2ステージ制だった昨季のJ1。ふたつのステージ順位を比べたとき、ファーストステージよりセカンドステージで順位を上げたクラブは、全部で7つある。それらのクラブは概ねシーズンの後半戦で調子を上げてきた、と見ることはできるだろう。

 なかでも、12位から2位へと大きく順位をジャンプアップさせたクラブがある。

 いわば、今季への期待をどこよりも大きく膨らませてくれたクラブ。それがヴィッセル神戸である。

 振り返ってみると、神戸は一昨季、ネルシーニョ監督が就任して以来、着実に進歩を遂げてきた。

 2015年のファーストステージは、勝ち点19の13位。総得点17、総失点19と、失点は少なかったものの、それ以上に得点が少ないことが響いた。その結果、4勝6敗7分けと勝ち切れない試合が目立ち、勝ち点を伸ばすことができなかった。

 続くセカンドステージも、再び勝ち点19の13位。総得点27、総失点30の数字が示すように、ファーストステージから大きく得点を増やす一方で、失点も激増した。結果は、6勝10敗1分け。勝ちは増えたが、それ以上に負けが増え、年間勝ち点でも12位に終わった。

 右へ舵を切れば右へ行きすぎ、左へ舵を切れば左へ行きすぎる。ネルシーニョ監督が就任した1年目のシーズンでは、神戸はなかなか正確な針路を取ることができずにいた。

 そんな神戸が、ようやく進むべき針路を定め始めた。それが、昨季だったのではないだろうか。

 ファーストステージこそ、5勝7敗5分けと負けが先行し、12位に甘んじた。だが、セカンドステージに入ると、11勝4敗2分けの勝ち点35で2位に躍進。総得点33、総失点18という数字は、失点を一昨季ファーストステージの水準まで戻すとともに、得点はほぼ倍増である。

 堅守をベースに、ボールを奪ったら一気に攻め切り、作ったチャンスは確実に生かす――。ネルシーニョ監督が志向するサッカーが、確実に結果に結びついてきたことを数字も証明している。

 昨季は年間勝ち点でも前シーズンの12位から7位にランクアップ。年間勝ち点トップを最終節まで争った浦和レッズ、川崎フロンターレには水をあけられたが、年間勝ち点3位の鹿島アントラーズとは、わずか勝ち点4差。AFCチャンピオンズリーグ出場が手に届くところまで迫っていた。

 上り調子という点ではJ1屈指と言っていい神戸。もちろん、このシーズンオフにも積極的な補強に取り組んだ。

 今季は新たに、日本代表経験を持つMF高橋秀人(FC東京→)、FW田中順也(柏レイソル→)、さらには、それぞれの前所属で主力として活躍したDF渡部博文(ベガルタ仙台→)、MF大森晃太郎(ガンバ大阪→)といった実力者が加入。彼らは、昨季後半の躍進をさらに加速させる存在として期待される。

 新戦力が早くチームにフィットすることは、彼らが直接的に戦力になることはもちろんだが、選手層を厚くし、さらには選手同士の競争を高め、チームとしての総合力を高めることにもつながるはずだ。

「(神戸というチームの)中に入ってみて、それぞれの選手が(対戦相手として)ピッチで戦っていたとき以上に、『ああ、いい選手だな』と思った」

 神戸の印象をそう語るのは、高橋だ。まだキャンプの段階とあって、「1シーズン戦うための体作りと、基本的なチームの戦術の練習が多い」と言いつつも、経験豊富なボランチは「そのなかで個人のアピールと、チームの戦術をしっかり理解することと、チームメイトの特徴を早くつかむというところを意識してプレーしている」と、積極的な姿勢をうかがわせる。

 また、新加入とはいえ、"勝手知ったるチーム"といった様子でキャンプに取り組んでいるのは、田中だ。田中は柏時代の2011年、ネルシーニョ監督のもと、J1を制した経験を持つ。

「戦術面の戸惑いはないので、練習はしやすい。監督がやろうとすることは、だいたいわかるし、他の選手もそれをわかって動くので、連係は取りやすい」

 再び恩師のもとでプレーする喜びを口にする田中は、新戦力である自身に求められているのは「得点」と言い切り、こう続ける。

「得点の部分で、チャンスを逃さないことが、ネルシーニョのサッカーにおいてはかなり大事になるので、来たチャンスで点を取ること。それが何よりも大事だと思う」

 神戸はすでに攻撃の2枚看板である、昨季19ゴールで得点王となったFWレアンドロと、12ゴールで得点ランク9位タイのFW渡邉千真を擁している。FWペドロ・ジュニオール(→鹿島)を失ったのは確かに痛いが、強烈な左足を武器とする田中がゴールを量産するようなら、神戸はJ1でもトップクラスの攻撃力を手にすることになるだろう。田中が語る。

「(レアンドロ、渡邉とは)もう連係はだいぶ取れてきているので、あとはもう少しコンディションを上げて、90分戦える体を作ること。筋トレのメニューが結構多いので、体作りはしっかりできていると思う」

 そして、新シーズン開幕を目前に控えた心境を問うと、間髪入れずに「楽しみですね」。笑顔とともにこんな言葉も返ってきた。

「スタートダッシュが大事になると思うので、そこだけ失敗しないようにしたい。たぶん(他クラブに比べて)始動も遅いし、まだ対外試合もしていないので、そういうところではちょっと不安はあるけれど、信じることのほうが大事かなと思うので。今自分たちがやっているメニューとか、流れとか、そういうものを信じて、必ず勝てるようにがんばりたい」

 高橋もまた、「楽しみでもあり、ワクワクでもあり」と笑みを浮かべ、こう語る。

「もちろん不安もいっぱいあるが、最終的には自分と、チームメイトと、このチーム全員を信じて、絶対に勝てるんだという強い気持ちを持って戦い抜くことが一番大事。そこは意識してやり続けたいと思う」

 ルーカス・ポドルスキの移籍加入がなるかどうかばかりに注目が集まりがちな神戸だが、決して元ドイツ代表FW頼みでシーズンの行方が決まるようなチーム状態ではないだろう。むしろ、移籍交渉が長引いて雑音に悩まされ、チームから集中力を奪ってしまうことのほうが心配なくらいである。

 進むべき針路が定まった今、新戦力というエネルギーを加え、さらに強化のスピードを上げることができれば、神戸が今季J1の優勝争いに加わってきてもなんら不思議はない。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki