北海道コンサドーレ札幌のMF稲本潤一【写真:黒田史夫】

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「早く試合がしたいですね」(稲本潤一)

 5シーズンぶりとなりJ1の戦いに挑む北海道コンサドーレ札幌が、1月中旬から温暖な沖縄で入念な第1次キャンプを積んでいる。昨シーズンからグローインペイン症候群に悩まされている小野伸二。そして、右ひざの前十字じん帯断裂の大けがからの復帰を目指す稲本潤一。札幌の地で初めて同じユニフォームに袖を通して3シーズン目になる、1979年度生まれの「黄金世代」を象徴する2人の元日本代表MFの現在位置を追った。(取材・文・藤江直人)

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 チームメイトの誰よりも日焼けした表情が、順調な調整ぶりを物語っている。常夏のハワイで自主トレを積み、満を持した状態で臨んだ沖縄・金武町での第1次キャンプ。右ひざ前十字じん帯断裂からの復活を期す、北海道コンサドーレ札幌のMF稲本潤一は「早く試合がしたいですね」と声を弾ませた。

「順調に回復していますし、開幕に間に合えば間に合わせたいと思っています。もちろん開幕に合わせて調整はしていくつもりですけど、それはメディカルと右ひざのコンディション次第となるので」

 突然の悪夢に襲われたのは昨年6月4日。札幌ドームにジェフユナイテッド千葉を迎えた、J2第16節の前半14分だった。カウンターを仕掛けるMF町田也真人の左後方から、5試合ぶりに先発した稲本がトップスピードで追いつき、スライディングタックルを仕掛けた直後だった。

 稲本らしいアグレッシブなプレーでボールを刈り獲ったものの、町田ともつれた際に右ひざが悲鳴をあげる。苦痛に顔をゆがめながら、担架に乗せられてピッチを後にした稲本に告げられたのは、全治までに8ヶ月を要する、つまりシーズン中の復帰がほぼ絶望となる大けがだった。

 ジーコジャパンの一員として戦った2004年の6月にも、長期離脱を強いられる大けがを負っている。マンチェスターで行われたイングランド代表との国際親善試合。1‐1で迎えた後半アディショナルタイムにMFニッキー・バットと空中で競り合い、着地したときに左足を強打した。

 そのまま福西崇史(当時ジュビロ磐田)と交代した稲本は精密検査の結果、左足首を骨折していることが判明。全治3ヶ月の重症で、アーセナルから期限付き移籍中だったフラムFCへの完全移籍の交渉が破談となる苦い思いも味わわされている。

「あのときよりも、すでに長く休んでいるのでね。その分、J1での戦いを楽しみたいと個人的には思っているし、もちろんチームに勝利をもたらすプレーやいい影響力を与えるプレーは、J1やJ2に関係なく、ピッチのうえでやっていけたらと思っています」

 これを縁と呼ぶのかもしれない。くだんのイングランド戦の後半8分に、流れるようなパス回しから豪快な同点ゴールを決めているMF小野伸二(当時フェイエノールト)と、代表チーム以外で初めて同じユニフォームに袖を通して2017シーズンで3年目になる。

「黄金世代」のなかでも突出した実績を持つ2人

 ともに1979年9月に、それも稲本が9日早い18日に産声をあげた。そろって出場した1999年のワールドユース選手権(現U‐20ワールドカップ)で準優勝の快挙を達成。いつしか「黄金世代」と呼ばれた1979年組のなかでも、稲本と小野は突出した実績をそのキャリアに刻んできた。

 そして、ハイライトのひとつが2002年6月4日となる。くしくも右ひざに大けがを負った日のちょうど14年前に、稲本は埼玉スタジアムでまばゆいスポットライトを浴びていた。

 ベルギー代表と対峙した、ワールドカップ日韓共催大会のグループリーグ初戦。ボランチの位置から豪快なドリブルで縦へ抜け出し、一時は2‐1と逆転するファインゴールを決めたのは後半22分だった。

 その3分前に決まったFW鈴木隆行(当時鹿島アントラーズ)の起死回生の同点弾を、ピンポイントのロングパスでアシストしたのは小野だった。ポジションは3‐5‐2の左ワイド。開幕直前に虫垂炎を患いながらも、多彩なテクニックを駆使して攻撃に絶妙のアクセントを加える役割をまっとうした。

 ワールドカップが開幕する約1ヶ月前。小野が所属していたフェイエノールトはボルシア・ドルトムントを3‐2で撃破してUEFAカップを制覇。つまり、ヨーロッパの頂点に立っている。結果的に決勝点となるデンマーク代表FWヨン・ダール・トマソンの3点目をアシストしたのは小野だった。

 稀代の天才と謳われた小野はしかし、部分的にコンサドーレの全体練習に合流している稲本とは異なり、沖縄キャンプ初日から完全に別メニューでの調整が続いている。

 金武町のグラウンドに隣接した施設で器具を使ったトレーニングをする日もあれば、宿泊しているホテルのプールでウォーキングする日もある。原因は昨シーズンから悩まされているグローインペイン症候群。股関節に発生する疲労性の痛みがなかなか治まらないと、四方田修平監督は状況を説明する。

「ちょっと個人差があるけがで、骨折などと違って、全治何ヶ月とは言えない。無理をすればできるんですけど、ちょっとプレーしてまた痛みが大きくなるよりは、根本的に痛みを取り除きたいとチームとしては考えているので。いまは焦らずという感じで、見通しが立っていない状況ですね」

小野がチームに与える計り知れないほどの影響

 ウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCから加入したのは2014年6月。以来、度重なるけがに見舞われ続け、ピッチのうえでは決して満足できる数字を残していない小野だが、それでもチームには計り知れないほど大きな影響を与えている。四方田監督はこんな話をしてくれたことがある。

「誰よりも早くきて体のケアをしているし、全員でランニングするときには先頭に立っている姿を含めて、日々のトレーニングの雰囲気を非常によくしてくれている。本当に助かっていますよね」

 練習拠点である「宮の沢白い恋人サッカー場」へ小野が到着するのは、練習開始時間のおよそ2時間前。常に入念な準備をほどこすサッカーに対する真摯な姿勢は、4度目のJ2降格を喫した2012シーズン以降、アカデミー出身の若手が多くなったコンサドーレを無言でけん引した。

 そして、ひとたびボールを使ったメニューが始まれば、ボールタッチだけで周囲をうっとりさせる。卓越した技術はまったく錆びついていない。だからこそ、けがの連鎖に忸怩たる思いを募らせているはずだが、それで沈み込むような選手ではない。

 後半途中から、それも最長で20分程度の出場が続いていた昨シーズンの夏。コンサドーレはJ2戦線の首位を独走していたが、終盤戦で必ず正念場が訪れることを長いキャリアが告げていたのだろう。小野はこんな言葉を残している。

「チームとしてそういう(プレッシャーを感じる)雰囲気になっても堂々とプレーできるように、みんなが自信をもって戦えるような環境を作っていきたい」

 果たして、コンサドーレは胸突き八丁の終盤戦にきて失速を強いられる。清水エスパルスと松本山雅FCの猛追を受け、特にメンタル面が袋小路に陥りかねない状況で、小野はリザーブやベンチに入れない若手や中堅選手をときには食事の席をともにしながら叱咤激励していた。

「やっぱり同じピッチに立って、試合をしたい」(稲本潤一)

 総合力が問われる土壇場で求められるのはチームの一体感。試合に出られない選手たちがレギュラー組に敬意を抱き、日々の練習でそれこそ120パーセントのパフォーマンスを発揮していくことで、お互いに切磋琢磨していく状況が生まれる。

 その象徴がジェフのホーム、フクダ電子アリーナに乗り込んだ第41節となる。1‐1のまま迎えた後半のアディショナルタイム。途中出場のFW内村圭宏が叩き込んだ奇跡の逆転ゴールが、最終節で引き分け以上の結果を残せば、5シーズンぶりにJ1へ復帰できる状況を生み出した。

 ファンやサポーターの間で語り継がれていくジェフ戦を小野はベンチで、稲本はスタンドで見届けた。いざ、J1の舞台へ。小野にとっては清水エスパルスに所属していた2012シーズン以来5年ぶり、稲本にとっては川崎フロンターレの一員だった2014シーズン以来、3年ぶりの帰還となる。

 小野に遅れること約7ヶ月。2015シーズンからコンサドーレの一員となった稲本が静かに語る。

「やっぱりシンジ(小野)と同じピッチに立って、試合をしたい気持ちはやっぱり強い。お互いけがをしていますけど、しっかりと治して、2人で活躍したいですね」

 2人が共演を果たしたのはこれまでに6度。一緒にピッチに立った時間は293分間にとどまっていて、なおかつ東京ヴェルディに苦杯をなめた昨シーズンの開幕戦を最後に途切れたままになっている。

 1999年のワールドユース組のその後を見ると、18人のベンチ入りメンバーのうち7人はすでに引退している。しかし、鹿島アントラーズのMF小笠原満男をはじめとして、今年で38歳になる選手たちの半数以上がピッチでボールを追いかけている。

 守護神の南雄太(横浜FC)らはJ2で。左サイドで存在感を放った本山雅志(ギラヴァンツ北九州)はJ3から捲土重来を期し、エースストライカーだった高原直泰(沖縄SV)は沖縄県社会人リーグで選手、監督、クラブの代表を兼任する新境地にチャレンジしている。


J1の舞台での初共演は、いつ実現するか

 同世代の盟友たち、もっといえばカズ(三浦知良=横浜FC)や中山雅史(J3アスルクラロ沼津)、ジュビロ磐田に新天地を求めた中村俊輔をはじめとする年上の選手たちが頑張っている姿が刺激になると、稲本も闘志を高ぶらせる。

「僕らくらいの年齢になって引退する選択をする人も、もちろんいると思います。それでも、まだピッチで頑張っている人数は多いと思うし、やっぱり負けたくないという気持ちはすごくありますね。やっぱり僕らの年代、ベテランと呼ばれる選手たちがもっと頑張って、引っ張っていけたらと思います」

 6日まで行われる沖縄キャンプ、その後の熊本県での第2次キャンプで、稲本は対人プレーを含めて全体練習に全面的に参加して、ゲーム体力やゲーム勘を取り戻していく段階に入る。黄金世代を象徴する2人のベテランへ、四方田監督はこんな期待をかけながら復帰を待っている。

「イナ(稲本)ならば守備で勢いをつけて相手を潰して、そこから思い切って出ていって得点に絡む。シンジ(小野)ならば他人にはできないような、得点につながるプレーができる。彼らが積み重ねてきた経験は、J1の厳しいゲームのなかで必ずいい影響をチームにもたらしてくれるので」

 岡田武史監督のもとで残留を果たした2001シーズンを除いて、コンサドーレは1998、2008、2012シーズンとすべて1年でJ2への降格を強いられてきた。稲本も「間違いなく去年よりも厳しい戦いになる」と覚悟しながら、MF兵藤慎剛(横浜F・マリノス)らの新戦力が加わった新チームに手応えを感じている。

「クオリティーの高い新しい選手が集まってきているし、そのなかでこれまで積み重ねてきたものにプラスアルファしていけるキャンプになっていると思う。あとは実戦で結果を残していくことですね」

 J1の舞台では初共演となる2人のランデブーは、果たしていつ実現する。敵地に乗り込む2月25日のベガルタ仙台戦から幕を開ける、全34試合を戦う長丁場へ。J1定着を目指すコンサドーレの戦いに、日本中のサッカーファンが注目する要素が加わった。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人