独特な映像表現!(映画『仁光の受難』より)
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 昨年の第17回東京フィルメックス・コンペティション部門に選出された庭月野議啓(にわつきの・のりひろ)監督の自主制作映画『仁光の受難』が、ポニーキャニオン配給で日本公開されることが決まった。シネマコンプレックス時代となり、採算の見込めない自主映画の公開状況が厳しくなっている今、国内外の映画祭での評価を武器に道を切り開いた作品として注目されそうだ。

 本作は、なぜか女性にモテモテの修行僧・仁光(辻岡正人)が、その才能を見込まれ、男の精気を吸い取る「山女」という妖怪の退治を依頼される異色の時代劇ファンタジー。短編『イチゴジャム』が第32回ぴあフィルムフェスティバル(以下、PFF)に入選した庭月野監督の長編デビュー作で、撮影はしたものの資金難から編集が滞り、コツコツ働いて制作費を稼いで作業をしたところ、完成まで実に4年の歳月がかかった労作だ。

 だが、もともと漫画家志望だったという画才を生かしたVFXやアニメーションも交えたイマジネーション豊かな映像表現が、日本映画に造詣の深い英国の映画評論家トニー・レインズの目に止まった。彼がプログラマーの一人を務める第35回バンクーバー国際映画祭(カナダ)でのワールドプレミアを皮切りに、第21回釜山国際映画祭(韓国)、東京フィルメックスなど新鋭監督に着目している国際映画祭で次々と上映された。

 この程開催された第46回ロッテルダム国際映画祭(オランダ)では、オリジナルで独自のスタイルを持つ気鋭新人作家を対象としたブライト・フューチャー部門に選ばれ、毎回チケットが完売となる人気ぶりで、注目度の高さが伺えた。庭月野監督は「監督としては無名だし、ここまでの流れはイメージしていませんでした。ただ多くの自主映画が手弁当での上映と、自主映画祭に出品するくらいしか出来ない中、そのステップは飛び越えたいと思っていました」と胸に秘めていた野望を明かす。

 それがこの実績のある国際映画祭をまわって、無名新人監督の作品に付加価値を付けるという手法だった。だが、応募作品は無数にある。その中から選ばれるのは簡単ではない。三大映画の一つであるカンヌ国際映画祭を手始めに、映画祭オフォシャルサイトから申請料を払いつつエントリーしていった。しかし届くのは、落選の通知ばかり。自分が何か見当違いのことをしているのではないか? という違和感があったという。

 そこでPFF受賞作品が国際映画祭によく参加していることから荒木啓子ディレクターに連絡を取り、指南を受けた。それが多くの映画祭プログラマーに情報提供を行っている公益財団法人・川喜多記念映画文化財団に作品を預けるということ。作品の力があってこそだが、鑑賞してもらう機会を得たことで一気に道が拓けた。そして釜山国際映画祭が決定したことで香港の会社からオファーがあり、海外セールス会社が決定。国内配給を担当するポニーキャニオンも、フィルメックスなどでの評判が決め手となったそう。

 「海外セールスを担当するアジアン・シャドーは中華圏の作品が中心で、日本映画を扱うのは初めて。『それが不安』と伝えたところ、『私たちにとっては初めての日本映画になるので大切に扱います』と。他の映画関係者の評判もリサーチし、お願いすることに決めました。釜山へ行って海外セールス会社を決めて来る! とうそぶいていたのが本当になって出来過ぎだなと思っていたのに、日本公開も決まるとは。トニーさんや、フィルメックスの林加奈子ディレクターがプッシュしてくれたおかげです」。

 海外セールスが付いたことで作品はロッテルダム国際映画祭の後も、ヨーテボリ国際映画祭(スウェーデン)、バンクーバー国際映画祭(カナダ)と元気に世界中を一人歩きしている。日本での公開時期はまだ未定だが、作品も監督もさらに成長して凱旋上映となることが期待できそうだ。(取材・文:中山治美)