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●ニュース振りまくファンドが誕生へ
大統領就任前のドナルド・トランプ氏と面会し、米企業に500億ドルの投資を行うと公約したソフトバンクグループの孫正義代表。その資金の出所となりそうなのが昨年10月に設立することを発表した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」だ。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドは不明な点が非常に多いが、8日の決算説明会ではファンドの目指す方向性がより鮮明になり、「情報革命の驚異的な進展」を期待させるものだった。

○ファンドの組成に向けて

ファンドの狙いを記す前に、現段階で公表されていることを記しておこう。ファンドへの出資予定は、ソフトバンクグループ、サウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)ほか、その他の複数のグローバルな大手投資家たち。アップル、ホンハイ、クアルコムなどの世界的企業の出資も含め、総額1000億米ドル(約10兆円)規模の規模を目指しているようだ。

規模感について、孫氏によると「全世界のベンチャーキャピタルの総合計の資金量は65ビリオンだが、ソフトバンクだけで100ビリオン」とし、組成されれば世界最大のファンドになりそうだ。組成に向けては、現時点で立ち上げの終盤にあるとしている。

昨年末に、孫氏はドナルド・トランプ大統領(当時は次期大統領)と面会し、米企業に500億ドルの投資を行うと報道されたが、ソフトバンクグループだけで賄える金額ではないことから、同ファンドを通じて資金が投下されるのは間違いないだろう。資金の規模感、政治的側面から、今後も大いにニュースを振りまきそうな予感のするファンドなのだ。

●シンギュラリティの到来と投資対象
○テクノロジーばかりではない投資対象

さて、ファンドの投資対象である。一言でいえば、プレスリリースにあるとおり、テクノロジー分野となるが、言葉を真っ向から捉えると、戸惑うことになる。

なぜなら、孫氏が想定するのは、ありとあらゆる産業が再定義されるとみているからだ。孫氏は、IoT、クラウド、AIの発達をもとにした人間の知能を超えるシンギュラリティが30年以内に到来すると見ており、「今後は靴にもチップが入る。そのチップが我々の知性を超えていく。メガネにも入っていく。ありとあらゆるものにも入っていく」としている。

あらゆる産業にテクノロジーがベースとなって入り込み、シンギュラリティーに到達する過程において、様々な産業が再定義されると見ているのだ。ゆえにテクノロジーが対象といっても、投資対象を広げてみるべきである。ファンドの理念は「情報革命で人々を幸せに」であり、それを満たしつつ、テクノロジーの活用が根底にあれば、どうやら投資対象になりそうである。

○第1号案件は低軌道衛星通信

これだけではイメージしにくいと思うので、まずは投資対象の"直球案件"から見てみよう。

先日、発表された米国の低軌道衛星通信事業を営むOneWebへの1000数百億円の出資は、ファンドの投資第1号案件(ファンド組成までソフトバンクが肩代わり)となる。同社の事業は、現在の静止衛星よりも、地球から近い(低軌道)の衛星を打ち上げ、地球を覆うことで、低遅延の高速通信を低コストで提供しようというものである。

地球から衛星までの距離が遠ければ、その分、遅延が生じるが、低軌道であれば、遅延は少なくなる。しかも、上空から通信を可能にすることで、地球上のどこでもネットワークの利用ができたり、車にアンテナを搭載することで、コネクテッドカーの推進にもつながるとみている。

変化球案件では、たとえば、バイオテクノロジーの分野。バイオテクノロジーなどはソフトバンクにとって、「投資するには少し遠い案件」としており、ファンドの巨額な資産をもってすれば、成長の芽のある企業に、相応の規模感をもってして投資が可能になると見ているわけだ。AIの発達によりディープラーニングを活用して、DNAの解析や病気の予知などに役立てる。そうした事業会社も投資対象となるという。

●10兆円ファンドに感じる漠然とした不安
○経営にも深く関与

ひとつ、ファンドというと資金投下するだけというイメージがあるかもしれない。お金を置くだけでは「情報革命で人々を幸せに」というファンドの理念が実現できそうにない。その点、孫氏は深く考えているようだ。

ファンドである以上、イグジット(株式の売却)は存在するが、3%や5%といった少量の株式を保有し短期間で売りぬくといったことはないという。多くの場合は、20-40%ほどの株式を持ち、筆頭株主として、役員を送り、創業者とともに経営戦略について議論する。そして有機的結合をつくっていく。

「情報革命で人々を幸せに」という理念のもとに、情報革命を牽引する同志を増やし、戦略を共有する同志的結合をつくりたいとしている。類似する考えに財閥があるが、同ファンドの場合は、ブランドや国籍などを問わず、それぞれの分野で世界一になりそうな会社が連合体として、シナジーを出していくことを理想としている。

○ファンドの理念は人を幸せにできるか

孫氏が掲げる「情報革命で人々を幸せに」というファンドの理念。この理念自体は、ソフトバンクが掲げる理念とまったく同じ。ソフトバンクグループという単体の企業グループでは、資金力の面から成し遂げられなかった側面があり、それを解消できるのも今回のファンドの魅力だ。ソフトバンクグループよりも、投資対象の規模、広さ、スピードすべてを上回る決断ができる。

ファンドによる投資、資金を元手にした情報革命の推進。それが何百社にもおよび、同時多発的に進むことで、情報革命の時機到来は早まることになるだろう。孫氏が掲げる理念に近づく世界が生まれることへの期待は高まる。

しかし、その一方で、ファンドの莫大な資金は、力の一極集中を生み出してしまう。あらゆる産業を再定義するテクノロジー、重要性を増すインフラが、ファンドのメンバーによって握られてしまう可能性があることに、漠然とした恐れも感じてしまう。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが世界の何かを変えていきそうだが、それは本当に多くの人に望まれたものになるのだろうか。

(大澤昌弘)