マレーシア王者のJDTはG大阪に完敗。しかし、スタンドでは熱い応援が繰り広げられていた。写真:川本 学

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 今シーズン初の公式戦、ガンバ大阪とマレーシア王者ジョホール・ダルル・タクジム(以下JDT)のACLプレーオフの試合を観戦しようと、吹田スタジアムに足を運んだ。
 
 観戦の目的は、G大阪の仕上がりを確認するためではない。
 
 2年前、旅の途中でジョホールバルに立ち寄った僕は、日本がワールドカップ初出場を決めた伝説のスタジアム「ラルキン」で、JDT最大のサポーターズグループ「海峡ボーイズ」のハクさんと知り合った。そのハクさんがJDTを応援するため、初来日するという。向こうでお世話になった身としては、これは行くしかない。
 
 キックオフは午後7時だというのに、3時ごろにはすでに30人ものJDTサポーターが万博記念公園に集結していた。
 
 これは驚きだった。JDTは予選2回戦からの参加。1月31日、格上タイのバンコク・ユナイテッドをPK戦の末に破り、大阪行きを決めた。つまりハクさんを含めたサポーターたちは、この1週間で仕事や学業、渡航費の都合をつけて、物価の高い日本に乗り込んできたのだ。建設会社に勤めるハクさんも、懸命に仕事を片付け、上司の許可を得て3日間の休みを取ったという。
 
 JDTのサポーターのほとんどはイスラム教徒。そのため、食事についてはイスラム法で許された「ハラル食品」しか口にできない。
 
 そのあたり、ハラルの少ない日本でどうしているのか尋ねると、敬虔なイスラム教徒は、自国からパンや麺類などの食品を持ち込んでいるようだった。僕も親切な一家にビーフレンゴという肉料理をご馳走になったが、これがなかなか旨かった。
 
 一方、ハクさんたち「海峡ボーイズ」の面々は準備がよく、日本人の知り合いからハラルが食べられるレストランの情報を取り寄せていた。そこで天丼を食べ、スタジアムにやって来たそうだ。
 
 時間が経つにつれて、スタジアムには続々とJDTサポーターが集まってきた。このJDTサポーターの特徴は、とにかく感じがいいということに尽きる。
 
 大声で騒いだりせず、日本人と目が会うたびに笑顔で挨拶する。ゴミが出てもポイ捨てせず、ゴミ箱を探して捨てに行く。道端だから勝手に吸えばいいのに、わざわざ「タバコ喫ってもいいですか」と訊いてくる。
 ワールドカップが開催されるたびに、日本人のマナーの良さが話題になるが、マレーシア人も素晴らしい。
 
 さて、試合はご存知の通り、G大阪が格の違いを見せつけ、3-0で快勝した。JDTは自陣から丁寧につなぐサッカーを最後まで貫いたが、守備ではG大阪のテンポについていけず、あっさりとゴールを失うことになった。
 
 ひと言でいえば完敗。だが、常夏の国からやって来たサポーターたちは、極寒の中でも上半身はだかになって「俺たちは死ぬまでJDT!」、「赤と青、俺たちのすべてを捧げる!」と叫び続けた。チームが劣勢でも自分たちだけは怯むまいと気勢を上げ、自慢のレパートリーを歌い切った。
 G大阪サポーターのみなさん、彼ら彼女たちの声はちゃんと届いたでしょうか?
 
 JDTの冒険は、真冬の大阪で終止符が打たれた。だが、彼らは着実に成長している。ACLに初出場した2015年は、予選1回戦でインド勢を相手に大苦戦していたが、それから2年で本大会の一歩手前まで勝ち上がってきた。
 
 試合後、ハクさんは「いやあ、とにかく寒かったし、ガンバはちょっと強すぎた」と話したが、「でも、僕らはできることをやった」と清々しい表情を浮かべていた。
 アジアのトップは遠いものの、成長の手応えが確実にある。これは何よりも嬉しいことだろう。
 
「ジョホールバルの奇跡」の頃、僕たち日本サッカー界は世界に打って出ることに興奮していた。それをいま、JDTのみんなが感じているのかもしれない。
  また近い将来、どこかのスタジアムで会うことになりそうだ。

取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)