2014年に『日本でいちばん大切にしたい会社大賞』を受賞した千葉オイレッシュの野村進一社長。「社員には家族がいる。その子供がお父さんの仕事に誇りを持てるような会社にしたい」

写真拡大

千葉県木更津市から1時間ほど内陸に入った山の中に「千葉オイレッシュ」はある。廃油を燃料に再生する事業を手掛ける同社は34年間、赤字になったことはない。

離職率はほぼゼロ。リストラ“ゼロ”を貫き、平均残業時間は月7時間程度。加えて社員数30人規模ながら平均年収は673万円を誇り、社員の“家族”にもボーナスを支給する――。

千葉オイレッシュはいかに、社員が誇れる会社に育ったのか? 前回記事「カネは社員のために貯める」に続き、野村進一社長(63歳)にその秘訣を聞いた。

前編では、社員から事業改善案を募る「提案カード」と、社員向けの決算発表会を半期ごとに実施する社内改革を断行、全社員が経営に参画する環境を整え、同業者も驚く革新的な「ブレンド燃料」の開発にこぎつけるところまでを伝えた。

このブレンド燃料は、まさに“逆転の発想”から生まれたものだ。

不況時、工場は油の交換回数を少なくするため、廃油はこれ以上汚れようのないくらいに汚れている。当然、再生率も低くなり、精製後も残さ物が増えることになる。つまり、再生油としてはなかなか売りにくい状況が発生するのだ。

そんな時、取引先の担当者から「エネルギーとして利用できるのなら、少しぐらい質が落ちても、コストさえ見合えば使用してみたい」との話を受けた。2006年、ここから社内で話し合いが始まった。そして検討の結果、逆転の発想で生まれたのが、廃油に汚水や添加物を加えて製造すれば、むしろエネルギー源として有効利用できるのではないのかとの案だった。

そして、それまでとは真逆の「ブレンド燃料」開発を大手取引先と共同で2年半かけて取り組むことになった。その結果、一見、廃棄物の固まりとも思えるこの燃料が、実は二酸化炭素や窒素酸化物の排出量が極めて小さいエコ燃料として流通することになる。

現在、千葉オイレッシュは30名(総務事務6名、企画営業3名、製造業務21名)体制で業務にあたっている。廃油の高い再生率や「ブレンド燃料」などで業界での評価は高いが、意外にも、特に開発などの技術に特化した役職はないという。

企画営業から1名と製造業務から2名、そして外部からNPO法人テクノサポートの応援を得て、リサイクル技術の開発が進められる。そこに社長の独断は一切ない。

「私にはワンマンになれるほどの力もない。だから正直、社員に頼るしかないんです(笑)」

そこで気になるのが、社員の待遇だ。自らが前職の銀行員時代、残業だらけの毎日を過ごしていた反省から「家族との時間を大切にしてほしい。ましてや体力を使う仕事だ」と、残業は月平均7時間前後に止めている。

その残業代がなくとも、平均給料は673万円! 社員30人の会社にも関わらず、社員数3ケタの企業の給与水準をキープしている。加えて、前回の冒頭でも伝えたが、千葉オイレッシュの特色はなんといっても3〜5年に一度、社員の家族にまで5万円程度のボーナスを支給していることだ。

「仕事柄、いろいろな会社に行きますが、普通のボーナスの他に社員の誕生日にプレゼントを贈呈するところがありました。いい制度と思いますが、私はもっと特別なボーナスを出せないものかと考えたんです。もうひと捻(ひね)りないかと。すると、ある時、あ、社員を支えている奥さんや家族に添え書きをして薄謝を進呈すればと思いついたんです」

これは当然喜ばれ、感謝の電話や手紙を返してくれる家族もいる。また、千葉オイレッシュでは毎年、福利厚生のための国内旅行、5年に1度のペースで海外旅行に出かけているが、全額会社もち。今年9月は3泊4日の香港旅行だった。

こうして、2014年3月には法政大学大学院の坂本光司教授が主催する『日本でいちばん大切にしたい会社大賞』で審査委員特別賞を受賞するのだが、同じ年、もうひとつの嬉しい評価を受けている。

地元の千葉信用金庫では、04年から取引先である地域の中小企業への支援の一環として「企業実地診断」を実施。これは中小企業診断士の資格を有する信金職員が6〜7名で取引先企業に1週間程度通い、その企業を診断するというものだ。

14年は千葉オイレッシュもその対象に選ばれた。野村社長は当初、緊張したという。

「『大切にしたい会社大賞』は、会社がもつ数字(離職率、残業時間、収益、正社員率など)を客観的に評価するものですが、信金の調査はそれに加え、社員からの聞き取りや職場のルールの適正、上司の指示の的確さなど、現場に踏み込んだアナログ的な調査が30項目もあるんです。

もしかしたら私も知らない社員の声が挙がるかもしれない。しかし、社長の私だからこそ聞けないことも確認してもらえるので関心はありました」

そして同年12月、公開された「企業診断報告書」によると、千葉オイレッシュは30項目すべてで指標値(中小企業126社の平均値)を上回った。

千葉信金は「こんな会社は初めてです」と高く評価。特に、社員のモチベーションを判断する「今後も働き続ける」「仕事・会社への安心感」「会社動向への関心度合い」「仕事のやりがい」の4項目は指標値の4〜6割台を大きく超える8〜9割台だった。

「よかった。社員は仕事を誇りに思っている」――野村社長は安堵したという。

それを証明するように、01年に退職者を出したのを最後に以後15年間、同社での離職者はゼロ。その退職者にしても解雇ではないため、実質的にはリストラゼロ経営が続いている。社員の約8割は中途採用者だが、誰も辞めない。なぜなのか?

野村社長は数人の社員にアンケート調査を試みたが、そこに“辞めない理由”が見て取れた。キーワードは「アットホーム感」である。

例えば、池田友紀さん(勤続7年)の場合、美容師だった前職時代は朝8時から夜11時まで働いていたが、有給休暇もない職場だった。だが今は残業がほとんどなく、社会保険も有給休暇も完備。加えて、「社員間のコミュニケーションがとりやすい」ことを評価している。彼女にとって「社員にやさしい」会社であるのが働き続ける理由だ。

総務部事務課係長の飯田麻美さんは勤続17年。働き続ける理由のひとつに、子育てに理解があることを挙げている。

「子供がいる私にとって、子供の急病や迎えなどを理解してもらえるのは助かります。産休から職場復帰した初日、『お帰りなさい』と言ってくれた男性社員がいて、とても嬉しかったです」

女性社員の妊娠や出産による長期休暇を嫌がる社員はここにはいない。ただ、飯田さんは週休2日を望んでいる(土曜日は15時まで)という。子供の学校行事が土曜日に多いため、自由に休暇を取れるとはいえ他の社員への申し訳なさを感じているためだ。だから「週休2日になるとありがたい」。

課長代理の松本和恵さん(勤続21年)にとって、今でも忘れられないのは「社員のひとりがくも膜下出血で倒れて入院した時、社員みんなで千羽鶴を折ったこと」。14年に地元紙でも、同社の社員が入院したら、皆が自主的に交代で見舞うことが報じられていた。

営業部BC製造課長の山下貴之さん(勤続12年)も「悩んでいる時、社員ひとりひとりが温かい声をかけてくれるし、会社が家族にも配慮してくれる」と「社員にやさしい経営」を高く評価している。

野村社長はこう強調した。

「私には目指す会社像があります。世の中は、いい大学を出ていい会社に入るのを、親も本人も望んでいます。でも弊社ではその8割が中途採用者です。その人たちが同じ人間として同じ仕事をする以上、“ここで働いてよかった”と思えるような温もりや雰囲気を作りたい。社員には家族があり、子供もいます。その子たちが学校でお父さんの仕事についての作文を書く時にも誇りを感じてもらえるような会社にしたい。

人間は幸せを求めて生きています。不幸になりたい人は誰もいません。ここでみんなに出会ってよかった。ここで働いてよかったと思ってくれれば最高です」

実際、山下さん(前出)はアンケートで「地球環境に配慮した仕事」に携わっていることも働き続ける理由として挙げている。廃油再生業界での廃油のリサイクル率は約50%が平均的だが、千葉オイレッシュではそれをはるかにしのぐ75%超だ。

ここまで読んで、同社で働きたいと思う若い人もいるかもしれない。だが残念ながら、同社は定期的な求人を行なっていない。役職会議で必要と判断した時だけハローワークを通じて求人しているからだ。だが今後、さらなる業績アップに伴う人員増が必要となれば、「定期求人も必要になるかもしれない」(野村社長)とのこと。

今回の取材で教えられたのは、「社員にやさしい」経営を行なうためには、同時に社会のニーズに合わせた堅実な経営維持も必要であることだ。千葉オイリッシュの場合、野村社長が「カネは社員のために貯めている」と語った通り、社員を思いやるブレない経営がその土台になっている。

昨年11月には、千葉県市原市に増設した新しいリサイクルプラントが稼働したばかりだ。次なるステージへ、野村社長の使命感は揺らがない。

「社員一同、当社の経営理念でもある『役に立つ会社であろう。信頼される会社であろう。バランスよく発展する会社であろう』を合言葉に、地域社会から必要とされる会社を目指して邁進してまいります」

(取材・文/樫田秀樹)