お金に苦労せず、幸せに生きていくことを目指す【脱貧困診断】。今回の相談は、通信会社に勤める宇津木乃愛さん(仮名・30歳)さんから。

「同棲していた相手と婚約破棄になってしまい、ひとり暮らしをしようと思っています。敷金礼金ゼロの物件で探していたのですが住みたい物件がありません。敷金が3か月で礼金が1か月、敷金が2か月で礼金が2か月、敷金が1か月で礼金がゼロなど、物件によって違いますが、ディスカウントの交渉がしやすい組み合わせってありますか? そもそも、礼金、敷金ってなんでしょう? 敷金は退去するときに返ってくるんですよね?」

森井じゅんさんに教えていただきましょう。

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初期費用は家賃の6か月分

新しい人生のスタートですね。婚約破棄の経緯は分かりませんが、ひとり暮らしという自分だけのスペース、自分の気に入った空間を見つけたいですね。そのための費用を見ていきましょう。

新たに物件を借りる場合、最初に払うことになるお金はおよそ家賃の6か月分と言われています。

最近では、保証人を立てても、さらに保証会社への保証金が必要になることがあります。そういったケースではさらに初期負担がふくらみます。イメージ的には8万円の物件を借りるために50万円もの初期費用。この大きな支出の内訳は、敷金・礼金・仲介手数料・前家賃・前共益費・火災保険料などです。それらひとつひとつがどのようなものなのか見ていきましょう。

初期費用の中で、退去時に返金される可能性があるのは敷金だけ

敷金とは、家主・管理会社へ預入するお金。「担保」としての役割があり、家賃を滞納した場合や、部屋を汚したり壊したりした場合の修繕費に充てるもので、退去時に、残金が返金されます。つまり、何も問題がなければ全額戻ってくるものです。一方、契約書にハウスクリーニングやエアコン清掃代、クロスの張り替え代が借主負担であるという記載がある場合には注意が必要です。一般的には「戻ってくるお金」として認識されている敷金ですが、いくら返金になるかで揉め事も多いのが現状です。

とはいえ、家主からの提示額が大きすぎるような場合には、言われるがままに負担しなくてはいけないものでもありません。契約書に負担の記載があったとしても、相場とかけ離れている等その契約内容によっては無効となる場合があり、当初提示された返金額より多くが戻ってくるケースもあります。

いずれにしても初期費用の中で返金の可能性があるものは敷金だけです。これから以下に挙げる費用は戻ってくることはありません。

礼金

借り主から大家さんに支払う謝礼金です。借主さんが大家さんと良好な関係を築くために払うという趣旨ですね。

仲介手数料

物件を紹介してくれた不動産屋さんへの手数料です。国土交通省も仲介手数料は家賃の1か月分以内としており、家賃の1か月分が相場です。

家賃・前共益費

入居後1〜2か月分の家賃・共益費等を前払いで支払います。

火災保険料・鍵交換代

大家さんや不動産業者に勧められるままに入るのではなく、自分でリーズナブルなものを探せば、保険料を下げることはできますが、いずれにしても火災保険は必須です。鍵交換もセキュリティー上、必ずすべきものです。

物件探し・値下げ交渉のコツ

まず、複数の不動産屋さんと話をすること。それぞれの提案物件を見ることで、相場感を知ることができます。さらに、その不動産屋さんが自分に合う合わないかも分かります。

そして、不動産屋さんと仲良くなること。通常、私たちは不動産屋さんと話を進めるので、不動産屋さんと交渉している気になってしまいます。しかし、実際に敷金・礼金・家賃など契約条件を決めるのは大家さんです。不動産屋さんが私たちに代わって大家さんと交渉しているのです。このお客さんのために交渉頑張ってあげよう!  と思ってもらえた方が交渉の成功率もあがりますよね。

値下げ交渉する場合、礼金も敷金も、仲介手数料も家賃も全て下げて! と要求することはおすすめできませんし、すべてが通る可能性はほぼありません。面倒くさいお客さんだと思われるだけ。親身になってもらえず、交渉時間のムダになる可能性が高いです。

下げてもらいたい・下げてもらえそうなポイントに絞ってお願いするのが効率的に交渉する方法です。

仲介手数料や礼金、家賃の値下げ交渉を

敷金の値下げ交渉は、初期費用を下げるためだけなら○です。ただし、トータルでみて、あまりおトクにならない場合が多いです。初期費用の中で、敷金は唯一返ってくる可能性があるもの。敷金を下げもらったことで退去時に必要な支出が増えてしまう可能性もあります。

できるなら、返ってこない仲介手数料や礼金、家賃を下げたいところです。仲介手数料は不動産屋さんへの謝礼なので、礼金の方が値下げの余地があると言われています。また、借りようとしている物件の賃料が、周辺相場より高いなら家賃交渉しやすい物件ともいえます。

礼金と家賃、どちらを下げてもらったらおトク?

礼金を月割してみた金額と、家賃の下げ幅。これを比較して、どちらの額が大きくなりそうかで考えてください。
通常、物件は2年更新です。つまり、礼金は24か月で割って、その分を家賃に上乗せされているのと同じことです。

たとえば、礼金1か月分、7万2000円減額できた場合、月3000円の家賃減額と同等です。「礼金1か月分を減らしてください!」か「家賃を3千円下げてください!」というのとで、どちらが通りそうでしょうか。不動産屋さんによっても違ってくるので、そんなことも心にとめながら交渉戦略を練ってください。

ちなみに、値下げ交渉ではなく、エアコン交換や備品交換、洗浄トイレを改造してもらうことで話し合いが進むこともあります。その辺もご検討を。

値下げ交渉は物件を見てから

部屋を見てもいないのに値下げを要求するのはよくありません。一般的に、借りる気のない物件を、むやみに減額交渉するのは印象が悪いです。
大家さんに家賃値下げ交渉をしてくれるのは不動産屋さんです。値下げ交渉をする場合には、○○してくれたら借ります、という前提で交渉してください。また、交渉は、入居申し込みをする前(入居審査前)の段階でしか出来ません。成立した交渉をひっくり返す値引き交渉はルール違反です。

敷金礼金ゼロは本当におトク?

敷金礼金ゼロ物件にもその理由があります。たとえば、人気のない物件だったり周囲に問題があるケースだったり。
また、退去時負担金といって、退去時にまとまった金額を支払わなければいけない契約になっていたり、メンテナンス料や他の費目で毎月家賃への上乗せがある場合も。家賃が相場より高く設定されている場合もあります。

新たに物件を借りる事は大きな出費を伴います。しっかり内容を確認して交渉できるところは交渉し、気持ちのよい新たな一歩を踏み出してください。

引っ越しは断捨離のベストタイミング、とも言われていますよね。生活をコンパクトにすると本当に必要なものが見えてくるとかこないとか。



■賢人のまとめ
値下げ交渉をする場合には、〇〇してくれたら借ります、と借りる前提で交渉するのが賢い方法。また、入居申し込み後、成立した交渉をひっくり返す値引き交渉はルール違反ですので注意してください。

■プロフィール

女子マネーの達人 森井じゅん

1980年生まれ。高校を中退後、大検を取得。レイクランド大学ジャパンキャンパスを経てネバダ州立リノ大学に留学。留学中はカジノの経理部で日常経理を担当。

一女を出産し帰国後、シングルマザーとして子育てをしながら公認会計士資格を取得。平成26年に森井会計事務所を開設し、税務申告業務及びコンサル業務を行なっている。