画像はイメージです。

写真拡大

 東大、東北大などの研究グループは、鳥と、その祖先であるとされる恐竜との間の形態上の違いは、タンパク質を作る配列に関する遺伝子ではなく、それらの使い方を決定する制御配列の遺伝子によって生じるのではないか、とする研究報告をまとめた。

 まずは鳥と恐竜の関係から説明していこう。昔、といってもほんの数十年前のことに過ぎないが、恐竜は爬虫類の祖先である、と考えられていた。だが今日では、この説を耳にすることはあまりなくなった。

 その代わり、新しい見解として、「鳥は、恐竜から進化した存在である」と言われるようになった。しかし、これさえも今となっては若干古い。最近では、こう言われている。「恐竜は、実は絶滅していなかった。現代に生き残っている恐竜とは、鳥である」。

 今回の研究は、この大きな仮説を補完するものである。

 次に、DNAというものについて論じよう。DNAとは、ごく大雑把にいえば「ある生物がどのように発生するかを記述した設計図」なのだが、より正確に言うと、これは設計図であると同時に、内部に命令系統を内蔵したプログラムコードでもある。

 これはどういうことか。具体例を挙げて説明しよう。キイロショウジョウバエは普通、4枚の翅を持つ。しかし、ある種の遺伝子異常を生じたキイロショウジョウバエは、8枚の翅を発生させることがある。噛み砕いて説明するが、これはDNAの中に4枚分の翅の設計図が新たに追加された為ではない。キイロショウジョウバエが元々持っている、「4枚の翅を発生させよ」という命令が、誤って二回実行されたために起こる異常である。

 このような現象をホメオティック変異という。ホメオティック変異の存在は実に1915年、今から百年以上も前に既に発見されていた。20世紀から現代にかけての科学者たちは、これらの知見を元に、長い研究史の中で「DNAの正体は、設計図に命令コードが組み合わさったものである」という事実を突き止めたのである。

 そしてもう一つ、重要な前提がある。DNAの設計図部分であるが、実は「記述されているが、使用されていない部分」というのがかなりある。たとえばヒトの場合、全ゲノム配列のうち使用されていない領域が98%に及ぶといわれる。ここから先は最新研究領域の話になってくるが、どうも、この「今は使われていない領域」が、生物の進化に際して重要な役割を果たしているのではないか、という議論が、現在研究者たちの熱い関心を集めている。

 さて、ようやく本題に戻る。鳥と恐竜の関係についてである。今回、研究チームは、世界各地の多くの鳥のDNAを調べ上げ、その共通性を分析した。その結果、鳥が空を飛ぶために必要なものの一つである「風切羽根」の発生に関わるDNAが、化石年代でいうと恐竜がまだ存在していた年代において、彼らの共通祖先の中に発生していたことが分かった、という。

 つまり、「まだ空を飛んでいなかった頃の鳥」であるところの「恐竜」は、まだ使っていなかったにも関わらず、「使わない遺伝子の領域」の中に、将来鳥になるために必要な設計図の一つを既に持っていたのではないか、というのである。

 さらに言うと、つまり、恐竜は、まだ恐竜の姿をしていた頃から、鳥とそっくり同じ「設計図」そのものは持っていたのかもしれない。ただ、「その設計図の、どの部分にどういう命令を与えるか」が変化した、その一点のみによって、想像図上の恐竜の姿と、現在地球の空を飛んでいる鳥たちの姿の違いは生じているのだ、と考えられるのだ。

 もちろん、上記述べたようなことはまだ仮説段階であり、疑いなく科学的真実として実証されたというほどのものではないのだが、しかしいずれにせよ、研究チームは、今後も「鳥を通じて恐竜の正体に迫る研究」を続けていくという。

 なお、この研究の詳細は、英国のオンライン科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』(Nature Communications)に掲載されている。