高城運動公園(宮崎県)のピッチに、”バチーン”という衝撃音が響きわたった。

 FC東京の大久保嘉人(川崎フロンターレ→)が強烈なタックルを見舞い、FCソウルの選手をふっ飛ばした音だった。

 2月8日に行なわれたFC東京とFCソウルのトレーニングマッチ。もともと球際での争いに長けているうえ、1月上旬に始動してすでに仕上がりつつあるFCソウルに対して、FC東京は特に前半、苦戦を強いられていた。

 FCソウルのプレスにたじろいで、効果的にパスをつなげず、横パス、バックパスで回避するシーンが目についた。

 そんな展開で迎えた前半の終盤、CKの場面でFCソウルがショートコーナーで攻めてきたところで、大久保が仕掛けてきた相手選手を潰しにいったのだ。

 それは、ピリッとしないチームに対し、闘魂を注入するための一撃のようだった。

「あそこはやられたら、俺のせいになるから。『ここに来い』って思うもんね。俺が絶対クリアしてやる、スライディングして絶対に止めてやるって」

 そう振り返った大久保は、さらに続けた。

「みんながそういうふうに、(相手の)ゴール前でも『俺が点を取ってやる』って思えるようになったら、ひとつの集団になったとき、すごく強いチームになると思う。それに、ああいう場面で(強烈なタックルを)見せれば、チームが引き締まるんじゃないかなっていうのもあった」

 FC東京にとってこのFCソウル戦は、沖縄海邦銀行(九州リーグ)戦、大宮アルディージャ(J1)戦、沖縄SV(県3部リーグ)戦に続く、始動して4試合目の対外試合。公式戦と同じ90分のトレーニングマッチとしては初めてのゲームだった。

 メンバーは、GKが林彰洋(サガン鳥栖→)。DFが徳永悠平、森重真人、丸山祐市、太田宏介(フィテッセ/オランダ→)。MFが高萩洋次郎(FCソウル/韓国→)、梶山陽平、河野広貴、東慶悟、中島翔哉。そして、FWの1トップに大久保。多少の変更はあるにせよ、おそらくこれが、開幕戦を睨(にら)んだメンバーと見ていいだろう。

 後半に入って次第に持ち直したFC東京は、昨年の同時期にも対戦し圧倒された相手に対して、互角の戦いを展開。拮抗したゲームに持ち込むと、高萩が獲得したPKを大久保が落ち着いてゴール右サイドに蹴り込んで先制する。

 結局、このゴールを守り抜いて1-0と勝利。対外試合4連勝を飾ると、大久保自身もこれで4戦連発の6ゴール目をマークした。


FC東京に移籍し、キャンプ中から結果を積み重ねている大久保嘉人 もちろん、この時期の勝敗が大きな意味を持つことはないが、ストライカーとしてはどんな形であっても、毎試合ネットを揺らせているのは気持ちのいいものだ。

「どんな点であろうと、1点は1点やし、勝ちは勝ちやし。それをシーズン通してやれれば、チームは絶対に上にいけるから。自分自身も今、点が取れてるし、これを続けていけたらいいなと思いますね」

 コンディションは上々の仕上がりだというが、コンビネーションや連係面は当然のことながら、まだまだ改善の余地が多い。それゆえ、特に前半は大久保が身振りと声で、噛み合わない味方に要求するシーンが目立ち、後半も鮮やかに崩せたシーンはほとんどなかった。

 だが、それでも試合後の大久保は、試合中の表情やジェスチャーとは裏腹に、ポジティブにチームの強みと改善点を語った。

「1次キャンプと比べたら、よくなっていると思います。まだ時間はあるし、心配してもいない。絶対にできるチームなので、そこは楽しみながら、(選手みんなと)話をしながらやっていきます。

 ただ、改善すべきところもいっぱいある。ディフェンスに関しては、もともとそういうチームだから、みんな、すごく意識してできているんですけど、攻撃になったときは、もっと前に人数をかけて攻めに出ていいと思う。もしうまくいかなくても、ディフェンスの意識が高いから、やられることはあまりないと思うから。

 これまでのFC東京のイメージを捨てて、違うチームになった、という意識でやれば、このチームは絶対に強くなる。点を取らないと勝てないわけで、ディフェンスにはいい選手がいっぱいいるし、今は前にもいい選手がいっぱいいるので、自信を持って取り組んでいけば変わると思います」

 FC東京は、マッシモ・フィッカデンティ監督(現サガン鳥栖)に率いられた2014年と2015年シーズン、バランスの針を守備的な戦い方へと極端に傾け、J1で屈指の守備力を誇った。攻守のバランスは、篠田善之監督になってだいぶ修正されたものの、チームに宿る「まずはやられない」という意識は、いまだに染みついているのかもしれない。

 大久保が指摘するのは、そのことだった。

「凌(しの)ぐときは凌いでいいけど、いけるときには、前にボールをつけて、みんながなだれ込むように攻めたい。『うわ、このチーム、走るし、ディフェンスも強いし、嫌だな』って、相手に思われるチームになりたいんですよ。そうなれば、絶対に優勝争いに絡める。それができるだけのメンツがいる。そこは自信を持っていいし、やっていかないといけない。優勝するために、1試合、1試合、大事にやっていきたいと思います」

 今から約3カ月前、大久保がFC東京との契約書にサインをするつもりだ、ということを知った家族は驚いたという。奥さんは涙を流し、子どもたちは「絶対にイヤだ」と反対した。4年間在籍していたフロンターレに愛着と感謝があったからだ。

 もちろん、大久保自身もフロンターレに愛着があったし、チームメイトとも深い友情で結ばれ、フロンターレのファン、サポーターにも感謝をしていた。だが、それと移籍とは話が別だ。そこにはプロフェッショナルとしての、いちサッカー選手としての、決断があった。

「まだまだ成長したいですから。あと何年やれるのかわからないし、自分がどこまでできるのかチャレンジしたい。とことん突き詰めたいですから」

 自身の成長と、FC東京の進化のために、大久保は新しいチームメイトに要求し、叫び続ける。その先に、リーグ優勝と、4度目の得点王のタイトルがあると信じて――。

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