どっちがお得?「住まいの支出」徹底比較6

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■【1】一生賃貸 vs 中古持ち家

今のような局面で不動産は買いなのか

一生賃貸で暮らすのと、中古の持ち家を買うのとでは、どちらが得か。資産価値の面と使い勝手の良しあしの2つで比較してみましょう。

まず資産価値の面でいうと、持ち家を購入して得をするのは、不動産価格が上がると見込まれるとき。バブル期以前に家を買った人は、その後の価格急騰時に売り抜けて、儲けを出すことができました。反対に、今のように不動産価格が下がる局面で持ち家を買うと、さらに値下がりして損をするかもしれません。

例外的に、東京のごく一部、たとえば山手線の内側エリアのように、利便性の高い地域の不動産価格は、上がったり下がったりを繰り返しています。

政府が量的緩和をしてバブルが起き、弾ける。そしてそのツケをまた量的緩和で解消しようとして、バブルを起こして、弾ける。これをまるで株のように繰り返しているのが、2000年代に入ってからの都内の不動産価格の動きです。

ただし、それは東京のごく一部であって、日本全体ではこれから明確に人口が減るわけですから、全体として不動産価格が下がっていくことは間違いありません。そう考えると、経済的には賃貸のほうが得といえる時代がすでにきているのかもしれません。

もし購入するのであれば、安く買えるチャンスは新築より中古のほうが多い。日本では住宅についても減価償却という考え方があり、築年数に比例して価値が下がっていくため、お買い得な物件が出てくるからです。

使い勝手の面でいえば、確かに持ち家は自由に内装を替えたり、楽器を演奏するための防音室をつくったりという希望は、叶えることができます。その一方、賃貸にはライフスタイルに合わせて住み替えが気楽にできる、という大きなメリットがあります。近所に気に食わない人がいたら引っ越せばいいわけです。

ところが持ち家の場合、なかなか引っ越しができない。売るにしても買ってくれる人がすぐ見つかるとは限らないし、売買のときにかかるコストも物件価格の1割程度とバカになりませんから、簡単には引っ越せません。家を購入した後に転勤を命じられ、その間だけでも誰かに貸そうとしても、「戻ってきたらすぐに明け渡す」という契約では家賃が安くなるし、他人が使用する分、家も傷みます。

結局、持ち家で得をすることは簡単ではありません。

(ファイナンシャルプランナー 藤川 太)

■【2】新築分譲 vs 中古マンション

間取りや設備の「×」をリフォームで解消する

マンション購入で失敗しないためにはどうすればいいでしょうか。

マンションを構成する要素には、「Price(価格)」「Place(立地)」「Plan(間取りや設備)」という「3つのP」があります。この3つのPについて、新築・中古・築年数など様々な条件のマンションを「◎」「○」「△」「×」という4段階で評価しながら、解説していきましょう。

まず、都市部の新築分譲マンションは、価格(Price)が2012年から上昇しています。

不動産調査会社である「東京カンテイ」の調査によると、首都圏にある新築マンションの平均価格は2015年に5183万円となり、14年の4653万円から11.4%と大幅に上昇しました。

その要因としては、東日本大震災の復興や東京五輪誘致により建設関連の需要が増え、人件費が下がらないことが影響しています。今後も不動産価格が上昇し続けるとは限りませんが、ここ数年間は高めの価格で推移していることから、新築マンションの価格は「△」といえます。

立地(Place)の面でいうと、近年は新築マンションの供給量そのものが減ってきています。自分の住みたいエリアがあっても、そこに分譲予定の新築マンションはないかもしれません。その意味で立地は「△」になります。

ただし供給量を絞っている分、新築で売りに出される分譲マンションは、都心部や郊外のターミナル駅近くの好立地であることが多いのです。この場合は利便性の良さから、価格は高くなり手が出にくいのですが、立地は「○」といえます。間取りや設備(Plan)については、最新のものが採用されていることもあり「○」になります。

中古マンションについては、築浅か築古かで事情が大きく異なります。

特にここ10〜15年以内に建設された築浅物件は、当時のマンションブームを反映し、比較的良好な立地であることが多いため、立地は「○」といえます。

間取りや設備も「○」で、新築に比べて遜色ありません。もちろん10年分の使用感はありますが、構造や設備が古くて使いづらいということはないでしょう。

価格は「○」、もしくは「△」。今は中古マンションの需要があるので、築10年くらいでは「中古だけどそんなに安くない」という相場です。なぜ需要が高いかというと、買う人の年収は横ばいか、下手をしたら下がっているにもかかわらず、新築マンションの価格は上がっているため、中古に目を向ける人が増えているからです。築浅で質のいいマンションが増えていることも中古人気の一因です。

一方、築30年以上の築古のマンションの価格は「◎」となる。都内でも1000万円台で購入できるものもあります。売りに出されている数も多いので立地は選びやすく「○」といえますが、間取りや設備は古くて傷んでいるので「×」です。

ただ間取りや設備については、リフォームすれば最新のものに変えることができます。

最近では、仲介会社が事前に建物検査(インスペクション)をしたり、品質保証のサービスをしたりする場合もある。不動産会社が買い取ってフルリフォームして売り出す物件も増加しています。間取りや設備の「×」を解消する手立てはあるので、その意味では「×」が「○」になることもあります。

(住宅ジャーナリスト 山本久美子)

■【3】都心狭小 vs 郊外広大

いずれ住み替えが必要「売る」ことを前提に買う

持ち家を購入するならば、土地面積が50平方メートル以下の都心にある狭小戸建てと、郊外にある150平方メートル以上の広い戸建てはどちらがいいでしょうか。前頁で説明した「3つのP」から考えていきましょう。

結論からいうと、都心狭小の価格(Price)は不動産価格が高いので「×」、立地(Place)は利便性という点で「◎」、間取りや設備(Plan)は「×」といえます。狭小の土地に生活空間を組み込むと、リビングやキッチン、お風呂、寝室などが異なる階になり、移動するには上り下りが必要になります。若い人ならともかく、年齢を重ねるごとに、1日に何度も階段を往復するのは負担になってくるはずです。

一方、郊外の広い戸建ては、間取りや設備は「◎」です。

4〜5LDK以上で基本的には駐車場も2台分はあり、充実しています。利便性としての立地は「×」ですが、子育て環境という意味では「○」。自然が豊かだったり、家が大きくて庭もあったり、子供が飛び跳ねても周りに気兼ねをしなくて済む。ただし、子供が成長して独立すると、こうしたメリットはなくなります。車で生活することが基本となるので、年齢を重ねると運転に不安が生じたり、庭の手入れや使っていない部屋の掃除も重労働になったりします。

都心狭小は家族が住む家としては狭く、郊外広大はいずれ使い勝手が悪くなる。つまり、どちらも、どこかのタイミングで住み替えが必要になってくるのです。

もし、将来住み替える前提で家を買うにしても、売りに出したときに買い手がつく物件でなければなりません。

その意味で、都心狭小の戸建ては若い人に買ってもらえる可能性が高く、郊外物件でも地元に人気のエリアにある戸建てなら売れるかもしれません。いずれにせよ、これからは高齢者や単身者が増えていくので、広い家は売りづらくなっていくでしょう。

(住宅ジャーナリスト 山本久美子)

■【4】頭金・ボーナス払いあり vs なし

40〜50代なら「頭金なし」は危険

住宅ローンの頭金は、あったほうがいいと思います。なぜなら、頭金をつくる過程がとても重要だからです。頭金がつくれる、お金を貯められるというのは、それだけ家計が引き締まっていて、管理できています。頭金をつくる能力があれば住宅ローンも返していける。つまり、返済能力となるのです。

特に40代、50代で家を買う場合は、頭金がないと危険です。ローン自体は組めるかもしれませんが、返済年数が長期にわたるため、老後になってもローン負担が残ります。

ただし、「住宅ローン控除を考えたら頭金を入れないほうが得」というのは賢い選択です。住宅ローン控除は、各年末のローン残高4000万円(※)を上限に適用されます。たとえば今、10年固定金利は0.4%程度。一方、住宅ローン控除を使えば10年間にわたって残高から1%の控除が適用されます。ということは、住宅ローン控除を使えば0.6%得するわけです。1000万円の0.6%なら6万円。6万円を政府がただでくれるようなものです。それなら頭金を入れないほうが得に決まっています。何かあったら繰り上げ返済すればいいのです。

ボーナス払いのあるなしということでいうと、ボーナス払いに頼っている人は返済能力が足りないケースが多い。ボーナスがどうなるかわからないなんて、もう10年以上前からいわれていることです。それなのに今さらボーナスに頼るのは、ちょっと甘いとしかいいようがないでしょう。

(ファイナンシャルプランナー 藤川 太)

※消費税5%の住宅、または建物に消費税がかからない中古住宅等はローン残高2000万円が上限。

■【5】住宅ローン借り換え vs 繰り上げ返済

金利差が0.4%あれば120万円もお得に

住宅ローンの借り換えと繰り上げ返済ではどちらが得か。今だったら借り換えです。

元来、住宅ローンの借り換えをしたほうがいいのは、「ローン残高が1000万円以上」「残りの返済期間が10年以上」「金利差が1%以上」という3つの条件がそろっている場合といわれてきました。しかし今は、金利差が1%なくても、0.3〜0.4%くらいの差があればメリットが出るケースが多くなってきています。

たとえば、月10万円返済しているなら、借り換えで金利が下がれば9万5000円くらいになるとします。そこで10万円の返済額はそのままにして、残りの返済期間を10万円に合わせて短く設定するのです。そうすれば繰り上げ返済と同じような効果が出ます。それでもまだ余裕があれば繰り上げ返済を考えればいい。

たとえば残債が3000万円のローンを金利1.075%、残りの返済を25年・300回とします。それを金利0.6%に借り換えれば、月々6300円くらい安くなります。その金利差額分を原資に返済期間を24回分ほど短くすれば、全体で200万円以上安くなります。

もちろん住宅ローンの借り換え時には、コストがかかります。3000万円のローンであれば、70万〜80万円程度。それでも200万円ほど浮くことを考えると、差し引き120万〜130万円は得をするというわけです。

(ファイナンシャルプランナー 藤川 太)

■【6】持ち家売却 vs 賃貸大家

「人に貸せば儲かる」そんな時代ではない

住み替えを検討するときに必ずぶち当たるのが、現在の持ち家をどうするかという問題です。売って現金を得るか、賃貸に出して大家になるのか――。

愛着があって手放したくない、今は住めないけれどいつか住みたい、あるいは積極的に不動産収入を得たいというケースでは賃貸に出すことを検討したほうがいい。そうではなくて、親から相続した築年数の古い家で、維持や管理が面倒な場合は売るべきです。

現在の住宅市場は供給過多で、特に賃貸物件があまっています。だから「人に貸せば高い賃料が毎月入ってくる」という甘い考えで大家をはじめても常に借り手がつくとは限りません。どうしても手放したくなくて人に貸すのであれば、不動産会社に委託して、入居者の募集や入居者と建物の管理を任せるのが賢明な判断です。

しかしその場合、諸費用がかかることを覚悟してください。予想以上に、家賃収入は少なくなると思います。まず入居率が100%にはならないので、賃料が目減りする。さらに管理会社に管理委託料を払うことになる。それから固定資産税や都市計画税もかかります。修繕や改修もしなければならない。家賃収入を期待していても、実はこんなふうに出ていくものもたくさんあるのです。

(住宅ジャーナリスト 山本久美子)

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藤川 太
ファイナンシャルプランナー。CFP認定者。宅地建物取引士。自動車会社で研究開発に従事後、独立。
 
山本久美子
住宅ジャーナリスト。「週刊住宅情報」元副編集長。「All About」「SUUMOジャーナル」などで住宅関連記事を連載中。

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(長山清子=構成 小原孝博(藤川 太氏)=撮影)