脳の中には蓄えられている様々な記憶を互いに結びつける細胞の働きがあり、この働きを抑えると記憶のつながりを断ち切り、嫌な記憶を思い出さないようにする研究を富山大学などのチームがまとめた。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、記憶に関わる精神疾患の新たな治療法の開発につながる可能性がある。研究成果は米科学誌「サイエンス」(電子版)の2017年1月27日号に発表された。

甘い水と電気ショックの記憶を断ち切る

富山大学の発表資料によると、研究チームは、マウスを使い、音を通じて味覚と電気ショックの恐怖体験を結びつける実験を行なった。まずブザー音を鳴らしながら電気刺激を与え、恐怖の記憶を植え付ける。続いてブザー音を鳴らしながら、甘い水を与える実験を繰り返す。すると、マウスは甘い水を飲むだけで、ブザー音とともに電気刺激の恐怖を思い出し、身をすくめるようになった。本来、電気刺激と甘い水は関係がないはずだが、ブザー音の記憶によって結びつけられたわけだ。

こうした実験の最中に、脳の中でどんな記憶が作られたのか観察すると、電気刺激の恐怖の記憶と甘い水の記憶は、それぞれ脳の扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる部位で異なる神経細胞組織に蓄えられた。そして、2つの細胞組織が一部で重なり合うと、両方の記憶がつながった。重なった部分の細胞組織の働きを抑えると、マウスは甘い水を飲んでも電気刺激の恐怖を思い出さなくなり、身をすくめる行動をとらなくなった。2つの記憶が分離されたわけだ。また、2つの記憶を切り離した後でも、個々の記憶に影響を与えることはなかった。

研究チームでは発表資料の中で「重なった記憶の部分は、記憶の連合だけに関与し、それぞれの記憶を思い出す時には必要がないことがわかりました。不要な結びつきを切り離すことで、嫌な出来事のフラッシュバックで苦しむPTSDなどの疾患の治療に役立つ可能性があります」とコメントしている。