メキシコで作られることになる中国JACのS3 photo by Oscarq7911 via wikimedia commons(CC BY-SA 4.0)

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 米国の自動車メーカーがメキシコでの投資を中止した上に、メキシコ経済にとって死活問題になると懸念されている北米自由貿易協定(NAFTA)の継続がトランプ大統領の誕生によって難しくなっている。1月26日のトランプとペーニャ・ニエト両大統領の電話会談では前者が後者に<「メキシコとの国境でメキシコ軍が不法移民の入国コントロールに怠慢に対処しているようであれば米軍を送る」>と脅迫したこともAP通信によって確認されている。(参照:「El Pais」)

 メキシコにとって厳しい状況が今後も続いて行くように思える。

 そんな中で、メキシコ出身の世界的富豪のひとりカルロス・スリム氏もさまざまな動きを見せている。

 1月26日配信の記事「トランプの対メキシコ政策によって中国に思わぬビジネスチャンスが……」で、トランプの対メキシコ政策によって中国のメキシコでのイニシアチブが増しつつあることを報じたが、それがますます加速しそうなのである。

◆中国自動車メーカーJACのメキシコ進出

 2月2日に明らかになったところによれば、スリム氏が大株主のGiant Motorsと中国の自動車メーカー安徽江淮汽車(JAC)がジョイントベンチャーで車の生産をメキシコで開始するというのである。

 <投資額は44億ペソ(240億円)、今年の後半から生産開始の予定>とされ、<初年度は1万台、2年目からは年間4万台の生産>を見込んでいる。そして、この販売を担うのは昨年メキシコに現地法人を設置した繊維と化学品の専門商社である「蝶理」であることも報じられている。(参照:「El Pais」、「ALTO NIVEL」、「Forbes」)

 2006年設立のGiant Motorsはメキシコシティーから100km北上したイダルゴ州のサアグン市に所在し、そこでは既にジョイントベンチャーで同じく中国の第一汽車(FAW)の<トラックGF1500 MaxiとTruckGF5000 MaxDieselそしてMinivan GF600>を生産しており、<65000平米の敷地内に年間2万5000台の生産可能な2つの生産ライン>が既に存在している。その為、そこを拡張するだけでJACの車種を生産できる体制になることから、生産開始までの準備期間が比較的短くなっているのである。そこで生産される車種は<四輪駆動S2とS3>を予定しているとしている。(参照「ALTO NIVEL」)

 また、報道では、蝶理が販売を担当するというのは、他の国でも同社がJACの販売を担当していることが理由だとしている。

◆4000人規模の雇用創出

 JACの進出によって、<1000人の雇用>が確保され、<間接的に4000人以上の雇用>に繋がるようになるという。ちなみに、同社は、ラテンアメリカでは既に<ブラジルに進出>している。(参照:「El Pais」)

 メキシコにとって、フォードの16億ドル(1840億円)の投資、2800人の雇用には及ばないものの、これまでメキシコへの投資に関心の薄かった中国が、ここに来てメキシコ市場を投資の対象に見直していることにメキシコ政府は満足しているという。それは同時に、米国がメキシコと北米自由貿易協定に亀裂を生じさせていることと関係しているのは明白である。米国の南の国とでも称せるようなメキシコと米国がこれまでの密接な関係が崩壊していることを示しており、中国にとって今がメキシコへの投資の絶好の機会になりつつあるのだ。

<文/白石和幸 photo by Oscarq7911 via wikimedia commons(CC BY-SA 4.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。