デザイン視点で「社会問題解決につながる住宅」を/積水ハウス 穐本敬子

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今を遡ること15年。積水ハウスの総合住宅研究所で、穐本敬子は間接照明について喧々諤々の議論を重ねていた。

彼女が間接照明にこだわっていたのは、「デザインの力」を信じていたからだ。

間接照明は、器具を意識させないため、空間を広く見せる効果がある。直接照明より柔らかい光は、雰囲気もよい。

けれども社内では、なかなか理解が得られなかった。間接照明は壁や天井の面に光を当てるため、壁紙の継ぎ目などが目立つことがあり、内装工事の手間がかかる。「クレームに繋がる」と反対意見は多かったが、実験や被験者の評価を説明し、やっと試作をさせてもらった。

ちょうどその頃、穐本は、研究チームのメンバーたちと、ホルモン分泌に影響する「色温度」の研究も進めていた。生体リズムに合わせて照明の色温度を変えられたら、暮らしはさらに快適になる。だが当時は、色温度を自在に変えられるLEDは高コストで使えなかった。穐本は、電球色の蛍光灯を2本組み合わせ、それを間接照明にし、色温度の調整を試みた。

こうした試行錯誤を経て、工事の手間は最低限で、色温度も変えられる「幕板照明」を穐本は発案した。今では、間接照明も、LEDで色温度を変えられる照明も一般的になった。穐本は、そのことにいち早く着目していたといえるだろう。

そもそも穐本がデザインの力を信じるようになったきっかけとはなんだろう。

1980年代から、積水ハウスは「生涯住宅」をコーポレートビジョンとしている。家族が年をとっても快適に暮らせるユニヴァーサルデザインの住宅だ。高齢者がつまづかない造りや、つかまりやすい手摺りなど、人間工学に基づき研究が重ねられ、取り入れられるようになっていた。

けれども、家を建てるとき、生活者が優先するのは、今の快適な暮らしだ。将来、手摺りがあると便利だと言われても「今はいらない」と感じてしまう。

そこで穐本は視点を変えてみた。

「例えば、手摺りだったら、美しい木で作られていたり、形が美しいと設置したくなるのではないか?と考えたのです」

生涯住宅や、ユニヴァーサルデザインを普及させるためには、機能的に優れ、かつ見た目もよいことが重要なのだ。穐本は、住宅展示場などで消費者の動きを観察し、そう気付いたのだった。

現在、穐本は、国際ユニヴァーサルデザイン協議会やキッズデザイン協議会などを通じ、社会的課題の解決に取り組んでいる。今、特に重要性を感じているのは、子どもの安全や創造性を育む子育て環境を支えるキッズデザインだ。

例えば、バルコニーからの子どもの落下事故は、バルコニーにガーデンファニチャーや植栽を置く家庭が増え、子どもがよじのぼって事故に繋がることがあるという。住宅メーカーがバルコニーの設計に配慮するだけでなく、家具メーカーなど、さまざまな業種での認識と対応が必要なのだ。使い方によって危険もあることを親たちに知ってもらう取り組みも重要だ。穐本は力強く語る。

協議会での活動が始まって10年。キッズデザインの認知は進み、子育て環境のあり方について考え、行動する次の段階に進もうとしている。高齢者と子育て世代をマンションの共有スペースで繋ぐタウン計画が現れている。共有スペースで遊ぶ子どもたちを高齢者が見守れば、皆が楽しく暮らせる。「そんな環境をデザインしたい」と穐本は語った。

<Questions>
Q 仕事で一番つらかった経験は?
特にありません。強いて言えば、こういう取材かな?

Q 好きな言葉は?
「とにかく続けなさい」。続けることで自分の目標が見えました。

Q 仕事をしていてよかったと思う瞬間は?
考えていたことが、商品などの形になって見えてきた時。

Q 今後3年間で挑戦したいことは?
巨匠アルヴァ・アアルトの名作建築を見に行くこと。

穐本敬子◎1984年、積水ハウス入社。新商品の開発・設計、ユニヴァーサルデザイン、キッズデザイン、サステナブルデザインなどの研究、設計手法の開発に幅広く携わる。特に、一級建築士として専門性を活かし、住宅技術や設計・提案手法に新たなデザインの力を拓いてきた。社外においてもキッズデザイン協議会、国際ユニヴァーサルデザイン協議会、建築研究開発コンソーシアムなどでの活動を通じ、社会課題の解決に力を注ぐ。

※フォーブス ジャパンは昨年12月19日、日本最大規模の女性アワード「JAPAN WOMEN AWARD 2016」を発表。”働きやすさ”ではなく”真の女性活躍”の促進・発信を目指す同アワードで、穐本敬子氏は革新をもたらすリーダーとして「個人部門賞」を受賞した。