ロジャー・フェデラー(スイス)の全豪オープン復活優勝の余韻が冷めやらぬテニス界は、2月上旬のデビスカップを終えると、ページをめくるように新たなチャプターへと移行していく。


すべてのサーフェスのなかでもっとも高い勝率を残しているのがクレーだ 次のグランドスラムである「全仏オープン」の開幕は5月下旬。それまでの間に存在する最大のイベントは、3〜4月にかけて米国インディアンウェルズとマイアミで続けて開催される大型マスターズ2大会だ。その北米での大会に向け、選手が選ぶ「ATPツアー」の旅路は、欧州及び中東を中心としたルート、もしくは北中米の大会群、そしてアルゼンチンからブラジルを回る南米ルートが存在する。

 いずれの道を選ぼうとも、トップ選手たちが最終的に到る地点は、北米の西海岸。ただし、この南米ルートがやや異質なのは、ブラジルおよびアルゼンチン開催の2大会がいずれもクレー(赤土)のコートである点だ。

 例年、2月はメンフィスとアカプルコ、あるいは初優勝の思い出が眠るデルレイビーチ選手権などに出ていた錦織圭だが、今年は進路を拠点のフロリダ半島から大きく南にとり、ブエノスアイレス、そしてリオデジャネイロ大会に出場する。なお、大会のグレードはブエノスアイレスが「ATP250」で、リオが「ATP500」。これは、昨年出場したメンフィスとアカプルコにそれぞれ対応する格付けだ。

「新たな挑戦ではあります。去年優勝したメンフィスに出ないのは寂しい思いもありますが、クレーで今まで活躍できているだけに、ここでポイントを獲りに行く」

 昨年末、南米ルートを選んだ理由を問われた錦織は、そう簡潔に説明した。

 昨年の錦織はメンフィスを制したが、1週あけて出場したアカプルコでは2回戦で敗退。そこからデビスカップに出るため英国へと向かい、1週間後にはアメリカ西海岸へと戻る大移動をした。

 そのタフなスケジュールのなかでも、インディアンウェルズではベスト8進出を果たしたが、今年さらなるポイントの上乗せが期待できるのは、やはりアカプルコとインディアンウェルズの週だろう。そのために今季の錦織が選んだのが、勝率.718の好戦績を残すクレーコートであり、なおかつ移動距離や環境の変化を抑えられる南米ルートだった。

「非常にいい選択だ」と、このスケジュールに自信を見せたのは、コーチのマイケル・チャンである。

「彼はクレーで、いつもすばらしいプレーができている。それにリオは、昨年のオリンピックで活躍したいい思い出もある。肝心なのは、ハードコートからクレーコートへの適応だが、それも時間があるので問題ない」

 そのように、チャン・コーチは続けた。そう……今年の錦織は「ハードコートからクレーコートへの調整」が必要だったため、なおのこと、全豪直後にインドア・ハードコートで行なわれるデビスカップに出るのは難しかったのだ。

「圭には時間が必要だ。彼は今まで、日本だろうが海外だろうが、どこで開催されても日本のためにデビスカップに出ていた。ただ今回は、全豪後に練習する時間が必要だ。長い視野で見たとき、今回のデ杯欠場は致し方ないものだ」。チャン・コーチは、そのようにも説明した。

 また、リオからインディアンウェルズまでの間に約10日間、再調整できることも今年のスケジュールの利点。

「次に大切になるのは、インディアンウェルズとマイアミの2大会。クレーからふたたびハードへと変わることになるが、その適応の時間も十分ある。しっかり準備してから、マスターズに入っていけるだろう」

 インディアンウェルズの前には、チャン・コーチをはじめとするチームスタッフが全員揃ってトレーニングや調整ができる。それら時間的余裕も考慮したうえでの、今年の南米ルート選択だ。

 クレーコートは、錦織がチャン・コーチに師事し始めた3年前から現在までに、もっとも大きな成長の足跡を刻んできたコートサーフェスである。

 それまでは「どうポイントを獲ればいいかわからず、苦手意識しかなかった」という赤土で、チャンは錦織に、前に踏み込みバウンド後の早いタイミングでボールを捕らえ、相手に先んじて球を前後左右に散らす新たなイデオロギーを授けた。また、球足が遅いためサーブの優位性が薄れるコートでは、ビッグサーバーと対戦したときでも「リターンでイーブンに持ち込み、ストローク戦へとつなげられる」という精神的余裕も生まれる。

「これだけ結果が出ると、好きにならざるを得ない」

 昨年の全仏直前、錦織は赤土への想いをそう打ち明け、照れたような笑顔をこぼしていた。

 その5月の全仏までに、今、錦織が目指すのはランキング4位以内に入ること。そうすれば、グランドスラムでも第4シード以上がつき、上位進出への道が開ける。

「好きにならざるを得ない」赤土のロードが、夢の実現へとつながっていく。

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