結婚して産めば褒められるけど、未婚で産むとすごーく怒られる

前回に引き続き、今回のネタも『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』。主人公は恋愛にはあまり興味がないけれど子供はほしいアラサー女子マギーで、結局のところ彼女は結婚して子供を産むものの、当初は「ご自宅セルフ人工授精」により夫を持たずに出産する計画でした。この「ご自宅セルフ人工授精」、日本でも既婚女性の妊活に使われている方法のようですが、映画を見た後に感じたのは、むしろ「夫はいらないけれど子供はほしい未婚女性」に向いた方法なのではないかということです。

というのも、「愛の行為」→「その結果の愛の産物」が自然妊娠の流れだとすれば、人工授精は「行為」→「その結果の産物」という具合に「愛」が完全に抜け落ちたものであり、だからこそ愛し合う夫婦の中には「私たちの子供と思えない」と悩む人もいるようですが、最初から「夫はいらない」と考える未婚女性にとっては、精子ドナーとの間に愛は不要、というよりむしろ邪魔です。精子ドナーである男友達からの「古典的なやり方で協力することもできるけど……」という申し出を、マギーが「ややこしくなるから」と断ったのはそのためです。

「身体から始まる愛もある」的ドラマチックな物言いは、つまるところ身体的接触で多くの人が勘違いしてしまうことの裏返しで、「だから子供が欲しかっただけなんだってば」といくらこっちが説明しても、「いやあのセックスには確実に愛があったはず」なんて相手が言い出した日には、これを引き下がらせるのはかなり骨の折れる大仕事。こじれた末に親権争いに……なんて展開になったりしたら、笑うに笑えません。

とはいうものの、こうしたマギーのような女性――選択的シングルマザーに対し、世の中は相当冷たいものです。結婚もせずに人工授精で出産ってなにその無責任、欲しいから作るなんてエゴでしかない、子供は親を選べないの典型、子供に聞かれたらどう説明するつもり?私生児が差別される辛さをわかってない、一人で育てられるほど子育ては甘いもんじゃない――などなど「正義」を盾に袋叩きにされることはほぼ間違いありません。

家族の「正しさ」に固執すれば、子供を産む人はどんどん減っていく

確かに「子供への説明」はちゃんと覚悟しておかねばなりませんが、それ以外はたいていが何か別のことでイライラしてる人たちの感情的かつ非生産的なつるし上げでしかありません。反論することはできますが、こうした絶対に納得しない無関係な人たちから飛んでくる矢は、今日のところはスルーするとして。それよりも私が気になるのは、彼らの「正義」に根拠を与えているものについてです。

そこには、「妊娠・出産までに踏むべき正しい手順」――「出会い」→「恋愛」→「結婚」→「妊娠・出産」――おきちんと踏んでこそ、正しい家族、正しい親たる資格があるという考え方なのではないかと思うのです。

でもそういう「正しさ」に固執しすぎると、子供産む人どんどん減っちゃうんじゃないかなあと思ったりもします。だって「出会いがないから結婚できない」と嘆く女子は、"絶対1セット"なら「出産」には永遠にたどり着けないし、相手がいて結婚しないことを選ぶ人も、さらに結婚しても「妊娠・出産」はパスしてしまうカップルも結構いるわけですから。子供が減る、つまり人口が減り、税収が減り、税金が上がり、年金保険料が上がり、年金給付年齢が上がり、医療費の本人負担が上がり、なんだかよくわからんうちに生活は大変なことになってゆきます。

まあ実際はこんなに単純ではないにしろ、子供を増やすための制度作りにも、八つ当たり的つるし上げをなくすためにも、第一歩として必要なのはこうした「正しさ」の転換であることは間違いありません。このままじゃヤバイんだから、未婚にしろ既婚にしろ、子供産みたい女子たちを肯定して、みんなで支えようじゃないか!?――ってならないで、電車でベビーカー邪魔!保育園の子供の声うるさい!になってしまうのはなんでなの、日本。マギーのセルフ人工授精を周囲が何の問題もせずにスルーするのを見るにつけ、その違いに呆然とします。

ちなみに生まれた子供はすぐには年金保険料は払ってくれません。子供が増えたことの成果が実になるには、女子たちが「子供を産もう」と思ってから20年以上はかかります。わかってるのかなあ。

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