精髄損傷患者20万人の期待

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脊髄を損傷すると手足など体の各部に麻痺が残る。しかし、手足につながる一部の神経経路は損傷を受けずに残っており、回復に役立つのではと考えられているが、詳細はわかっていなかった。

自然科学研究機構・生理学研究所のチームが、サルの実験によって残された神経経路を特定し、損傷後の早い段階から回復に重要な役割を果たしていることを発見した。研究成果は米国立科学アカデミー紀要「PNAS」(電子版)の2017年1月17日号に発表された。

サルは脊髄損傷しても手の動きが回復する

わが国では毎年約5000人が交通事故などで脊髄損傷になり、体が麻痺したままの患者は20万人以上に達する。損傷した脊髄を完治する方法は確立されていない。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った神経組織の移植研究が進んでいるが、まだマウスの実験段階だ。

生理学研究所の発表資料によると、脊髄損傷の多くは大脳の運動野からの情報を伝える脊髄の神経組織が損傷し運動麻痺が起こるが、損傷を免れた神経経路が精髄内に存在する。しかし、運動麻痺の回復にどのように役立つかは不明だった。そこで研究チームは、脊髄を損傷したサルが運動麻痺により手指の細かな動きができなくなっても、1〜3か月後に回復する例が多いことに着目した。

細胞の遺伝子を操作し様々な神経経路をオン(接続)にしたり、オフにしたり(遮断)する特殊な技術を使い、残った神経経路が脊髄を損傷させたサルの回復にどのような影響を与えるか調べた。まず、脊髄損傷後に手指の細かな動きがある程度回復した時に、特定の神経回路を一時的にオフにした。すると、サルの手指の動きは少し悪くなったが、すぐに回復した。次に、この神経回路を精髄損傷以前から損傷後3〜4か月半までオフにしたままにしておくと、手指の細かな動きは回復しかけた途中で止まってしまった。

回復過程には2段階あり、最初の段階に重要

こうした結果から、回復過程には2段階あり、最初の段階に重要な役割を果たす神経経路がうまく働かないと回復が進まないことがわかった。一方で、いったん回復が進むと、おそらく他の神経経路群が回復に関わることになり、元の神経経路の役割が相対的に低くなることも確認された。

研究チームの伊佐正・京都大学教授は、発表資料の中でこう語っている。

「私たちの研究で、これまでわからなかった脊髄損傷後の回復過程で重要な役割を果たす神経経路を特定することができました。脊髄損傷の新たな治療の開発やリハビリテーションの方法につながる成果だと期待できます。iPS細胞などの再生医療は外から細胞を移植する技術ですが、私たちの研究は残存する神経ネットワークを活用する画期的なアプローチです」