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第27回から第29回にわたって、OpenCVを用いたトラッキングの実装方法、トラッキング手法についてご紹介してきました。今回は、OpenCVに実装されているトラッキング手法のうち最後の1つであるKCFを紹介したいと思います。

○KCFの特徴

KCF(Kernelized Correlation Filter)[1][2]は、Boosting、MILと同様に追跡中の物体の画像を随時学習しながら追跡します。しかし、Boosting、MILのようなSVMやBoostingなどの一般的な2クラス識別器を用いた手法(図1:上段)と異なり、KCF(図1:下段)はFFT(Fast Fourier Transform)によりメモリ使用量を抑えつつ、かつ高速に物体を学習し追跡することができます。また、一般的な2クラス識別器を用いた手法は、物体の予測位置の周辺からランダムに探索窓(subwindow)をサンプリングし識別処理を行いますが、KCFでは1画素ずつ密に探索窓をシフトさせた画像群をFFTにより解析的に処理することができるという特徴があります。

○KCFの概要

KCFではSVMなどと同様に、入力x(画像の画素値の系列や特徴量ベクトル)に重みwを掛け、バイアスbを足すことで得られる出力値f(x)から画像中に映っている物体が対象としている物かどうかを判定します(式1)。式1は説明を簡単にするために線形識別関数としています。

学習フェーズでは、この重みw、バイアスbの最適値を式2の目的関数を最小化することで求めます。L( )はロス関数で、推定結果f(x)と真値yの誤差が大きい程大きな値を取ります。λの掛かっている項は正則化項と呼ばれ、重みwが大きな値を取り複雑なモデルになり過ぎないようにするためのものです。

物体の追跡では、真値yは追跡対象の物体が1, それ以外が0となります。KCFでは、2クラス識別である必要が無いため、論文では追跡対象の物体を1、そこから位置がずれるにつれて0に近づくような真値を与え、回帰問題として解いています。

KCFの最も興味深い点は、探索窓を追跡対象の物体領域周辺で1ピクセルずつシフトした画像群を生成し、それらを式1に示すcirculant matrixes(巡回行列)として扱うことです(式3)。この巡回行列では、1ピクセルずつシフトした画像は行列の各行に該当します。

そして、この巡回行列とベクトルの積は、式4の通りフーリエ空間のみで計算することができます。この巡回行列の特性を用いることで、繰り返し処理が不要な高速処理が実現できるわけです。

物体の追跡処理では、学習フェーズで求めた重みwとバイアスbを用いてf(x)の値を計算し、その最大値を追跡対象の物体位置とします。

KCFによるトラッキング結果は動画1の通りです。筆者が使ってみた感想としては、人間の手など見え方が変化する物体でも最も高精度に追跡することができていました。動きが速い物体の場合、巡回行列の生成範囲を超えてしまう可能性があるのでOpenCVのソースコードに手を加える必要があるかもしれません。実際に、TLDなどと性能を比較してみることをお勧めします。KCFの詳細について知りたい方は、参考文献[1][2]を読んでみて下さい!

動画1 KCFによるトラッキング結果

参考文献
[1] Henriques, J., Caseiro, R., Martins, P., & Batista, J. Exploiting the circulant structure of tracking-by-detection with kernels. In proceedings of the European Conference on Computer Vision, 2012.
[2] Danelljan, M., Khan, F. S., Felsberg, M., & Weijer, J. Van De.: Adaptive Color Attributes for Real-Time Visual Tracking. In CVPR2014.

著者プロフィール
樋口未来(ひぐち・みらい)
日立製作所 日立研究所に入社後、自動車向けステレオカメラ、監視カメラの研究開発に従事。2011年から1年間、米国カーネギーメロン大学にて客員研究員としてカメラキャリブレーション技術の研究に携わる。

日立製作所を退職後、2016年6月にグローバルウォーカーズ株式会社を設立し、CTOとして画像/映像コンテンツ×テクノロジーをテーマにコンピュータビジョン、機械学習の研究開発に従事している。また、東京大学大学院博士課程に在学し、一人称視点映像(First-person vision, Egocentric vision)の解析に関する研究を行っている。具体的には、頭部に装着したカメラで撮影した一人称視点映像を用いて、人と人のインタラクション時の非言語コミュニケーション(うなずき等)を観測し、機械学習の枠組みでカメラ装着者がどのような人物かを推定する技術の研究に取り組んでいる。

専門:コンピュータビジョン、機械学習

(樋口未来)