2月3日から、東京・有明コロシアムで男子テニス国別対抗戦デビスカップ(以下デ杯)・ワールドグループ(以下WG)1回戦「日本vs.フランス」が行なわれている。しかし、日本のエースである錦織圭(ATPランキング5位、1月30日付け)は出場していない。

 オーストラリアン(全豪)オープン開幕前の1月中旬に、錦織から日本代表辞退が発表されて、次のように思いを語った。

「今回はたまたまスケジュールがまったく合わなかった。それが一番の理由です。今、(日本)チームはすごく強くなっていますし、上まで行きたい気持ちはかなりあるんですけど、(デ杯出場で)ケガをしてしまっては意味がないので、今回は辞退させてもらいました。これから自分がトップに近づくにつれて、体力的なところも考えないといけないので、葛藤はありました」

 WGでの試合で、錦織が代表辞退をするのは、2014年WG準々決勝チェコ戦以来で、この時は直前のマスターズ(以下MS)1000・マイアミ大会でのケガが理由だったので、今回と状況は異なる。

 日本のファンが、フランスという強豪国を相手にホームで錦織のプレーを見られないことは残念に思うが、個人的な見解としては、錦織の判断は賢明であり、トップ10に定着した約3年前から、このような事態はいつあってもおかしくないと考えていた。

 錦織からデ杯日本代表の植田実監督に相談があったのは、昨年末だったという。植田監督は、錦織の心情を汲み取って申し出を受け入れた。

「出てほしい気持ちはもちろんありました。ただ、圭が今年に賭けて、トップを目指す中で大会スケジュールの見直しをして、南米のクレー(ATPブエノスアイレス大会とリオデジャネイロ大会)を優先して、そっちに出てみたいということでした。僕は十分理解できました。(錦織は)デ杯に対する気持ちは人一倍あって、それだけのことをやってくれた。フランスとやる大切さももちろんわかっている。その中で決断したという本人の意思を尊重しました」

 かつて錦織と一緒に戦った元日本代表メンバー添田豪(138位)も、32歳のベテランとして錦織の決断を支持している。

「彼にとってはいい判断だと思いますし、全豪があって、次にデ杯となると、この時点でかなり体力を消耗してしまう。まだまだこの先1年長いのに、この時点で疲れたり、ケガのリスクがあったりすると、今後に影響すると思います。今まで彼は毎回デ杯に出てくれて、日本のために戦ってくれたので、そういった意味で、今回出なかったことで僕らに不満はないです」

 フランス戦では、錦織の代わりに日本代表のシングルス1を任されることになった22歳の西岡良仁(85位)も錦織に理解を示し、若手の自分を抜擢してくれた監督の期待に応えようとしている。

「仕方がないとは思いますね。正直、テニス選手は(シーズンが)1月から始まって11月まであるので、全部出るわけにはいかないですし、どこかで休まないと。デ杯はすごい力を使うというか、気持ちの面でも、いろんなものをすごく消費する。だからこそ出る価値がもちろんあるんですけど、疲れは間違いなくくるので、仕方のない選択だと思います」

 また、錦織に帯同しているマイケル・チャンコーチも、錦織の負担を考えると、やはりやむを得ない決断だろうと考える。

「圭は毎回デビスカップでプレーしてきたけど、日本代表のために長距離移動するのはデリケートな部分が伴うし、決して容易なことではない。オーストラリアのハードコートから、(南米の大会は)コートサーフェスも変わる。以前なら、圭は3回戦や準々決勝で負けていたけど、今はどのトーナメントでも安定した結果を残していて、試合数も増えている。だから、圭の決断を尊重している。長い目で見て、今季のこれからを踏まえ、バランスを考えないといけないし、優先順位を決めないといけない」

 今回のWG1回戦で、代表を辞退しているのは何も錦織だけではない。イギリスではアンディ・マリー(1位)、スイスではロジャー・フェデラー(10位)やスタン・ワウリンカ(3位)が、錦織と同じように早々と辞退をしていた。さらに直前になって、全豪準優勝をしたスペインのラファエル・ナダル(6位)も辞退を表明した。

 トッププレーヤーの多くが辞退した背景には、WG1回戦の日程変更がある。ここ2年は3月の第1週だったが、今年から2月の第1週に変更された。ナダルのように、全豪で勝ち残るほど選手への負担は大きくなり、デ杯までに体を回復させるのは難しい。

 そもそも、トップ選手の辞退は決して今回に限ったことではない。以前からフェデラーやノバク・ジョコビッチ(2位)らはたびたび辞退をしていた。特に、グランドスラムで優勝争いをするような選手にとっては過酷なスケジュールになるため、ATPツアーの個人戦とデ杯団体戦の両立は難しい。グランドスラム優勝という目標のために、個人戦を優先させることはめずらしいことではない。

 2017年シーズンのデ杯のスケジュールは、準々決勝が4月7〜9日でMS1000・マイアミ大会の翌週、準決勝およびプレーオフ(入れ替え戦)が9月15〜17日でUS(全米)オープンの直後。決勝が11月24〜26日でATPワールドツアーファイナルズの翌週で、トップ選手にとって殺人的なスケジュールであるのは明らかだ。

 そのうえ、2016年シーズンから、オリンピック同様、デ杯もランキングポイントが付かなくなってしまった。変更について、男子ツアーを運営するATP(テニス選手協会)とデ杯を運営するITF(国際テニス連盟)で話し合いがあったということだけで、はっきりした理由は定かではない。

 最近では、デ杯の在り方が現在のツアーにそぐわなくなり、構造的変革の時を迎えているという意見も多い。例えば、ジョコビッチは改革を提案し続けているひとりだし、多くの選手から意見は出されている。5セットマッチから3セットマッチへの変更。世界各地の分散開催ではなく1カ国での集中開催へ。毎年開催ではなく隔年開催へ。金曜から日曜の3日開催を金曜と土曜の2日開催へ、といったものだ。だが、現時点でITFが受け入れた事項はない。

 植田監督は1900年から始まった伝統ある男子国別対抗戦に敬意を表しながらも、デ杯の存在価値を危惧し、現在の状況に不安を抱いている。

「(デ杯は)過渡期に来ている。トップ選手が出ないことを、ここ何年も続けるようなことがあったりすると、100年以上続いてきたデ杯に影響が出ます。この時期に(1回戦を)やるのはみんな反対していますよ。ポイントが付かない中で、どれだけの意義を選手たちに感じさせられるか。現場からITFに言いたいことです。賞金に関係なく、国のためにやろうという彼らの意志を、どれだけ選手生活につなげられるか。そういうバランスがとれていない。ATPと ITFが協議のうえで、どうデ杯を守っていくのか。選手たちによりよいツアー生活を1年でも長く過ごさせてあげることを考えていくことが重要です」

 錦織も含めた選手たちの代表辞退は、デ杯が現在抱える問題の氷山の一角に過ぎない。国のために頑張りたい選手ももちろんいるが、基本的にプロテニスは個人スポーツであるがゆえに、個人戦を優先させたい時があるのは至って自然なことだ。

 選手、そしてファンが置き去りになってしまうようなデ杯で決してあってはならないし、今後、デ杯がどのように変わっていくのか注視しなければならない。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi