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●大手キャリアとサブブランドの境界
「ワイモバイル」「UQ mobile」など、大手携帯キャリアが最近、低価格なサブブランドに力を入れる動きが目立っているが、一方で大手キャリアのメインブランドでも、学割で安価に利用できる施策を打ち出すなど、双方の立ち位置がやや不明瞭な部分も見え隠れする。大手キャリアはサブブランドをどのように活用しているのだろうか。

○境界が曖昧に見えるサブブランド

低価格でスマートフォンが利用できるサービスの人気が急速に高まっているが、そうした中でも最近、積極的なテレビCM攻勢などで注目を高めているのが「ワイモバイル」と「UQ mobile」の2つ。そしてこれらはいずれも、大手キャリアが大きく関与している通信サービスであるという点で、共通している。

実際、ワイモバイルは「ソフトバンク」ブランドでモバイル通信サービスを提供するソフトバンクのサブブランドとして位置付けられている。またUQ mobileは、キャリアから回線を借りてサービスを提供するMVNOという立場ではあるものの、やはり「au」ブランドでモバイル通信サービスを提供する、KDDI傘下の「UQコミュニケーションズ」が提供するサービスであり、その回線を借りる先もKDDIとなっていることから、実質的にサブブランドというべき位置付けとなりつつある。

これらはいずれも、大手キャリアのメインブランドより安価な料金でサービスを提供している点で共通している。実際、双方の主力料金プラン「スマホプラン」「ぴったりプラン」は月額2.980円、さらに1年間は1,980円で利用できる割引施策などを提供していることから、安くても5,000円はかかる大手キャリアのスマートフォン向け料金プランと比べると、かなり安く利用できるのは確かだ。

しかしながら一方で、大手キャリアの戦略を見ていると、時折そうしたサブブランドの領域を侵食するように見える施策を打ち出すことがある。例えば今年の学割施策において、KDDIとソフトバンクは共に、18歳以下の新規利用者に向け、固定回線の契約や親の回線も新規契約するなどさまざまな条件は必要となるものの、高速通信容量が3GBまでであれば、月額2,980円から利用できる料金プランを提供している。当然ながら2,980円という金額は、それぞれのサブブランドの料金に匹敵する価格だ。

さらにソフトバンクに関して言うならば、ソフトバンクとワイモバイル、双方においてヤフーの「Yahoo!ショッピング」との連携施策を打ち出している。ソフトバンクは期間限定のキャンペーンであるのに対し、ワイモバイルはYahoo! Japanの有料会員サービス「Yahoo!プレミアム」と同等のサービスが無料になるなど、一歩踏み込んだ施策となっているという違いはあるが、いずれも施策の狙いや方向性は共通している。

●線引きの曖昧さを活用
○実は曖昧さが有利に働く2ブランド戦略

一見するとこれらキャリアの施策は、メインブランドとサブブランドの使い分けにやや苦慮しているようにも見える。だが実は、その曖昧さこそが、2ブランド戦略の強みとなっているのだ。

サブブランドを展開していないNTTドコモの場合、回線を貸し出しているMVNOは別の会社となるため、両者にはサービスや戦略でも明確な区分けが存在する。それゆえ、例えばNTTドコモと取引のあるアップルのiPhoneを、資本関係のないMVNOに取り扱わせることや、安価なサービスを求めるユーザーに特定のMVNOを案内する“一体販売”のような施策を打つこともできない。

またそもそも、MVNOは別の企業であるため打ち出す戦略が、必ずしもNTTドコモの戦略とマッチしているとは限らない。例えば、多くのMVNOはコストを抑えるため実店舗がない、あるいは非常に少なく、しかも新規契約獲得を重視していることから、サポートより販売に重きを置きがちだ。

しかし低価格を求めるユーザーの中には、実店舗で安心してスマートフォンを購入し、充実したサポートを受けたいスマートフォン初心者もいる。そうしたニーズは大半のMVNOの戦略からこぼれ落ちてしまっており、他社のサブブランドに流出する要因にもなっている。それゆえNTTドコモは低価格端末「MONO」を提供するなど、メインブランドの側でMVNOからこぼれ落ちたニーズへの対応を迫られている。

だがソフトバンクやKDDIは、メインブランドだけでなくサブブランドにも大きく関与している。それゆえiPhoneのように、自社のリソースをフル活用してサブブランドで不足している要素を埋め合わせたり、一体営業によってメインブランドで抜け落ちているニーズをサブブランドで拾い上げたりするなど、相互に補完し柔軟性のある戦略をとることができるのだ。

確かに多様なニーズを満たす上では、どうしても戦略上重複する部分が出てくることがある。だがそれよりもむしろ、ユーザーニーズの“穴”を徹底して塞ぎ、ユーザーの流出を抑えられることが、2ブランド戦略のメリットとなっているわけだ。

●サブブランドはいつまで通用するか
○サブブランドにも影響を及ぼす総務省

とはいえ市場環境は刻々と変化しており、現在の2ブランド戦略がいつまでも通用するとは限らない。特に今後、キャリアの2ブランド戦略に大きく影響してくると考えられるのが、近年キャリアに厳しい姿勢を取り続けている総務省だ。

例えばソフトバンクの場合、去る2月1日に日本通信がソフトバンクと相互接続協定書を締結したことを発表。同社がソフトバンクのMVNOとして、3月22日より安価な通信サービスを提供することを明らかにしているのだが、これには日本通信とソフトバンクの交渉が不調に終わり、日本通信側が総務省に申し立てをした結果、日本通信に有利な判断がなされたことで、結果的に実現したものである。

ソフトバンクはワイモバイルの存在があることもあり、これまでMVNOへの回線貸し出しには消極的な立場をとっていた。だが今回の出来事を機としてソフトバンク回線を用いたMVNOが増えると見られていることから、NTTドコモのように低価格ユーザーに向けたサービスを、自社で制御しづらくなる可能性が高まると見られる。

またKDDIの場合、かねてよりUQ mobileのサービスと、mineo(ケイ・オプティコム)の「Aプラン」やIIJmio(インターネット・イニシアティブ)の「タイプA」など、傘下以外の企業が提供するKDDIの回線を用いたサービスとでは、技術的な仕組みの面でいくつかの違いが見られ、UQ mobileが有利な状況となっていることが度々指摘されている。こうした点が総務省の目に留まり、改善要求などがなされた場合は、KDDI傘下ならではの優位性が揺らぐ可能性もあるだろう。

総務省はMVNOの競争力拡大に向け、キャリアの施策だけでなく、キャリアのサブブランドに対しても厳しい目を光らせつつある。サブブランドを抱える両キャリアは、今後2ブランド戦略を一層強化する姿勢を見せているが、競争力強化のため一体運営を進めるほど、総務省の厳しい判断を受けることになるかもしれない。

(佐野正弘)