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パワーマネージメントICに強いLinear Technology(リニアテクノロジー)は、リチウム(Li)イオンセルの特性バラつきを減らし揃えるバッテリマネージメントIC(BMIC)において、これまで先駆的役割を果たしてきた。このほど同社は、多数のセルのバラつきを減らすバッテリマネージメントシステム(BMS)をワイヤレスで管理する方式を提案した。

電気自動車では、1個のリチウムイオンセルが3.7〜4.1Vの電圧しか発生しないため、それを100個近く直列に接続し300Vを超えるような電圧に上げてパワーを稼ぐ。電力システムの基本だが、電力は電圧×電流で表されるため、電力を大きくするため電流を大きくすると電線を太くしなければならず、配線が重くなってしまうため、電圧を上げることが電力システムの常識となっている。

それらのセルの特性を初期的に揃えるとしても、充放電を繰り返す内にセルごとのバラつきが大きくなってしまう。充電が始まってある時間がたつと、80%まで充電されたセルや、まだ60%しか充電されていないセルなどバラついてしまうためだ。これを強制的に揃えて特性を合わせるという役割を担うICがBMICである。1個のICで最大12個のセルまで充電を揃えられるというICが多い。これだと、例えば96個直列接続する場合には、ICは8個で済む。

Linearは、セル間の特性をそろえるためのBMICを最初に出荷した半導体メーカーだ。当初は、放電が速いセルに合わせてまだ電荷が残っているICの電荷を捨てて合わせるパッシブ方式だったが、電荷が残っているセルから電荷の少ないセルへ電荷を分配するアクティブ方式へと進化してきた。

しかし、1個のICで12個のセルに接続し、さらに8個のICでこれらを接続するとなると配線のワイヤは煩雑になる。各セルが今どのような充電状態なのかを検出するためのワイヤの数は半端ではない。その接続は、職人ともいえるエンジニアが通常は露出されていない場所で確認してきた。ワイヤだけでもクルマの重量がかさむため、クルマの設計者はワイヤの増加を嫌う。

この膨大な接続をワイヤレスにしたい、とクルマの設計者は思うだろうが、BMICが多数存在する中で、ワイヤレス通信を行おうとすると、一般的に繋がりにくいという課題が生じ、頻繁に通信が切れるため、いやいやながら有線接続を使ってきた。そのため、クルマの中ではさまざまなノイズが飛び交っているため、ただでさえつながりにくい環境でありながら、理想は切れにくいワイヤレス通信の実現である。

今回、同社が提案するワイヤレス通信は、IoTセンサネットワークで実績のあったSmartMeshと呼ぶ方式だ。BMICとSmartMesh用のICを搭載したモジュールを今回開発した。同社はIoTビジネスで実績のあったDust Networkを数年前に買収したが、SmartMeshはDustが使っていた無線のメッシュネットワークである(図1)。Dustはすでに米国の工業用計器企業Emersonなどに採用実績がある。

一般にノードが多い場合にはメッシュネットワークが使われ、ノードからノードへと信号を送り、最終的にゲートウェイに届け、そこからインターネットに飛ばす。従来のZigBeeや802.15規格のようなメッシュネットワークは切れやすかった。

しかし、Dust Networkが開発したこの方式は、セキュリティが高いうえに、接続率が有線並みの99.999%と高いことが特長である。センサからセンサへデータを送るのに、周波数ホッピングを使う。一般にこの方式は1つの周波数からほかの周波数に移行するため盗聴されにくい。つまり周波数冗長性がある。しかも、Dustの方式は、2度と同じルートを使わない。センサからセンサへ送る場合でも、次のパケットは必ず別のセンサに送られるため空間冗長性もある。これは、乱数表などでネットワークマネージャーICが決めるセンサノード(セル)へと移動するため、仮に一部のデータを読み取られたとしても、それ以上は読まれにくい。

このワイヤレスBMICモジュールは、LinearのバッテリマネージメントIC「LTC6811」と、SmartMeshワイヤレスメッシュネットワークICである「LTC5800」からできている。このモジュール同士がワイヤレスでつながっている(図2)。まだクルマメーカーには納めていないが、クルマメーカーにとってのメリットは、組み付け工程が簡単になり、バッテリセル同士の間隔を詰めることができるという。それによってバッテリを多数搭載でき航続距離が伸びることになる。

Linearは、このワイヤレスBMS(バッテリマネージメントシステム)を2016年の欧州Electronicaで、BMWの電気自動車i3に搭載したコンセプトカーを展示した(図3)。i3の航続距離はJC08モードで390kmだが、今回のシステムを使った場合には容量55kWhのエネルギーで、充電時間はCHAdeMOだと45分かかっていたところを15分でできたとしている。

(津田建二)