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前回は、ヘリコプターの操縦操作に関する基本的な考え方について説明した。実は、ヘリコプターが飛ぶ際に関わってくる原理原則が、ヘリコプターの最高速度を規定する原因にもなっている。

○サイクリック・ピッチとは

前回、機体の姿勢や進行方向を指示する手段となる「サイクリック・ピッチ・スティック」を取り上げた。ピッチとは迎角のことで、サイクリックとは「周期的」という意味だ。では、「周期的にピッチが変わる」とは?

ということで、ヘリコプターを真上から見てみたい。真上から見ると、メインローターが回転している様子がわかる。空中停止している場合は全体で均一に浮揚力を発揮しているが、ヘリコプターが前後左右いずれかの向きに移動する場面では話が違ってくる。

わかりやすいところで、前進している場合を考える、メインローターの回転方向には、メーカーによって「右回り」派と「左回り」派がいるが、ここでは左回り(反時計回り)ということにしておいて話を進める。この選択に、特に深い意味はない。

さて。左回りのメインローターを持つヘリコプターが前進すると、右半分の回転面では、機体の進行方向に逆らいながらブレードが空気を切り裂いて回転することになる。それによって揚力を生み出す。

一方、左半分の回転面では、機体の進行方向と同じ向きにブレードが進むことになるので、周囲の空気に対するブレードの速度が、機体の前進速度の分だけ減ってしまう。つまり、その分だけ揚力が減ってしまう。

すると、右半分と左半分で揚力のアンバランスが生じる。左回りの場合、右側の揚力が左側の揚力より大きくなる理屈だ。そこで、ブレードの位置に応じてブレードの迎角を変えてやる必要がある。

ブレードが真後ろを向いた状態からスタートして、右真横に向けて回転していく過程で、迎角を少しずつ減らして、発生する揚力を減らす。真横を過ぎたら、また迎角を少しずつ増やす。ブレードが真正面を向いたら、今度は左真横に向けて回転していく過程で、さらに迎角を増やして、発生する揚力を増やす。左真横を過ぎたら、迎角を少しずつ減らしていく。

つまり、前進速度の分だけ揚力が増える右半分では迎角を減らし、前進速度の分だけ揚力が減る左半分では迎角を増やす。こうすることで左右のバランスをとる。その際に、迎角の変化がメインローターの回転に合わせた周期的なものになるので、サイクリック・ピッチという。

なお、右回りの場合でも考え方は同じで、向きが逆になるだけだ。

ところが実際には、ジャイロスコピック・プリセッションという現象があるので、上で書いた通りには話が進まない。

ジャイロスコピック・プリセッションとは、「回転体の回転軸を傾けるようにトルクを加えると、位相が90度遅れたところに同じ大きさのトルクを加えた場合と同じ挙動になる」という現象だ。

これでは何のことだかよくわからないが、先に書いた話に当てはめると、揚力を増減させたい位置と、実際に迎角を変える位置を、90度ずらす必要があるという話になる。

ともあれ、「メインローターのブレードは、回転しながら周期的に迎角を変えている」というところだけ分かっていただければ。

○サイクリック・ピッチと回転面の傾き制御

このサイクリック・ピッチ制御を利用すると、回転面の傾きを変えられる理屈になる。

まず、ローターの右半分と左半分の揚力が釣り合っている状態を想定する。そこで、サイクリック・ピッチ制御による迎角変化のタイミングを変えれば、例えば右半分の揚力を増やして左半分の揚力を減らすことができる。すると結果として、回転面を左に傾ける力が発生して、機体は左に進む。その他の向きについても同様である。

つまり、ブレードが、どの範囲を向いているときに迎角を増やすか(または減らすか)を変えれば、任意の向きに回転面を傾けられる、つまり進行方向を変えられる理屈になる。

上の写真を見ると、メインローター・ブレードが付け根から先端部に向けて、ねじれている様子が分かると思う。付け根に近い方が太く見える、つまり強くねじられており、それだけ大きな揚力を生み出せるようになっているわけだ。この話は前回に書いた。

続いて前進飛行中の写真を出すが、4枚あるブレードの厚み(迎角の大小)がそれぞれ違う様子がおわかりいただけるだろうか。なお、ローター・ブレードの操作による回転面の傾きにはおのずから限度があるから、全速力で前進したいときに、以下の写真みたいに、機体そのものを大きく前傾させることもある。

この写真で注目してほしいのは、操縦席左側の副操縦士席。扉を外した状態になっているので、左手でコレクティブ・ピッチ・レバーをめいっぱい引き上げている様子が明瞭にわかる。

○ローター失速

ただ、ヘリコプターには前進できる速度を制約する、いわゆるローター失速という問題がある。前進速度が上がると、ローターが揚力を生み出せなくなる問題だ。引き続き、左回りのメインローターを前提にして話を進める。

左半分の領域では追い風になるから、その分だけ揚力を増やすために迎角を増やす。しかし固定翼機の主翼と同じで、迎角を増やしすぎると失速してしまう。

一方、右半分の領域では機体の前進速度が上がるにつれてローター・ブレードの前進速度も上がるから、端の方からブレードの速度が音速に接近して、衝撃波の発生と抵抗の増加が生じる。

また、メインローターの回転数を増やした場合も、ローターの前進速度が上がってしまうから、これまた衝撃波の制限に直面することになる。

これらの要因により、速度が上がっていくとメインローターが揚力を生み出せなくなるので、そのせいで最高速度が制約される。その結果として、ヘリコプターの最高速度は、理論値では400km/h程度とされている。

ただし、そこまで最高速度を引き上げようとすると所要エンジン出力が大きくなり、エンジンばかりが場所をとったり、搭載量が制約されたりして、非実用的な機体ができてしまう。だから、実用的な機体を作れる最高速度の上限は300km/h程度とされているようだ。

つまり、回転するローターを使って揚力と推進力を生み出そうとする限り、超音速飛行は夢物語、それよりはるかに低いところで限界が来てしまうわけだ。

すると、「メインローターを使って揚力と推進力を得ようとするからいけないのだ。別の方法で揚力と推進力を発揮できれば、さらなる速度向上が可能になるのではないか?」という話になる。ということで、なにかと話題の、あの機体の話に行き着くのだが、その前に別の話をしてから。

(井上孝司)