「ちょっと(ストーン同士が)離れると、(相手に)2点取られるかもしれない」
「(相手のストーンを)ひとつだけでも出しておけば、1点で済むかも」
「当てるなら(相手のストーンの)内側だね」

 長野県・軽井沢アイスパークで開催された第34回全農日本カーリング選手権(1月30日〜2月5日)。女子決勝の最終10エンド、6-5の1点リードで有利な後攻を持ったのは中部電力だった。しかし、スティール(先攻のチームが点を取ること)を狙う対戦相手のロコ・ソラーレ北見(LS北見)に攻撃的なショットを次々に決められ、スキップの松村千秋の1投目を前にしてタイムアウトをとった。

 得点になるナンバー1ストーンの位置には、自分たちの黄色い石があったが、微差で相手の赤い石も中央にあり、さらにそこからストーン1個分ほど離れた場所にもうひとつ、LS北見の赤い石が残っていた。つまり、もしミスが出れば、続くLS北見のラストショットで黄色のナンバー1ストーンをテイクアウトされたうえ、ハウス内には相手の赤い石だけが2つ、あるいは3つ残ってしまうという難しい状況にあったからだ。

 1分間のタイムアウトでは、スキップ・松村の父である松村保コーチのアドバイスを受けた。だが、その後もなかなか結論が出ず、持ちタイムはさらに2分減った。そこで、松村が投げるドローショットについて、冒頭の会話がかわされた。

「(ハウス内の)3つのストーンに密集させるように、フリーズ(ぴったりとくっつける)させるアイデアもあるけど、ミスが出た場合には、逆転の2点スティールの可能性がある。それだけは避けるために、まずは最低ひとつ、赤い石を出してしまおう。その場合は、赤い石の内側を狙って、外に追いやるようなショットをしよう」

 冒頭の会話を含め、チームで話し合った内容は、要約すると上記のような意味になる。特筆すべきは、これらのセリフはすべて、創部からのメンバーで主将でもある清水絵美(26歳)ではなく、スキップの松村(24歳)でもなく、20歳になったばかりのふたり、セカンドの北澤育恵とリードの石郷岡葉純(いしごうおか・はすみ)によるものだったことだ。

 結局、この20歳のふたりの意見が採用され、松村は北澤が立てたブラシに向かってデリケートなタップを決めた。中央から少し離れていた相手の赤い石のみを外側に押しやりつつ、シューター(自ら投げたストーン)も中心近くに残すナイスショットだった。

 その直後、LS北見のスキップ・藤澤五月のショットは、手前のガードに当たった。その瞬間、中部電力の優勝が決まった。


3年ぶりに日本選手権を制した中部電力

 お互いの健闘をたたえる握手をLS北見の4人とかわすと、中部電力の面々はまず北澤が松村に抱きつき、そこに石郷岡が加わり、松村は頼れる後輩たちの肩を強く抱いて「よくばんばった」とねぎらった。

 それは、中部電力の躍進の理由を示す光景だった。

 松村は、今季について「とにかく(チーム内で)コミュニケーションを図ってきた」と振り返る。

 松村自身は主将の清水と、そしてこの日、対戦相手となったLS北見のスキップ・藤澤らとともに、2011年〜2014年まで日本選手権4連覇を果たしている。ただその頃は、「お姉さんたちに、いかに迷惑をかけずにプレーするか、ということばかり考えていた」という。

 当時の中部電力は、藤澤という国内屈指の技術を持つスキップ中心のチームだったため、彼女にフィニッシュを託すようなセットアップが求められていた。世界を見渡してもスキップを中心とした強豪は多く、こうしたチームの強化方針はひとつの常套手段ではあったが、その分、当時のチームでは若い松村の発言が、ショットセレクションの決定に関わってくることはほとんどなかったと言っていい。

 その中部電力も、2013年秋の五輪トライアルで敗れてソチ五輪の出場を逃すと、翌春に主将の市川美余が退社。さらに、2015年の春にはスキップの藤澤がLS北見に移籍した。王座は北海道銀行やLS北見に移り、今や中部電力に対して「古豪」といったイメージを持つファンも増えていた。

 そんな状況になっても、新生チームのスキップを担った松村は腐らなかった。そして、清水らメンバーとの会話を重ねて、「全員でショット選択できるようなチームを作ろう」という結論を出した。技術や戦術を磨くのはもちろんだが、一方で年齢やキャリアなどにとらわれず、コミュニケーションを密にして、何でも言い合えるチームを作りたい――。

 その意向については、会社にも報告した。すると、「遠回りでも、それが(チームの)強化になるなら応援する」と経営陣も同意。今季は、1カ月を超えるスイス合宿や、アメリカ合宿などを敢行した。その成果の大きさを、大日方優次監督が語る。

「(海外遠征を重ねて)寝食をともにし、選手たちがお互いを観察し、知ろうとし、それぞれを思いやる気持ちが強くなったのは明らか」

 チームの誰もが発言し、何でも言い合える雰囲気を築いた中部電力は、見事に結果を出した。大会を通してみれば、すっかり”お姉さん”になった松村のゲームメイクも光っていた。「こっちのラインのほうが投げやすい」「あんまりリスクを負いたくない」などと言うシーンもあり、自身の技術と得点チャレンジへのバランスをうまくとって、チームの勝利に貢献した印象だ。

 決勝の最終10エンドでも、「最悪、1点スティールされても、(延長の)11エンドで勝てばいいと思っていた」(松村)という想定は、チームみんなで共有していたという。

 中部電力はこの優勝によって、前回覇者で昨年の世界選手権2位のLS北見と、平昌五輪代表の座をかけた9月の代表決定戦(北海道北見市常呂町で開催)に進出することが決まった。

 松村は「(五輪代表への)挑戦権を得たので、楽しんで勝てたらいいです」と、北澤は「何ができるのか話し合って、(代表決定戦に向けて)しっかり準備をしたい」とコメントした。

 2009年に創部した中部電力カーリング部。2014年ソチ五輪出場は、あと一歩のところで叶わなかった。8年越しの夢実現へ。無欲ながらも、密なコミュニケーションを武器にして大舞台に挑む。

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