韓国が困れば日韓関係はよくなる?

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 韓国・釜山の日本総領事館前の慰安婦像設置で反日感情がヒートアップしているかと思いきや、日本を訪れる韓国人観光客は逆に増えている。その背景を産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏が解説する。

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 外国人の日本訪問客が昨年、2400万人を突破した。日本政府の観光振興策のせいもあるが急増だ。外国人観光客というと“爆買い”などで中国人客のことはよく話題になるが、予想以上に急増しているのが第二位の韓国人客。一昨年、400万人を突破し昨年はついに500万人突破となった。

 人口が13億を超える中国に比べ韓国の人口はわずか5000万だから、韓国人客がいかに多いかだ。韓国というと日本では反日イメージが強いが、韓国人は意外に日本好き?

 いや、日韓関係そのものは年初から釜山総領事館前の慰安婦像問題でまた揉めている。慰安婦アレルギー(?)の日本世論にはあらためて反韓・嫌韓ムードが広がり、日本政府は駐韓日本大使の一時帰国や経済協力中断など異例の“報復措置”を発表。本来なら韓国側で官民挙げて「日本ケシカラン!」と反日ムードが高まってもいいのだが、どうも盛り上がりを欠いている。

 この背景には、韓国が政治混乱で「日本どころではない……」という事情もある。

「崔順実スキャンダル」に端を発する朴槿恵大統領弾劾問題や、来るべき大統領選の前哨戦スタートで“政治大好き”の韓国人が国内政治で完全に浮ついているからだ。

 それに弾劾による大統領職権停止で外交機能もストップ。米国のトランプ新政権とのコネ作りがままならず、米軍の新ミサイル防衛網配備にイチャモンをつける中国からは韓流文化輸入規制など“報復”されている。韓国メディアの年初の話題は「外交的孤立」なのだ。

 経済も「崔順実スキャンダル」がらみで検察による財閥イジメが目立つ。サムスンをはじめ財閥のトップを呼び出すテレビ映りなど、目先のことしか考えない「ポピュリズム(大衆迎合主義)体質」の検察の無理やり捜査で、今年の韓国経済(企業)の展望は暗い。

 そんな情勢下で、日本の制裁まがいの慰安婦問題対抗策は意外な効果を発揮している。驚きと当惑の韓国政府やメディアは「日本とはこれ以上、ケンカできない……」というお手上げムードだし、慰安婦像問題でも「ウィーン条約」を紹介しながら、やっと「外国公館前への設置は国際法上まずいようだ」「撤去でなく移転なら」などといったまともな議論が出はじめた。

 韓国には申し訳ないが、韓国ウオッチャーたちの間では昔から「韓国が困れば日韓関係はよくなる」という言い草がある。今年はまさにそんな雰囲気のスタートである。

 したがって、500万人突破の訪日韓国人観光客は、若者や家族連れを中心に、反日には「それはそれ、これはこれ」という感じでますます“安近短”と“安心安全”の日本旅行を楽しむことになる。

 ところで年初にソウル・大阪を往復したが、近年の韓国人の日本旅行は大阪が人気トップである。金浦空港のミニ書店の観光ガイド本もほとんどが大阪ガイドでみんな版を重ねている。機内は韓国人が9割以上で、大阪名物を提供する関空ターミナルビルの食堂街も韓国人で溢れていた。

 ちなみに大阪人気を探ってみると「安い」「気楽で親しみがある」「東京より日本的」「食がおいしい」にはじまり、あとは「ディズニーランドは飽きた、ユニバーサル・スタジオの方が面白い」「京都、奈良、神戸も楽しめる」……など。

 昨年、韓国人客への嫌がらせではないかと騒がれた大阪の寿司屋の“ワサビ・テロ事件”(*)は早々に印象が薄れ、今年も韓国人は大阪を大いに楽しんでいる。

【*大阪の寿司店を訪れた韓国人客の寿司に、通常より多いわさびが盛られていたことがネットで拡散。批判を受けた寿司店は「海外のお客様はわさび増量の要望が多く、事前確認しないまま提供してしまった」と謝罪した】

 一方の日本人は、昨年やっと回復の兆しをみせた韓国旅行が釜山慰安婦像事件で逆戻りしそうだ。あらためて反韓・嫌韓感情を刺激され「それはそれ、これはこれ」の政経分離が難しくなった。日本人にも韓国同様、国民感情はある。韓国も“ジコチュウ愛国パフォーマンス”が国益を損なっていることをそろそろ自覚しなくっちゃあ。

●くろだ・かつひろ/1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。

※SAPIO2017年3月号