気鋭の作家、波多野聖が推す「私を世界的資産運用者にした本」12選

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国内外累計5,000億円の運用経験を持つ気鋭の作家で、弊誌連載小説『バタフライ・ドクトリン─胡蝶の夢─』著者の波多野聖が贈る、「本物」になるための必読の書。

自分自身が選んだ道で「本物」になるには、「真のプロ」として生きていくには、絶対的な覚悟が必要です。書物を選ぶときも、売れているものが必ずしもよいものではないと心して、本物を見極めようとすることが、その人自身が本物になるために重要なことだと思うのです。

「情報の交換というのは、インサイダー情報のやり取りをすることじゃないんだ。互いの『切り口』を見せ合うことが本当の情報交換なんだぞ」

私のキャリアは1982年に入庫した農林中央金庫から始まるのですが、本店の資金証券部で、真に優秀な上司と出会う機会に恵まれました。冒頭の言葉は、彼から言われたことで、その後の私の人生を決めた重要な言葉です。

その後、野村投資顧問を経て、クレディ・スイス・日興アセットマネジメントの2社では累計5,000億円の資金を集め、運用しました。クレディ・スイス時代、200億円のファンドを4年間で欧州最大の日本株ファンドの2,200億円にしました。この成功を大きく支えたのは、自分自身の「切り口」を磨くための読書の経験でした。

私の基礎を作った様々な良書に出会ったのは30代前半の頃です。野村投資顧問に転職し、イギリスやアメリカの年金資金運用を担当しました。ネイティブの顧客向けに英語でプレゼンをし、JPモルガンやシュローダーとコンペで競うのです。悔しながら、当初は連戦連敗でした。

英語が下手なのがその理由だと思っていましたが、どうやらそうではない。自分の言葉で、自分の考えで話していないから響かないのではないか、と。もっと勉強しなければ、そもそも自分の切り口をもう一度きちんと深めなければ、と思ったのです。

その頃に出会ったのが、岩井克人の『ヴェニスの商人の資本論』であり、青木昌彦の『コーポレーションの進化多様性』です。私は、日本人の著作で読む経済の本は、この2人だけでよいとさえ思っています。そのぐらいこの2人は経済の本質、企業の本質というものを見事にとらえ、分析しています。

プロとしてお金を預かって運用するのが運用者の仕事ですが、自分なりに経済、企業を分析しなければならない。自分の切り口を作る必要に迫られている中で、切り口を明確に持った本でないと、何の意味も持たない。切り口を磨き物事を深く理解していく点では、小林秀雄、丸山眞男、埴谷雄高、清水幾太郎の著作も非常に役に立ちました。

また、私たちがこの国で、この国をベースにビジネスをしていく上で、「日本とは何か」「日本人とは何か」を考えていかなければならないのですが、網野善彦は本当のこの国の歴史を裏の部分から調べ上げたという意味で、非常に重要な人物と著作だと思います。

白洲正子の『いまなぜ青山二郎なのか』は、今はなき銀座の近藤書店という本屋で出会いましたが、深遠なる「美」そのものや「日本文化」への入り口となった1冊です。

次ページから挙げる12冊は、私の書棚からの一部の抜粋ですが、どれも私の人生に大きな影響を与えた書物です。皆さんもぜひ自身の切り口で「本物」を見極め、ビジネスのプロフェッショナルの道を究めて欲しいと思います。

1. 『ヴェニスの商人の資本論』

岩井克人(著)/筑摩書房/¥1,026

〈資本主義〉のシステムやその根底にある〈貨幣〉の逆説とは何か。シェイクスピアの喜劇を舞台に、登場人物の演ずる役割を読み解く。「差異」というものの存在があらゆる経済的な現象の根源であること、利潤の源泉がそこにあることを理解させてくれる。

2. 『コーポレーションの進化多様性─集合認知・ガバナンス・制度』

青木昌彦(著)、谷口和弘(翻訳)/エヌティティ出版/¥3,672

株式会社は、利潤最大化のみを目的に組織され、統治されるべきなのか。株式会社と社会、金融市場との関係を新しい視点からとらえ、「会社法の歴史の終わり」にノーを突きつける。独自の切り口で経済の本質、企業の本質というものを見事にとらえている。

3. 『経済発展の理論』(上)

J.A.シュムペーター(著)、塩野谷祐一・東畑精一・中山伊知郎(翻訳)/岩波書店/¥972

資本主義経済のメカニズムを分析し、経済成長において「創造的破壊」たるイノベーション(新結合)がいかに重要かを説く。特に第2章の「経済発展の根本現象」は必読。あらゆる時代に通じる、経済の真髄に対しての洞察がある。

4. 『超国家主義の論理と心理』

丸山眞男(著)、古矢 旬(編集)/岩波文庫/¥1,426

明治以後の近代国家形成において、絶対的価値体すなわち天皇を至上とし、「私的なもの」を認めなかったゆえに、私的利害が無制限に「国家」へ進入する事態を招いた。戦前の日本の超国家主義およびファシズムと、戦後世界の反動をひもとく。

5. 『無縁・公界・楽』

網野善彦(著)/平凡社ライブラリー/¥1,258

なぜ天皇制は滅びないのか、平安・鎌倉期にのみすぐれた宗教家が輩出したのか。「縁」という観点から日本の中世の歴史を調べ上げ、現在の国のあり方の由来を説き明かす。「日本とは何か」「日本人とは何なのか」と考えるとき、思考のよりどころとなる一冊。

6. 『意識・革命・宇宙』

埴谷雄高(著)、吉本隆明(著)/河出書房新社

20世紀を代表する日本の思想家たちの対話。埴谷雄高による『死霊』への論及を中心としながら、互いの思想について語りつくす。確固たる教養に裏打ちされた論理を持って時代を生きた二人の思考を辿り、自分自身の思索を深める一助となる。

7. 『倫理学ノート』

清水幾太郎(著)/講談社学術文庫/¥1,404

二十世紀初頭の倫理学を代表したG・E・ムアの『倫理学原理』への憤りと当惑から出発し、そこへ至るまでの数々の思想・哲学と倫理学者たちへ言及した十九篇のエッセイをまとめたもの。何度も読み直したくなる最高の教材。

8. 『いまなぜ青山二郎なのか』

白洲正子(著)/新潮文庫

装幀をやるが「装幀家」ではない。絵を描き、一流の目利きでもある。「俺は日本の文化を生きているんだ」という口癖のまま、何者でもない己自身を貫いた「青山二郎」を知る。深遠なる「美」そのものや「日本の文化」への入り口となる一冊。

9. 『荘子』

荘子(著)、森 三樹三郎(翻訳)/中公クラシックス/¥1,674

わたしという人間が、この世界の中で主体的に生きぬくにはどうすればよいのか。世界の真の姿を「斉同」なる「無」と認める荘子の究極の思想に触れれば、悩みやしがらみは全てリセットされる。混沌とした世界を恐れずに受け入れる心の枠組みを構築できる。

10.『優劣のかなたに─大村はま 60のことば』

苅谷夏子(著)/筑摩書房/¥1,944

優劣にとらわれず、それぞれが持つ能力を出し切る。死の直前まで「学びひたり」「教えひたる」ことに向き合い続けた真の教育者のことばを選りすぐって解説。親として子どもに、上司として部下に、どういう姿勢で向かっていくかという示唆を与えてくれる。

11.『吉原御免状』

隆 慶一郎(著)/新潮文庫/¥767

江戸の吉原を舞台に展開する時代小説。宮本武蔵に育てられた主人公・松永誠一郎を中心とした剣戟、歴史の影に迫る物語の魅力もさることながら、当時の風俗と粋の描写が絶妙。元気になりたいとき、明日を生きる活力を得られる一冊。

12.『銭の戦争』全十巻

波多野 聖(著)/ハルキ文庫/¥713

相場師として魔王的才能に恵まれた男・実王寺狂介の誕生から、挫折と栄光の日々を描く。経済小説としてはもちろん、日露戦争の前後を背景にした時代小説でもあり、サスペンスとしても完成された筆者渾身の小説デビュー作。

波多野聖(はたの・しょう)◎1959年生まれ。内外の投資機関でファンド・マネージャーとして活躍。2012年角川春樹に見いだされ小説家デビュー。2016年1月号より、弊誌巻末にて近未来経済サスペンス小説『バタフライ・ドクトリン─胡蝶の夢─』を絶賛好評連載中。