コネクテッドカーが社会に浸透すれば、生活もビジネスモデルも変わっていく。(写真はイメージ)


 まず、読者のみなさまに質問です。

「インターネットにつながる自動運転モード搭載の“コネクテッドカー”が、比較的手の届きやすい金額で手に入るとしたら、購入したいですか?」

 この手のアンケートは、いろいろなところで集計されているようですが、まだまだ、現在の価値観にとらわれ、大多数の支持は受けていないようです。日本ではまだまだ、「来たるべき高齢化社会には有効な技術革新だよね」という声が多数を占めているのが、実際のところではないでしょうか。

 冒頭の質問に対し、運転が好きな方、いろいろな事情や昨今のトレンドなどで自動車を所有する意欲が低下している方は、現状に満足しており、「いらない」「利用しない」と答えるのではないかと思います。逆に「欲しい」「買いたい」と答えた人の中では、「運転が苦手なので、自動運転はありがたい」という理由で、そう答えた人も多いと思います。どちらの方々も、この記事を読み終わった段階で、同じ質問に答えてみてください。

 IoT、AI、クラウドコンピューティングなどの技術革新により、今から10年後の世界は、現在の自動車メーカー市場の勢力図は大きく変わり、今は思いもよらない会社が自動車の市場シェアを制圧している可能性があります。ここで「まさか」と思った方も、この記事を読み終わった段階で、同じ質問に答えてみてください。

 テスラ然りですが、実際、あまり馴染みのない会社が、2017年のCES(ラスベガスで開催される家電見本市)において、自動車企業エリアに自動車を展示すべく、ブースを構えていました。

コネクテッドカーが変える生活

 では、自動運転機能を保有し、インターネットに繋がるコネクテッドカーは、みなさまの生活をどのように変えてくれるでしょうか。

 コネクテッドカーが普及した時代に訪れるであろう活用シーンを、いくつかご紹介します。

・活用シーン(1)

 今回、出張先に向かう長時間のフライトでは、あまり寝付けませんでした。さらに追い打ちをかけるように、到着後に受信したメールで、明日の訪問先からさらなる問い合わせが来ており、追加の資料を準備しないといけないと分かりました。ホテルでゆっくり身体を休めたいが、時間も欲しい。

 しかし、自動運転モード付きのコネクテッドカーが普及している今の時代は、荷物を受け取った段階で、レンタカー会社に通知が行き、空港の外に出たら予約していたレンタカーが到着しています。

 運転が好きなので、普段は好んで自ら運転しますが、今回はレンタカーを自動運転モードに設定。ホテルに向かう道中で、明日の資料を整えることができました。おかげで、ホテルに着いてからもゆっくりと身体を休めることができ、商談もうまく進めることができました。

・活用シーン(2)

 週末は、離れたところに住んでいる両親を自動車で迎えに行き、自宅で一緒に夕食を楽しむことにしています。しかし、今日は事情があり、迎えに行く時間が取れそうにありません。

 いつもであれば、自ら運転して迎えに行きますが、今日は両親に一報を入れ、自動運転モードで両親を迎えに行ってもらいました。道中、自宅にいる子供がタブレットを使って、移動中の両親と楽しく会話していました。

・活用シーン(3)

 お得意先に社用車にて訪問しました。現地での対応に想定外に時間がかかってしまいましたが、無事、対応を終え、ご担当者さまに感謝の言葉をいただきました。

 ご担当者からは、ぜひ労いたい、ということで食事に誘ってもらいました。お得意様とは食事をしながら、お酒も楽しむことができ、意気投合。追加の受注もいただきました。

・活用シーン(4)

 今日は自家用車を使って家族旅行。長距離移動のため、朝食を取る時間も惜しみつつ、早朝に家を出発しました。

 自宅を出発した後、車内システムに向かって「どこかおすすめのドライブスルーは?」と問いかけると、宿泊先の道中にあるお気に入りのコーヒーチェーン店を自動車が提案。搭載されている音声認識システムで注文を終え、決済も自動処理。ドライブスルーに到着すると既に注文した品物ができており、タイムロスなく商品を受け取れました。

 その後、自動運転モードに切り替え、車内で食事を済ませ、朝が早かったこともあったので、少し睡眠も取ることができました。現地付近に差し掛かると、自動運転モードを解除し、峠で運転を楽しみつつ、現地では、早起きした甲斐があって、家族との時間をたっぷり過ごすことができました。

・活用シーン(5)

 数年前の規制緩和で、海外で普及が進むシェアリングエコノミー事業の成功事業の代表格である「Uber」や「Lyft」のような個人所有の自動車を活用した配車サービスが、ようやく日本でも利用可能になりました。自動運転もようやく認可が降りています。

 自動車を所有しなくても、安価で気軽に自動車で移動できる時代になっていますが、車好きとしては、やはり自家用車の所有欲を捨てきれません。迷いながらも、自動車購入をAIでシミュレーションしてくれるWebサービスで試算をしてみました。

 自分の趣味嗜好と年間の走行距離などをインプットしてみると、新車を購入し、3年後に売却しても収支がプラスになることが分かったので、欲しかった新車の購入を即決しました。おかげで、週末は自家用車で運転を楽しんでいます。

 自家用車に乗らないウィークデーは、登録している配車サービスで、AIの指示を受けながら、自家用車が資産価値を維持できる範囲の距離を走らせて、着実に収益を上げてくれます。欲しかった自家用車を手に入れながらも、月々のローンに加え、維持費以上の利益を上げてくれるので大満足です──。

コネクテッドカーがもたらすイノベーション

 いかがでしょうか。自動運転モード搭載のコネクテッドカーの所有について、否定的、懐疑的なご意見を持っていた方は、こういった来たるべきシーンを見て、考えが変わったでしょうか。

 また、これらのシーンにおいては、自動車の作り手から見たビジネスモデルが変わる可能性があることにも、お気づきでしょうか。

 所有者の趣味嗜好を理解し、協業パートナーへの送客をすることで、これまでの単純な製造と販売、その後のメンテナンスという事業モデルを脱し、新たな収益モデルを構築できるプラットフォーム(=エコシステム)を得ることができます。

 グーグルやアマゾンのように、利用者の趣味嗜好を蓄積する基盤を提供し、それを分析、的確なリコメンドを出すことで、意図したところに利用者を誘導し、その結果としてプラットフォームを活用する企業から手数料(広告収入や紹介料)をもらう。そのようなビジネスモデルを構築できる会社が、既存産業をディスラプトしていく時代にすでに突入しています。

 こういったビジネスモデルが構築できる新興自動車メーカーは、製造コストを自動車の販売価格に転嫁する必要がなくなり、価格面と新たな利便性で価値訴求ができるようになります。

 もし、21世紀に入った頃に「今から10年後の世界は、今現在、市場で大きなシェアを持っている携帯電話製造メーカーは衰退を始め、現在は全く携帯電話なんて作っていない会社が市場シェアを取っているよ」と言われたら、「まさか」どころか「嘘だろ」とほとんどの人は、言っていたはずです。

 しかし、当時、次々に産み出された新たなテクノロジーをきちんと理解し、それを製品、サービスにうまく取り込んだ、アップルやグーグルのような会社が、市場をひっくり返したことは、誰もが知る現実です(参考:2007年にiPhoneが登場した場面での日本メーカーの所感 http://www.nikkei.com/article/DGXZZO10749190Z00C10A7000000/)。

 イノベーションを起こしたり、生まれたイノベーションを活用することで、従来の事業ドメインプレイヤーを駆逐し、覇者になりえるのです。

 自動車領域でのイノベーションと言うと、昨今のトレンドは本記事のメインでも取り上げているコネクテッドカーや自動運転ですが、3Dプリンティング技術を使って車体を製造する会社も登場しています。この技術が実用化に入れば、工場ラインのあり方も激変します。こういった技術は、自動車に留まらず、住宅などを含む製造へも転用もされる可能性があります。

社がCESのブースで展示していた、3Dプリンタで製造された車体。


 歴史を振り返っても、技術革新は、今の常識をあっという間に未来の非常識にしてしまいます。馬車がメジャーだったとき登場した自動車、手洗いでも事足りていた時代に登場してきた洗濯機や食洗機、固定電話が主流だったときに登場した携帯電話、レコードやCDを購入していた時代に登場してきたネットでの音楽購入や音楽配信・・・。

 他にも例をあげればきりがないのですが、どれも初めは時代時代で否定的な意見が多数を占めつつも、インフラの拡充や価格の低下で人々の生活に浸透し、今では欠かせないものになっています。

 共通点は、技術革新により利用者の「時間の節約」につながっている点です。新しい技術は、いつの時代でも初めは高価なものです。しかし、普及が進むと低廉化し、なくてはならないものとなります。IoTやAIは多分にその要素を含んでいます。

 さらに、インターネットが電気、水道、ガスなどのインフラと肩を並べた今の時代は、単なる製造で産み出される「モノ」の価値は下がり、アップルやグーグルのような「エコシステム」を創造できる会社が産業構造を大変革していく時代なのです。

「リスクファースト」の議論こそが危険

 成熟期に入っている日本企業の大半は、新たなチャレンジよりもリスクに対する議論が先行しているケースが多々見られます。その結果、国際的競争力の低下を招いているように思えます。しかし、今回書いたような議論は、すでにシリコンバレーでは、普通に議論されていることなのです。

 日本は、バズワードとして「IoT」という用語が盛り上がっていますが、特に北米では「IoT」というキーワードを懐疑的に捉える人は減っており、用語として会話に登場することが減ってきています。むしろ、コネクテッドカーやコネクテッドホームのように、既に個々の産業として成り立ちはじめ、議論が加速しているフェーズに入っています。

 筆者が関わるコネクテッドホーム事業では、不動産・住宅関連の問い合わせが日々増えていますが、やはりまだまだ既存事業の常識を脱却しきれず「リスクファースト」の議論が先行する会社も少なくありません。しかし、時代の流れを察し、危機感を持っている企業も出てきており、そういった会社の動きは速くなってきています。

 IoTやAIによる技術革新は、今まさに産業構造を変えようとしています。

筆者:新貝 文将