そりゃあんまりな「職業別・年収別の未婚率」

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■パソコン操作員のアラフォー未婚率 男55%女43%

前々回の記事では、アラフォー男性の年収別の未婚率を出したのですが、稼ぎの少ない層ほど未婚率が高い、という残酷な現実が露わになってしまいました(http://president.jp/articles/-/20926)。誰もが肌感覚で感じていることですが、データで可視化されるとショッキングです。

今の日本では未婚化が加速度的に進んでいますが、社会学をやっていると「結婚できないのは誰か?」という問いを立てたくなります。自由意志で行う結婚も、外的条件に制約されることがしばしばです。意志があっても結婚できない、いや結婚しようという希望そのものが削がれてしまう……。収入などは、結婚チャンスを規定する条件の最たるものです(とくに男性)。

前々回の記事が関心を集めたようですので、調子に乗って、このテーマをもう少し深めてみましょう。

今回は、職業別の未婚率を計算してみようと思います。職業とは社会の中で果たしている役割ですが、それは人間のアイデンティティの源泉で、当人の意識や価値観を強く規定しています。声高には言えませんが、収入や威信にも傾斜がつけられています。当然、未婚率職業によって大きく異なるでしょう。

2012年の総務省『就業構造基本調査』によると、同年10月時点の35〜44歳の男性有業者は890万2100人で、このうち未婚者は250万9800人。よって未婚率は28.2%となります。最近では、アラフォー男性の3割近くが未婚です。同年齢の女性有業者の未婚率は23.8%で、男性よりも少し低くなっています。

しかしこれが、職業別にみると大きく違っている。

私は、35〜44歳男女の未婚率職業別に計算してみました。図1は横軸に男性、縦軸に女性の未婚率をとった座標上に、64の職業を配置したグラフです。

右上は男女とも未婚率が高い職業ですが、事務用機器操作員は高いですね。男性は55.1%、女性は42.7%です。パソコン操作員や電子計算機オペレーターなどですが、昼夜問わず不測の事態への対応を迫られるので、激務なのでしょうか。

美術家・デザイナー、著述家・記者・編集者、研究者といった創作系の職業未婚率が高くなっています。仕事へのコミットメントの度合いが高く、生活も不規則(不安定)になりがちだからでしょう。私が関わっている編集者さんでも、未婚の方が結構おられるなあ。

■同じ職業でも未婚率に「歴然たる男女差」あり!

斜線より上にあるのは、女性の未婚率が男性より高い職業です。医師は性差が大きくなっています。男性が6.1%なのに対し、女性は28.7%です。高収入ということがあるでしょうが、超激務ゆえに家事・育児との両立が困難なためと思われます(女性)。

聞くところによると、大病院の医局などでは、妊娠した女性医師へのマタハラがすさまじいそうです。仕事か、家庭か。医師は、こうした選択を迫られる度合いが高い職業といえるでしょう。未婚率のジェンダー差、さもありなんです。

経営・金融・保険専門職は、ジェンダー差がもっと大きくなっています。男性は17.8%ですが、女性は50.4%と半分を超えます。公認会計士や税理士などですが、こういう専門職への参入チャンスが既婚女性に開かれていないのは残念です。

右下は男性の未婚率が高いゾーンですが、少数の例外を除くと、サービス職や労務職が多くなっています。

未婚率職業差をみましたが、これが自由意志の差と考える人はいないでしょう。個々人の意向とは別の、外的条件による制約(拘束)を強く被っていると思われます。

たとえば、年収との相関はどうでしょう。

図1によると、男性の未婚率が最も低いのは高給の医師です。先に書きましたが、収入は結婚チャンスを規定する条件の最たるもの。男性の職業別の平均年収と未婚率の相関図を描くと、図2のようになります。

平均年収は、それぞれの職業の年収分布から独自に計算したものです。全就業者の数値ですが、アラフォー年代の平均年収の相似値とみてよいでしょう。

ドットの配置は右下がりで、職業別の平均年収と未婚率はマイナスの相関関係にあります。年収が高い職業ほど、未婚率が低い傾向です(統計的に有意)。

■女性は年収が高い職業ほど未婚率も高い

男性の場合、稼げる職業に就いているほど結婚しやすい。身も蓋もない言い方をすればこういうことですが、男性の年収と未婚率がマイナスの相関関係にあるのは、前々回の記事でも明らかになったこと。

しかるに女性では、構造が違っている。図3は、年収と未婚率の相関図の女性バージョンです。

女性の場合、男性とは逆に年収が高い職業ほど未婚率も高い傾向です。相関係数は+0.4655で、こちらも統計的に有意と判断されます。医師を外れ値として除くと、相関係数は+0.5503ともっと高くなります。

女性にあっては、収入が多い高度専門職は、家庭生活との両立が難しいためと思われます。あと、「結婚したら家庭に入るべし」というジェンダー観が未だに根強いこともあるのでは……。

こんな話を聞いたことがあります。30歳を過ぎて大学教員になった女性で、交際中の彼(この人も研究者)の実家に挨拶に行ったところ、親御さんから「結婚したら仕事を辞めることも視野に入れてほしい」と言われたのだそうです。

30過ぎまで、高いカネと時間をかけて大学院で高度なトレーニングを受け、やっと大学教員になれたのに、「結婚したら辞めろ」などと言われたら、たまったものではありません。アメリカだったら、侮辱罪で訴えられるのではないでしょうか。こういう話を聞くと、専門職の女性の未婚率が高いというのは頷けます。

・男性は、年収が高い職業ほど未婚率が低い。
・女性は、年収が高い職業ほど未婚率が高い。

分かったのは、ジェンダーによる反対の構造です。「男は仕事、女は家庭」「男性が一家を養うべし」という性別役割観は、昔に比して薄れていると言われます。世論調査のデータでも、そうした意識の変化はみられます。

しかし建前は別として、結婚の統計からは旧来のジェンダー観が未だに根強いことが見えてくる。口先の意見ではなく、人間が実際にどう動いているかの統計は、本当に正直です。

ちなみに、働いて家計を支えるのは女性という社会もあるのですよ。第6回『世界価値観調査』(2010〜14年)によると、タイでは、30〜40代の有配偶女性の56.8%が、自分が「主たる家計支持者」と答えています(ドイツは27.1%、アメリカは20.1%)。日本はたったの5.0%です。わが国の常識が普遍的などと考えてはいけません。

リンダ・グラットン教授の『ライフ・シフト』に書いてあったような気がしますが、人生の各ステージにおいて、主たる家計支持者が柔軟にチェンジできるようになればいいですよね。こういうスタイルを普及させることも、未婚化や少子化に歯止めをかける戦略といえましょう。

社会の側にすれば、高度な教育で育て上げた女性のハイタレントを十分活用することにつながります。日本の労働生産性の低さは知られていますが、人口の半分を占める女性の社会進出が制限されていることにもよるでしょう。

回を改めてデータを示しますが、日本の高学歴女性のフルタイム就業率は世界でも最低レベルです。ただでさえ労働力が減っているのに、こんな「ムダ」をしている場合ではないのです。

(武蔵野大学、杏林大学兼任講師 舞田敏彦=文・図版)