電気がなくなったら家族は仲良くなる!? 映画『サバイバルファミリー』は電気がない極限の世界を描くちょっとブラックなロードムービー

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【公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは『ウォーターボーイズ』などヒット作が多い矢口史靖監督の最新作『サバイバルファミリー』(2017年2月11日公開)です。

本作は「もしも世界から電気がなくなったら……さあ、どうなる!」というストーリー。鈴木家の皆さんのサバイバルぶりをコミカルに描きつつ、ある種の警報を鳴らしているのではないかと思われる、矢口監督流のプチ社会派コメディです。

【物語】

鈴木一家は東京のマンションに暮らすごく平凡な家族。お父さん(小日向文世)はサラリーマン、お母さん(深津絵里)はちょっと天然、長男の賢司(泉澤祐希)は無口、長女の結衣(葵わかな)はスマホが手放せない今どきの高校生です。

ある日、突然電気が落ちました。それは鈴木家だけではなく、街は明かりを失い真っ暗! 1日だけの停電かと思ったら、来る日も来る日も電気はつかず、食糧も水もつきかけてしまう。

そんなとき「西に行けば電気があるぞ」という噂を聞きつけ、お父さんは「俺についてくれば何とかなる」と家族4人、自転車で西に向かうことになりますが……。

【矢口監督作、今回のポイントは電気と人間】

矢口監督の映画は、どうしてこう毎回、人の心をガシっとつかむのでしょう。「男子のシンクロ」「女子高生のジャズバンド」「新人キャビンアテンダント」など、「見たい!」と思わずにいられないテーマばかり。

そして今回は「ある日、突然電気がなくなった」ですよ。でもこれは今までの矢口監督作の中でもいちばん、観客が感情移入しやすいかもしれません。停電に遭遇した経験がある人は多いですからね。

電気が突然使えなくなり、鈴木家は大パニック。お父さんの会社は何もかも機能しない。娘はスマホが使えずイライラ、お母さんはエレベーターが使えず高層マンションの階段を行ったり来たり。電気を失ったときのあるあるが満載です。

カセットコンロで料理をしていましたが、水、食材つきてスーパー行っても何にもない。みんな買い占めちゃいますからね。「え、そんなもの食べるの」「それ飲むの?」というところまでいっちゃうんですよ。

それにしても人間って面白いです。文明の利器に頼り切っていたために、使えなくなるとイライラして、不満をぶちまけますが、やがて何とかしようとするんですよ、この生命力!

この映画のポイントはそこです。電気がなくなって、人間はいかにもろいかを描くのではなく、人間、やるときゃやるというところを描いています。それを体現するのが小日向さん演じるお父さんです。いつも冴えないお父さんが、一家の大黒柱らしく「俺についてこい」とか言うわけですよ。ま、そう簡単にうまくいかないのですが……。

【この映画の構想は『ウォーターボーイズ』のときから】

「電気がなくなったら」という発想が矢口監督から生まれたのは『ウォーターボーイズ』のときからだそうです。IT関連に弱かったため「いっそ全部使えなくなればいいのに」と思ったことがきっかけ。日常使っている便利な物が使えなくなったら、人々はどうするのか。意外と豊かな生活が取り戻せるのではないか……と発想は膨らんでいったそうです。

この映画で、鈴木ファミリーは、西へ向かう道中、様々な過酷な体験をしますが、監督は鈴木ファミリーが辿る道を実際に歩み、非常食を食べたり、バッテリー補充液を飲んだりして、同じ経験をしたそうです。そうでないと鈴木ファミリーが体験した世界を描くことができないというわけ。さすがです! 

映画で役者さんたちは体当たりのサバイバル演技を見せますが(特に小日向さん!)監督が事前に実体験しているわけですから、安心感とともに「できないとは言えない」と追い込まれます。その必死さが映画ではしっかり描かれています。もう本当にボロボロですから!

【矢口映画でいちばんブラック?】

正直、電気がないとこれほど追い詰められるのか……と、ちょっと恐怖も感じ、「どんだけ電気に頼り切っていたんだよ」と自身を振り返ったりもします。そして自分だったらどうするだろうとも考えたりもしますね。

また後半、食を求める人々が集まってくる場所にギョっとしたり、鈴木家のお父さんの運の悪さからくる災難に「エ〜!」と思ったり、道中、かる〜く毒も散りばめられています。

でも電気があったときは、便利すぎてお互いを頼ることがなかった家族が、お互いを頼り、支え合う姿は感動。また彼らに自力で生きる術を教える養豚業のおじさん(大地康雄)やお母さんの実父(柄本明)など、この映画では年配者がヒーロー! とても頼りがいあって素敵です。

この映画は、これまでの矢口監督作同様に誰が見てもOK! 老若男女を大いに楽しませてくれるのが矢口監督作の強み。今回も期待にしっかり応えてくれますよ。

執筆=斎藤 香(c)Pouch

『サバイバルファミリー』
(2017年2月11日より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー)
監督&脚本:矢口史靖 出演:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、大地康雄、柄本明ほか

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