By CollegeDegrees360

あることを学習して身に付けるためには、反復して学習を行うことが重要であることはよく知られていますが、身についてからもさらにダメ押しで学習することで脳に知識を「定着」させる効果があることが明らかにされています。

Overlearning hyperstabilizes a skill by rapidly making neurochemical processing inhibitory-dominant : Nature Neuroscience : Nature Research

http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/full/nn.4490.html

How to activate your brain's ability to learn | Popular Science

http://www.popsci.com/study-brain-overlearning-to-master-skills

From ‘overlearning’ to going barefoot: how to learn better | Science | The Guardian

https://www.theguardian.com/science/shortcuts/2017/jan/31/overlearning-to-going-barefoot-how-to-learn-better

科学誌「Nature Neuroscience」に掲載された論文によると、脳は一定の学習を行った後に再度同じ内容を学習することで、習得した内容を脳細胞レベルで「固定化」する働きがあるとのこと。アメリカ・ブラウン大学認知言語心理学科の渡邊武郎教授らによる研究チームは、視覚を用いた訓練によって脳が学習を行うことに関する研究を実施し、習得後にも同じ内容を反復することで脳への固定化が行われることを明らかにしました。

研究では、2つの被験者グループに「ガボール・パッチ」と呼ばれる線状の模様が現れる画像を複数与えて学習を行わせました。学習の際、片方のグループでは内容が身についてきたことが確認できた時点で訓練を終了させています。その際、平均して8回目の学習で訓練を終了しているとのこと。30分の休憩を挟み、次に別の内容を同様に学習させて1日目は終了。そして次の日、被験者に学習した内容に関するテストを行わせたところ、休憩後に行った学習内容に関しては良好な成績を示したものの、最初に学習した内容については惨憺たる結果で、何も学習していないのと同じレベルの成績しか示すことができなかったとのこと。



この結果について渡邊教授は「新しいスキルをマスターしてすぐに訓練を終了したシチュエーションでは通常、脳の中でそのスキルに関する分野は可塑的な状態が続いています」と述べています。これはつまり、脳の中で新しいスキルを身に付けるためのモードが継続されており、まだ記憶が定着していない状態であるということ。そして、この状態で別の新たなスキルの訓練を行うと、それまでの記憶が新しい記憶によって上書きされてしまうということがわかっています。これは、古い記憶が新しい記憶によって妨げられる記憶の干渉、特に逆向抑制が起こっていることを示しています。

もう一方の被験者グループでは、同様に最初の学習を行って身についたことが確認された状態から、さらに8回同じ内容を繰り返して学習させ、合計16回の学習を行う「オーバーラーニング」を実施させました。そして30分の休憩の後、こちらも同様に別の内容を学習させるというサイクルを実施させました。

そして次の日、同じように学習した内容に関するテストを実施。すると、1つめの内容に関するテストでは先述のグループに比べて明確に良好な結果を残しました。これは、学習後におよそ20分の「オーバーラーニング」を実施することで、記憶が脳に定着させることに成功していることを意味しています。また、2つめの内容に関するテストにも先述のような「記憶の干渉」は起こっていないことが確認されているとのこと。しかし、テストの結果はオーバーラーニングを行わなかったグループに比較するとやや低いものだったことがわかっています。

結果をまとめると、オーバーラーニングを行わないグループは、1つめのテストではほとんど結果を残せなかったかわりに、2つめのテストでは良好な結果を残しています。一方のオーバーラーニングを行ったグループは、1つめのテストで良好な結果を残し、2つめのテストでは他方に比べるとやや劣るものの、悪くない成績を示すことができていたとのこと。これらの結果を総合して考えると、オーバーラーニングを行ったグループのほうが総合的に良い結果を残していると判断することができます。

この違いを調べるために、渡邊教授はMRIの一種で脳内にある物質の成分を調べることができるMRスペクトロスコピーを用いて脳の動作を調査しています。脳内の働きを知るためには、脳内の血流を可視化することで活発化している分野を調べるfMRIが用いられることが多いのですが、研究チームはMRスペクトロスコピーを用いることで脳内で炭素や窒素などの物質がどの部位に存在しているのかをトラッキングし、神経伝達物質がどこで働いているのかを解析したとのこと。



MRSを用いた検証では、上記のような学習を2つのグループに行わせて脳内の違いを観察。ただしこの時は、1つの課題についてのみ学習を行わせ、片方のグループには8回の学習のみ、もう一方のグループには、16回の学習「オーバーラーニング」を行わせています。研究チームは被験者の脳を学習前と学習30分後、そして3.5時間後にMRSでスキャンし、一度目の実験と同様に2日目にテストを行わせました。

この研究の結果、オーバーラーニングを行っていないグループの脳内には、主にグルタミン酸による興奮性が高いことが確認されたとのこと。グルタミン酸は脳の可塑性を高めることで「学習しやすい状態」にする作用があります。一方、オーバーラーニングを行ったグループの脳内では、抑制性の神経伝達物質であるGABAが多く存在していることが確認されています。

渡邊教授はこの違いについて「オーバーラーニングを行うことで、脳の状態が可塑的から安定的に急激に変化します」と述べています。つまりこれは、オーバーラーニングを行うことで脳は記憶を定着させ、上書きされにくい状態にする働きがあることを示しています。1つのことを確実に身に付けさせるためには、ある程度学習が完了した段階からさらに繰り返し学習を行わせることが有効であるといえます。

しかし、このオーバーラーニングを過剰に信頼するべきではない、とインディアナ大学のロバート・ゴールドストーン教授は指摘しています。オーバーラーニングによる効果は4週間程度で消失することを示す別の研究結果が示されており、オーバーラーニングに間隔反復による学習を組み合わせることなどではじめて効果的な学習を完了させることができる、ともされています。

研究チームによる論文は、以下のリンクから閲覧することができます。

Overlearning hyperstabilizes a skill by rapidly making neurochemical processing inhibitory-dominant : Nature Neuroscience : Nature Research