澤浦彰治(さわうら・しょうじ)●株式会社野菜くらぶ代表取締役社長。1964年、群馬県昭和村生まれ。1983年群馬県立利根農林高等学校を卒業後、群馬県畜産試験場での研修を経て、実家にて就農。こんにゃく価格の暴落をきっかけにこんにゃくの製品加工に着手。92年、3人の仲間とともに有機農業グループ「昭和野菜くらぶ」を立ち上げ、有機栽培を本格的に開始する。94年、家業を農業生産法人化(現グリンリーフ株式会社)させる。96年、有限会社野菜くらぶを設立し、2002年に野菜くらぶを株式会社化した。著書として『農業で成功する人 うまくいかない人』『小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール』がある。野菜くらぶ>> http://www.yasaiclub.co.jp/

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群馬県に拠点を置く野菜くらぶは、有機栽培した野菜を新鮮なまま食卓に届けることを目的に設立された農産物の販売会社である。有機農業生産と食品加工を担うグループ会社のグリンリーフや契約農家から仕入れた野菜を、全国の生協やスーパーマーケット、外食産業向けに年間を通じて販売している。社長の澤浦彰治氏は、こんにゃく芋栽培から始めた父の農業を継いだ2代目。野菜に自分たちで値段をつけて販売するという試みは、どのようにして生まれ、実を結んできたのか。その軌跡をたどった。

■危機のなかに成長の芽がある

――野菜くらぶは、お父様である現会長が始めたこんにゃく芋の農業生産(現グリンリーフ)を母体に、1992年、農業後継者3人で立ち上げられました。現在は澤浦社長がグリンリーフの社長も兼ねていらっしゃいます。これまでをふり返って、一番のターニングポイントは何でしたか。

【澤浦】父の代のときに経験したガット・ウルグアイラウンド(1986〜1994年)と経営危機です。ウルグアイラウンドでは、牛肉とオレンジの自由化、それにコメのミニマムアクセス(最低輸入機会)が決まったのですが、それまで養豚も営んでいた私にとって、牛肉の自由化は大きな衝撃でした。これから安い牛肉が海外から入ってくれば、豚肉を食べていた人は確実に牛肉に流れる。養豚ではこの先やっていけない、やばいぞ、と。

また、88年から90年にかけて農産物の値段が暴落しました。それまではつくった農産物を農協に出荷するだけで、自分たちで値段をつけられませんでした。相場が暴落すると、借金も肥料代も払えない状態に。農家の経営が安定しないのは自分たちで値段を決められないからだと痛感し、自分たちで販路を開拓する「野菜くらぶ」を立ち上げたのです。同時期に養豚も廃業し、その資金を元手に、独自の製法によるこんにゃくの製品加工を始めました。これも商品に値段をつけるためです。

――ウルグアイラウンドと経営危機は大きな試練だったと思います。他にも危機的状況を乗り越えた経験はありますか。

【澤浦】野菜くらぶが出荷したレタスが腐っていたことがありました。するとお客さまが一言、「真空冷却できる農協じゃないと、やっぱりダメなのかな」と。それで一念発起して、真空冷却機を自社開発して導入しました。また、冷涼な気候を好むレタスは、群馬の私たちの農場では夏期の生産が不安定でした。これが原因で取引先との契約が打ち切りになったこともあります。そこで夏レタスの産地である青森や、冬でもレタス栽培ができる静岡に農場をつくり、通年で生産できる体制を整えました。

もっと最近の危機で言えば、東日本大震災での原発事故です。私たちの野菜は「有機栽培」や「特別栽培」が売りですが、放射能汚染への不安から、群馬県産というだけで出荷停止となり、売上が半減しました。有機栽培や特別栽培だけでは万全ではないと痛感し、「利便性」を打ち出した惣菜キットの生産販売を始めました。

このように、危機はところどころで経験しています。ただ、よく考えると、危機的状況のなかで次の成長の芽が生まれているものですね。危機がなかったら、いまの自分たちはなかったと思います。

■“第2の野菜くらぶ”は成功するか

――グループ全体では、生産(1次産業)から、加工(2次産業)、流通(3次産業)まで手がける6次化を実現しています。これから農業の6次化に興味を持つ生産者に対し、アドバイスするとしたらどんな言葉をかけますか。

【澤浦】農産物を加工すれば付加価値がついて売れると考えがちですが、それは早計です。やはり、もととなる農産物に競争力がなければ、加工しても魅力ある商品にはならないと思います。ですから、農産物それ自体を、「あそこのものがいい」と選ばれるものにしていく。あとは、自分たちが拠点を置く地域の強みをどう生かしていくかを考えることも大切でしょうね。

――安易な6次化は失敗すると。

【澤浦】そう思います。当社でも少し前まで、農業に熱い思いを抱えてやって来た若者が、2、3年で辞めてしまうことがありました。「野菜くらぶのように、自分たちで販路を開拓する事業をやりたい」。そう言って出ていくわけです。でも、それは無理だよって私は言うんです。なぜなら、野菜くらぶがここまで成長できたのは、それを後押しした時代背景があるからです。農家が自分たちで売り先を見つけられなかった時代に、なんとかそれを実現しようと思って自分たちはやってきた。お客さんと一緒に成長してきたわけです。

たとえばいまの時代、クルマ好きな人がトヨタでしばらく修行した後、第2のトヨタをつくるんだと言って起業する人はいますか? いませんよね。すでに市場が成熟し、プレーヤーも再編・集約されているなかで、いまから自動車メーカーをつくろうという人は出てこないわけです。農業でも同じような状況になっていくと思います。これから“第2の野菜くらぶ”を狙っても、成功するかどうかはわかりません。

それよりも、私が家族経営の農家だったら、「野菜くらぶ」に野菜を出荷する側の生産農家でいることを選びますね。自分たちで値段が決められるのなら、生産に特化したほうが豊かな生活ができますから(笑)。

――規模が大きくなるほど割に合わない、と農業生産法人の社長さんは皆さんおっしゃいます(笑)。では、自社の将来を考えたときに、取り組むべき経営課題は何だと思われますか。

【澤浦】一番重要なのは商品開発です。なぜなら、商品開発=顧客の創造だからです。もうひとつは生産性の向上。生産の競争力を高めると同時に、働く人たちの福利厚生の充実も含まれます。

■農家がつくる素朴なこんにゃくがヒット

――商品開発について伺います。どのような考え方で商品開発を行っていますか。

【澤浦】一番のテーマは「有機栽培」「有機食品」です。有機食品の市場シェアは日本ではまだ0.2%ですが、海外を見るとドイツでは12%、フランスでも8%を占めています。今後日本でも開拓の余地があると思っているので、力を入れていきたいですね。また、お客さまから要望される「有機栽培」だけでなく、先ほどお話しした惣菜キットのように、「利便性」を付加した商品開発も行っています。自分たちが得意な農業を核に、そこから派生するさまざまな加工やサービスも取り組むべき範疇と捉えています。

――現在、200を超える商品を生産販売しています。新商品を開発する際の基準はどのように考えていますか。

【澤浦】ひとつはお客さんからの要望で、「こんな商品がほしい」という声がきっかけになることもあります。もうひとつは、自分たちからの提案です。「これはおいしいから、ぜひお客さんにも紹介したい」とか、「こんなのがあったら便利だな、自分たちもほしいな」という商品を世の中に出していく。つまり、これまでなかったものを提案する商品づくりです。

――自分たちのアイデアを世の中に提案して、ヒットした例があれば教えてください。

【澤浦】こんにゃくで言うと、手で丸めたこんにゃくです。グリンリーフが最初にこれを始めた頃は、生芋のこんにゃくはあまり世の中にありませんでした。農家でつくるこんにゃくはおいしい、と好評だったので、そのままのつくり方で世に出したら絶対に売れるだろうと思ったのがきっかけです。ただ、資金不足で四角い型が買えず、しょうがないから手で丸めようと。それがかえって注目され、ヒットしました。

漬け物では、「糖しぼり大根」という商品があります。有機栽培で育てた大根は、曲がったり割れていたりするものは捨てていましたが、当時パートだった社員が、捨てるのはもったいないと漬け物にして持ってきたんです。それをみんなで食べたら、とてもおいしかった。じゃあ漬け物もやろうか、と気軽な気持ちで始めました。

ところが、最初は店に置いておくだけではなかなか売れませんでした。食べてもらえればおいしさがわかってもらえて、きっとリピーターになってもらえる。確信はありましたが、それを伝える手段がなかったのです。ちょうど宅配のパルシステムさんでの取り扱いが決まり、カタログで商品の良さや背景などを説明したら、大ヒット商品になりました。いまは店頭での商品訴求に熱心なスーパーさんでも置いてもらっていて、店頭でも人気の商品です。

■自己資本比率は3割以上が鉄則

――今後の成長に向けてどのような目標値を設定していますか。農業経営で収益を上げていくためのポイントがあれば教えてください。

【澤浦】自己資本比率がとても大事だと思っています。これを実感したのは、震災のときです。震災で当社の主力である有機食品が売れなくなり、利便性を打ち出した惣菜キットの製造販売を始めたことはすでにお話ししました。

ただ、惣菜キットの製造を始めるにしても、売上が激減しているため投資ができない。そこで借入を増やして総資産を増やしたのですが、それができたのは自己資本が30%あったからです。借入を増やしたことで自己資本比率は20%まで落ちましたが、いまは徐々に戻りつつあります。

中小企業では自己資本が最低でも3割は必要だと言われますが、その通りだと思います。従業員が増えていくにつれ、自己資本も厚くしていく必要があります。そうでなければ、経営が傾いたときに、解雇やリストラに直結してしまいますからね。従業員が安心して働けるために、自己資本比率3割を維持することはとても大事だと思います。

――その意味でも、毎年の利益をどう使うのか、どれだけ投資にまわし、どれだけ内部留保にまわすのかは重要なポイントだと思います。そのあたりはどうお考えですか。

【軽部】自分では経常利益10%が理想だと思っています。ただ、正直なところ、それは過去に一度しか出したことがないですけれどね。

(後編に続く)

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農林水産業ビジネス推進室はトーマツ内の農業ビジネス専門家に加え、農業生産法人などの農業者、小売、外食、食品メーカー、金融機関、公官庁、大学他専門機関など外部組織と連携し、日本農業の強化・成長を実現するための新しい事業モデルの構築を推進している。詳細はWebサイト(https://www2.deloitte.com/jp/aff)参照。

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(澤浦彰治(野菜くらぶ)=談 大和田悠一(有限責任監査法人トーマツ)=聞き手 前田はるみ=文・構成)