアロママグ Tobikanna」を販売する3店舗のスタッフたちとともに、工程を見学させてもらった。まずは土練機を使って、土の中の空気を抜き、密度を高める。次は練った土をマグカップの形に造形する。最大の見どころである「飛び鉋」の工程へ。

小石原焼を代表する技法のひとつである飛び鉋は、うつわの表面に鉋と呼ばれる工具で連続した削り目をつけるもの。鉋といっても、大工が使う木を削る道具とは異なる。鬼丸さんは父から譲り受けたものを使っていたが、昔の職人たちは、古い時計のゼンマイを加工して自作していたそう。

ろくろの上で回転するマグカップの表面に鉋の刃先をそっと当てると、しなやかな刃先が土を削って弾かれる。この動作を繰り返すことで、連続した美しい削り目が生まれるのだ。「作り手によって微妙な違いがあり、削り目を見ると、おおよそ誰が作ったか分かるんですよ」。

手作業で取っ手を丁寧につけた後は一晩自然乾燥させ、窯で素焼きを行い、水分を飛ばす。素焼きしたマグカップに釉薬をつける工程も気を抜けない。「釉薬は焼き上がりの色を想像して調合しなければなりません。それに桶に浸ける秒数で色が変わってしまうため、細心の注意を払います」。

あとは窯で焼成し、底に刻印を施したら出来上がり。完成したマグカップは、飛び鉋の削り目とツートーンのグレーの釉薬が味わい深い景色を作り出している。コーヒーのアロマを包み込む口径が絞られた丸いフォルムといい、温もりを感じさせる窯変といい、見ているだけでコーヒーが飲みたくなるデザインだ。

底には前回紹介した「コーヒーアロママグ Sakyu」と同様、「STARBUCKS」と「OUMEI KAMAMOTO」「CHIKUZEN」の刻印が。コラボレーションを表に出したデザインは、スターバックスのこれまでのプロダクトのなかでもとりわけ珍しい。

■ 作り手から店舗スタッフへ熱い思いをリレーする

工房の取材と並行して、プロジェクトの恒例行事であるレクリエーションも行なわれた。マグカップを店頭で販売するスタッフたちが、鬼丸さんの指導のもと、ろくろでの成形や飛び鉋の工程を実際に体験する。

「JIMOTO made」の担当で、スターバックス コーヒー ジャパンのプロダクトマネージャーを務める濱田和史さんは語る。「店のある地元コミュニティとのつながりを強くするのがプロジェクトの目的です。そのためには、作り手と、店舗で商品を販売するスタッフとのコミュニケーションも欠かせませんし、作り手のもの作りにかける思いやストーリーをお客様にしっかりと伝えることが大切だと思っています」。

レクリエーションの締めくくりは、鬼丸さんへの質問タイム。あるスタッフが「デザインのインスピレーションは?」と鬼丸さんに聞く。「コーヒー豆ですね。スターバックスのみなさんが豆のひと粒ひと粒に思いとこだわりを持つように、私もコーヒーが美味しくなるように、飛び鉋の鉋の削り目ひとつひとつに思いを込めました。このマグカップを使うことで、小石原焼の魅力を知ってもらい、地元のことをもっと好きになってもらえたらうれしいです」。

ふと工房のガラス窓を見ると、夕日で赤く染まる野山をバックにはしゃぐ3人の子どもたちのシルエットが。このマグカップは鬼丸さんが終生の作陶の地と決めた、小石原の産物だ。

自分たちが暮らす土地への愛着や誇りを持つことの素晴らしさを伝えるスターバックスの「JIMOTO made」シリーズ。店頭でこのマグカップを手に取れば、作り手と店が地元にかける思いを感じることができるだろう。【ウォーカープラス編集部/取材・文=押条良太、写真=山辺 学】