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●なぜスプリントを買収したか
事業が軌道に乗り始めたからだろう。ここ最近、決算説明会の回を重ねるごとに、ソフトバンクグループの孫正義代表は、米国のスプリント事業を回想することが増えた。8日の説明会では「買わなければよかった」と本音まで飛び出したほどだ。

○スプリント買収を巡る当初の狙い

スプリントは、2013年7月にソフトバンクが買収した米国の携帯電話会社だ。同社を買収した狙いは、米携帯電話市場でAT&Tとベライゾンと戦える対抗勢力をつくることだった。スプリント、T-モバイルを買収して両社を合併させ、「2社でほぼ独占している市場に3社目の対抗勢力を作ると。三国志にするんだという構えでいこうとした」(孫代表)という。 しかし、その戦略はうまくいかなかった。米当局の意向により、T-モバイルの買収、そしてスプリントとの合併は叶わず、残ったのは業績不振に苦しむスプリントだった。

孫代表は当時を振り返る。「買わなきゃ良かったとずいぶん後悔しました(中略)。自信をなくしました。世の中も嫌になりました。非常に悩みました。だいぶ毛も薄くなりました。もう売りたくてしょうがないところまでいきました」。

自虐的な表現を入れながら、後悔したことを強調する孫氏。結果的に、買い手もつかず、スプリントを自力で再生せざるを得なくなったが、状況は惨憺たるものだった。ネットワーク品質は粗悪、ポストペイド携帯電話の契約数が純減傾向を続け、フリーキャッシュフローも赤字が続いていた。

○スプリント反転の戦略

いわば止血できない最悪の状態になっていたわけだが、事業の買い手がつかないのであれば、自力でどうにかするしかない。孫氏は自身がチーフネットワークオフィサーとして、直接スプリントのネットワーク改善に取り組み、営業の経費削減は責任を持つと発言したマルセロ・クラウレCEOに営業面でのコストダウンに取り組んでもらった。

ネットワークの改善においては次のように振り返る。通常、チーフネットワークオフィサーというと技術者であり、経営の責任がない。そのため、彼らは最初に設備投資に向けた予算を欲しがったという。

しかし、そうした設備投資の予算申請はすべて却下、「そんなに予算がいるのか」「なぜそんなに金を使うんだ」というオーナーとしての見方から改善に取り組んだ。

もちろん、予算をかければネットワークは改善するのが普通だが、「なぜソフトバンクモバイルがフリーキャッシュフローで世界一の利益率になったかといえば、なるべく設備投資にお金をかけないで世界一のネットワークを作ったからにほかならない」とする。

日本のモバイルネットワークは相当進んでおり、ソフトバンク流のやり方をもってスプリントの建て直しに取り組んできたというのが、孫氏の持論だ。詳細はわからないが、孫氏は過去に他社に先駆けてキャリアアグリゲーションを実施し、通信速度の向上を行ったなどと説明を行っている。

●スプリントの現状は
○各種指標が改善に向かうスプリント

では、スプリント事業の現状はどうか。孫氏は様々な指標をあげつつ、改善に向かっていることを強調する。ポストペイド携帯電話の契約数が順調に推移していること、解約率が低水準を維持できていること、売上もドルベースで増収となり、コスト削減も年間3兆数千億円かかっていたものが、2兆数千億円と約4年間で1兆円下がったという。結果として、2016年度第3四半期までは、調整後キャッシュフローが5億ドルの黒字に転換した。

利益面で何が貢献しているのかを見えると、コストダウンの寄与が大きく、まだ先行きの不安も残りそうだが、孫氏の発言からは、スプリント事業が軌道に乗り始めたことが伺える。

かつて、業績改善の糸口が見え始めた2015年11月に、「毎晩ネットワーク会議をやっている。待ち遠しくて仕方がない」などと発言していたが、それが今回の説明会では、毎週と表現が変わっており、今では同社への関与の回数が大幅に減っている。

今回の説明会では「スプリントがソフトバンクの足を引っ張っている。スプリントで悩みまくっているというイメージを、そろそろみなさんのほうでも認識を改めていただきたい。そういう自信が出てきたと。だからARMの買収決断ができた。(中略)次の攻めとして、10兆円規模の世界最大の投資ファンドをつくる決断ができた」などコメントしており、最大の関心事が別のところに移っていることは明らかだ。

買収後、後悔に明け暮れた日々から一転。孫氏の中ではスプリント事業の建て直しは終息間際になっていると見てよさそうだ。

(大澤昌弘)