2017年千代田区長選挙、小池知事応援の石川氏当選(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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 2月5日に投開票された東京・千代田区長選は、小池百合子都知事が支援する現職の石川雅己候補がほかの2候補にトリプルスコアで圧勝した。千代田区は、首都・東京の心臓部にあたる自治体。そのトップを決める選挙だけに、テレビ・新聞各社は“首都決戦”と大々的に報じた。

 マスコミが千代田区長選を大きくクローズアップした背景には、世間で大人気となっている小池都知事が頻繁に現職を支援するために街頭に立ったこと、かねてより“都議会のドン”といわれる内田茂都議との対決構図を描いたことが挙げられる。対決を鮮明にしたことで、都知事選に続き千代田区長選も「既得権益を打破する小池都知事vs.守旧派の自民党」という構図が描かれることになり、それらが世間の耳目を集めた。今回の千代田区長選で小池都知事が支援する現職が圧勝したことで、ますます小池都知事の存在感が強くなるといった予測が早くも出ている。

 しかし、内実は異なる。石川区長は2001年から千代田区長を務め、すでに4期の実績がある。それだけに、今回の区長選は公示前から現職の勝利が確実視されていた。事前から自民党都連は対立候補の選定に悩み、擁立は困難を極めた。世間的には、小池都知事が支援したことで石川区長と小池都知事とが政策的に一致していると思われがちだが、ベテランの都職員はこう話す。

「石川区長は01年に千代田区長に当選して以来、ずっと千代田市構想を唱え続けてきた人物です。石原都知事時代から東京都は強い東京を推進し、“日本の首都”を前面に打ち出すようになりました。強い東京を実践するためには、東京都を弱体化させる“千代田市構想”は絶対に認められません。それは、猪瀬・舛添・小池と都知事が替わっても同じです」

●千代田市構想

 都職員が口にする千代田市構想とは、現在23ある特別区を市に昇格させるといった構想だ。千代田区や港区、新宿区、大田区、世田谷区、足立区といった東京の23区は、東京都にしか存在しない特別区という特殊な自治体だが、その実像は自治体としては“半人前”でしかない。千代田区が千代田市になると、制度上は“一人前”の自治体として扱われるようになるが、具体的にどのような変化が起きるのか。千代田区職員は、こう解説する。

「本来、固定資産税・市町村民税法人分・特別土地保有税の3税は市町村の財源になります。ところが23特別区は、これら3税を完全な自主財源にできません。23区には都区財政調整という制度があり、3税はいったん東京都が徴収することになっています。そのうち45パーセントを都が取り、残り55パーセントを23区全体で分配するのです。千代田区の3税総額は3300億円以上ありますが、そのうち千代田区に戻るのはわずかに70億円です」

 千代田区が市になれば、3300億円が自主財源になるのだから大きなプラスといえる。千代田区が市になりたいと考えるのは、当然の成り行きなのだ。

●東京都にとっての危機

 一方、東京都にしてみれば、千代田市が実現すれば大幅な税収減になる。都庁職員が「千代田市が実現すれば東京都が弱体化する」と指摘するのも頷ける。千代田区だけが市になるならまだ傷は浅いが、千代田区を皮切りに港区や新宿区、渋谷区などが雪崩を打つように市になれば、東京都は崩壊するだろう。だから、東京都は、絶対に千代田市などという独立構想を許すわけにはいかない。

「石川区長にとって、千代田市構想は悲願ともいえる政策です。だから任期中に実現できなくても道筋はつけておきたいと考えていることでしょう。つまり、小池都知事にとって石川区長は獅子身中の虫。石川区長にとっても、小池都知事は目の上のたんこぶみたいな存在なのです」(前出・千代田区職員)

 今回の千代田区長選で、自民党が推す候補が勝利したら小池都政にとっても大打撃だっただろう。しかし、石川区長が勝利しても手放しで喜ぶことはできない。石川区長が5選を果たしたことで、千代田市構想は実現に一歩近づいたのだ。それは、東京都にとって財源を奪い取られる危機に近づいたということでもある。

 勝っても負けても、小池都知事の眼の前はイバラの道が続く。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)